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聖女は秘密の皇帝に抱かれる  作者: アルケミスト


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 まだ神殿を出てから十日あまり。


 しかし、今まで過ごしてきた静かで心穏やかな時間は一変し、ツェリルは傲慢なドゥラコンの相手や、女官たちとの付き合い、そして今の新たなネツという男の出現など、一向に気持ちが休まる時間がない。


 そもそも、次期皇帝を見つけるため、まずはドゥラコンの身体を確かめると決めたのに、まったく隙のない男になすすべもなく時間が経つだけだ。


 いつになったら神殿に戻れるのか、泣き言を言いたくなる。


 それでも、はじめに神殿を飛び出し、変装をしてまでドゥラコンに近づこうとしたのは自分の考えだ。


 何が正しいのか、間違っているのか。


 ツェリルは息を切らし、足が痛くなるまで走っても、今どうすればいいのかまったく考えつかなかった。


「は……っ、はっ」


 どのくらい走っただろうか。


 いつの間にか神殿まで辿り着いたツェリルは、突然の女宮の出現に驚く門番たちの間をすり抜けて中へと入る。


 そのまま、アリイェがいるはずの祭壇がある部屋へと飛び込んだが。


「……え?……」

 

 開け放った扉の向こうに立つ男の後ろ姿に、思わず足を止めてしまった。


 腰まである銀に近い金髪を後ろで一まとめにしている男は、この神殿には一人しかいない。


(ナメル、さま)


 神殿に仕える者にとっては、尊敬すべき高位の相手だ。


 だが、今のツェリルにとって、ナメルはドゥラコンとネツの幼友達だという印象の方が強かった。


 何をされたわけではないが、とても顔を合わせられない。


 祈るナメルに気づかれないよう、このまま踵を返そうとしたのに、


「どこへ行くのです?」


「……っ」


 穏やかな声に、その場に足が張り付いてしまった。


 その間に、金髪の男がこちらを向いた。


 彼の特徴でもある眼鏡の向こうの切れ長の目がツェリルを射抜く。


 涼やかな美貌はドゥラコンともネツとも趣が違うが、ひときわ派手に見えてしまうのは、口元に浮かぶ艶やかな笑みのせいかもしれなかった。


 珍しい紫の瞳に、ツェリルは誤魔化す言葉を失う。


 ツェリルにとってもアリイェがいると思ってやってきた場所にナメルがいたことに驚いたが、ナメルにしても、突然飛び込んできたツェリルの姿に驚いたはずだった。


 第一、ツェリルの方はナメルの容姿を知っていたが、ナメルはツェリルを、いや、一女官の姿のツェリルを知るはずもない。


 だが、ナメルは一見して落ち着いた様子でツェリルの側に歩み寄ってきた。


「宮殿の女官ですね?」


「あ……」


 ナメルに言われ、ツェリルはハッと居住まいを正して礼をした。


 今の段階ではその思い違いは好都合で、ツェリルは自分を神殿に祈りを捧げに来た女官ということにしておこうと思った。


「大司教さまがお祈りを捧げている最中にお邪魔をしてしまい、大変申し訳ございませんでした」


 聖女としての男のような言葉ではなく、女性らしく丁寧な口調を心がけて答える。


「いいえ、ここは我がバラッハの民のための神殿です。

 誰でも、いつでも、祈りを棒げてくださるのは嬉しいですよ」


 さすがに神職者のナメルは物腰も柔らかく、誠実な人柄のようだ。


 たった今会ったばかりの非常識なネツとは雲泥の差だと、ツェリルは深い安堵の息をつく。


 ここに逃げ出してきて正解だったようだ。


 だが、今は祈りを捧げる前に、ヤッフェに今回の次期皇帝探しの件で相談がしたかったので、早々にこの場を辞そうと挨拶のためにツェリルは顔を上げた。


(ち、近くない?)


 気のせいか、先ほどよりもナメルとの距離が縮まっている気がする。


 それでも、慈愛に満ちた微笑みを向けてくるナメルに変な気配はまったくなく、ツェリルは自身が気にし過ぎなのだろうと思い直した。


 ただ、どうしても戸惑った表情になってしまうツェリルに対し、ナメルはますます笑みを深める。


「初めて見る顔ですが……私が留守の間に召された者ですか?」


「は、はい」


「まだドゥラコンは手をつけていませんか?」


「……え?」


「あの男は手が早いから。

 君のような愛らしい娘が側にいれば手を出さないはずがないのだけれどね」


 流れるような穏やかな口調に一瞬誤魔化されそうになったが、今の言葉はどう考えてもドゥラコンとツェリルの淫らな行為を邪推したものだ。


 ツェリルの中で、先ほどのネツとの会話がまざまざと思い浮かんだ。


 まさかとは思った。


 いや、今この瞬間でも目の前の慈愛に満ちたナメルを見ていると信じられないが、どうやらこの男も同類らしい。


(し、信じられない)


「まだ手付かずなら、私が最初に可愛がってあげましょうか?

 君のような娘は、泣かせたらきっとゾクゾクするほど艶っぽくなると思いますよ」


「……っ、結構です!」


 冗談ではない。


 そんな馬鹿な申し出を受け入れてしまえば、何のためにネツから逃げてきたのかわからない。


「神さまがお嘆きです!」


 今にもその手が伸びてきそうな予感に襲われてしまい、それでもかろうじて反論の言葉を投げつけたツェリルはそのまま部屋を飛び出した。


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