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第三話 思考・夢

更新ペース遅い。ちょいながめよ

 三日経った。

「んじゃあ、行くよ。世話になったなおっちゃん」

「なぁに、レビ坊の命の恩人だ。商人は金と恩は忘れないんだよ。それに、稼いだ金で、ちゃんと、宿代を払ったお前さんに礼を言われる謂れもないぞ」

 ガハハと笑う宿の家主。エルオと名乗った男は、レビ青年の商人の師であり、今は行商を辞め、セイルの街で妻と子供二人と暮らして、宿屋を営んでいる。

 レビ青年が、しばらくアイリを置いておいてくれと、頼み、料金後払い、ようはツケで置いてもらったのだ。

 そして三日間でアイリは、街のギルドに通い詰め、朝から晩まで魔物狩りを続けて金を集めた。 この三日間で、アイリが気付いたことは、ディアナルトに来てから、体力や筋力が急激に上昇していること、魔力総量が増え、触媒無しにでも、ある程度の魔法なら発現できることだ。前世のリラの戦術にくらべ、身体も男性で、能力自体全て底上げされているため、ある程度無茶がきき、単純に強くなった事を理解したため、三日で路銀としては、ありすぎる程の金を集められたのだ。

 服装も、この世界に来たときのものではなく、革のズボンに綿のシャツに革のジャケット。靴はブーツと街で売っていたものにすべて変えた。

 元着ていた服は、海水を吸ってしまい持っていても邪魔なので捨てた。街で買った外套は折り畳んで、背中のリュックサックに入れてある。

 そして腰には街で売っていた安っぽい鉄の直剣。長さと安さで選んだため、ナマクラには違わない。

 それと、安さで選んだ、杖を太ももにつけたベルトに挟んでいる。

 タクトのように細く短い、見た目は木の棒で実際、加減しないとすぐに折れてしまいそうで、サポートにしか使えそうにないのだが、ないよりはマシという理由だけで、二束三文で購入した。

 三日で稼いだにしては、充実した路銀があるにしても、装備まで、上等なものを揃えることは難しかったが、首都にでるのに、それほど危険な道を通る訳ではないため、正直高価な装備は必要としていなかった。

「全く、坊主。そんなナマクラ使ってたら腕が鈍るぜ?」

 エルオが、アイリの腰の剣を見て言った。

「路銀がないんだ。これから首都に行くから、そこの宿代も必要でね。それに、ナマクラだって使い手によっては、名刀を超えるんだよ」

「へー。まぁ俺は商人だからな。ナマクラか名刀かくらいはわかっても、使い手の良し悪しまではわからん」

「俺はそんじょそこらの、剣士よりは腕は立つと思うよ」

「言っとけ。まぁ餞別はないが、また来たときは安くするぜ」

「ありがとうな。じゃあ達者で」

 硬く握手を交わす。

 どこの世界でも握手は共通して、平和の証である。 そして手を離すと、アイリは、宿を後にした。


♂♀


 街の東門に行くと、馬車が一台止まっていた。

 首都に出るという、行商人が居たため、用心棒として雇ってもらい、首都までの足を確保しておいたのだ。

 そして、その馬車が、アイリを雇った行商人。ラバスティン・ココロアである。

「すみません! 待たせました」

「んー。まぁ出発まで時間はあったから、構わないよ。じゃあ行こうか?」

 ラバスティンは笑いながら、馬車の荷台を指差した。

 アイリは頷いて、荷台に乗り込んだ。

 

♂♀


 馬車の移動というのは遅い。

 日本で暮らしたアイリは、その遅さを改めて痛感する。

 レビに馬車に乗せてもらったときは、荷台で寝てたから、わからなかったが、自転車よりも遅い。

 前世がディアナルトの出身であっても、十七年間地球の、科学の進歩した世界にいたためか、ひどく、馬車が辛かった。

 科学は魔法よりも素晴らしいなんて思ってしまう。

 ふとアイリは思う。ディアナルトに来てから、事あるごとに考えていたことだが、何故自分はこの世界に来れたのか? 自分が生きていたディアナルトに、異世界に飛ぶ魔法はなかった。またそんな夢物語のような研究をする機関もしらない。召喚術なんてものも、存在するが、異世界から召喚した前例も、自分が知る限りはない。

 もし、自分を召喚した人間がいたとして、何故海に落とされ、何故自分だったのか?

 前世の記憶を持っていたから?正直、ディアナルトとの繋がりはそれくらいしかない。

 溜め息をつく。正直、考えてもわからない。わからないことは、とりあえず保留。答えが出るかはわからないけれど…。

 アイリは剣を引き抜いた。

 なんともちょうど良いところに、敵が現れてくれた。

「あ、アンタ! 魔獣だ!」 ラバスティンが、慌てた声をあげたときには、アイリは荷台から飛び出していた。

 進行方向には、狼が三匹ほど、唸り声をあげて、飛び掛かるタイミングを伺っていた。

 しかし、アイリの剣は、それが動きはじめるまえに、切り付けていた。返り血を浴びながら、二匹目、三匹目と切り捨てる。

 躯に染み付いた、戦闘の記憶が的確に相手を切り捨て、返り血を浴びた身体と剣を魔法で洗い落とし、再びもそもそと荷台に戻る。

「あ、毛皮剥いだほうが良いか?」

 戻ってから、思い出したように首をひょっこりだして、ラバスティンに聞く。

「あ、た、頼む。それにしても、噂通り強いんだな」

「噂? あぁ、ギルドでやんちゃしすぎたか…」

 アイリは毛皮を剥ぎ取りながら、苦笑した。

「若いのに。商人の俺から見ても、そうとう修羅場をくぐってるんだとわかるよ」

 はは、とアイリは渇いた笑みを浮かべる。

「そんなそんな、まだまだ若輩者ってやつだよ」

「いやいや、若いのに謙遜するものじゃない。俺も小さい頃は、騎士に憧れたよ。アンタなら騎士にだってなんにだってなれるんじゃないか?」

 ラバスティンは笑いながら言ってくる。冗談で言っているのか、本気で言っているのか判断がつきにくいが、おそらく半々であろう。

 前世、リライアの記憶が蘇る。

 リラは十六で結婚し、三人の子供を授かった。しかし、リラは子育てと並行して、十五年間、軍人として生きた。

『ビオレッタ王立騎士軍』。彼女が所属した、賢国ビオレッタの軍の最高峰。

 リオンルッツ人であった彼女がそこに所属していた理由は、簡潔に話せば、ひとえに夫であった、カムイ・ローウェルとビオレッタ王のおかげだった。

「あんた、リオンルッツ人だろ? 名高い『帝国連騎団』にだって、入団できるんじゃないか?」

「あー、無理無理。入団するまえに下等兵からはじめて、十年以上訓練受けないと、なれないって聞いたことあるし。まぁ戦果をあげれば、一躍抜擢ってのもあるだろうが、いきなり門を叩いたところで門前払いが良いとこさ」

 アイリ自身、今の力に自信がない訳ではない。よほどの相手でなければ、一対一ならば負ける気はしない。

 しかし、リオンルッツ帝国が求めるのは、一対一の決闘などの力ではない。多対多の戦争を想定とした強さである。

 一の圧倒的な力よりも、複数による、戦略的に安全かつ圧倒的に勝てる力が、求められる。

 時に武国などと称されるが、その力は、腕っ節だけではない。

 だからこそ、世界最強と称されるのだ。

 古臭い、しきたりなど何もなく、利だけを追求する国。それがリオンルッツ帝国である。

 その無駄のない、緻密な機械のような在り方が性に合わず、リラはリオンルッツのヘルヴァーン家を出たのだ。

「それでも、アンタならなれる気がするけどな。おっと、行かなくてはな。馬も落ち着いたころだし」

 笑いながら、ラバスティンは再び荷台を勧めた。


♂♀


 そして最初の夜。

 セイルからでて、ケネルまでだいたい三分の一程度の道程を上った。

 明日は途中にある村に、物を売るため、到着はあと三日かかるという。

(三日……か)

 普段は短い、一瞬にさえ思えるような、その三日も、今回ばかりはとても、とても長く思える。

 火をおこして、その前で貰ったパンをかじりながら、アイリは空を見上げた。

 長らく見ていなかった、満天の星空。地球よりも大きい月の光が辺りを照らしていた。

 改めて、ディアナルトに戻ってきたことを実感する。

「なぁ、アンタなんで、ビオレッタに来たんだ?」

 少し酒の入った、ラバスティンが、アイリに問う。

「……ただの、旅行かな」

「またまた、そんなこといって」

 酒を勧められる。木のカップに注がれた、紫色の液体をチビリと舐めた。そして喉に流し込む。

 喉元に安っぽい熱いアルコールが染み、口には淡い葡萄の酸味が広がる。

「……うまい」

「え!? な、なに泣いてるんだ」

 言われて、アイリは目元を拭った。放浪中、魔物の襲撃を恐れながら、飲んでいた、あの安酒と同じ味がして、あまりの懐かしさに涙したのだ。

「い、いや…久しぶりの酒だったんで!」

 アイリはごまかすように、再びカップに口を付けた。

「あぁ、たしかに安酒でも、禁酒明けの酒は死ぬほどうまいな!」

 そういって、酒瓶からアイリのカップに再び、酒を注いだ。

 アイリは照れ笑いを浮かべて、それを一口付けると、やがて、酔ったのか口を開く。

「逢いたい人がいるんだ」


「ん?」

 陰の差した、アイリに一瞬戸惑いながら、ラバスティンは自分のカップを煽って、聞いた。

「逢いたい人? それがビオレッタにいるのか?」

 アイリは頷いて続ける。

「ビオレッタに、その…まぁ……亡くなった知り合いの、家族が住んでるんだ。だから、その人たちに逢うために、ビオレッタに行くんだ」

 ここがディアナルトのビオレッタだと知ったときから、アイリはそのことを決意していた。

 前世の忘れ形見。最愛の夫と三人の子供達。

 それを一目見たい。言葉を交わさずとも、遠目で良いから、姿を見たい。

 それが妻であり母であったアイリの心からの願いだった。

「つまり、墓参りってことか? その亡くなったって人とは、よほど仲が良かったんだな」

 え? 墓?

「あ」

 アイリはマヌケな声をあげた。

 ラバスティンがどうした? と声をかけるが、そんなものはもう届かない。

 三年前、自分はこの地に眠った。

 ならば、当然、墓があるわけで…。

「………なんか、複雑な気分だよ」

 前世で過ごした魂はここにあり、前世を駆け巡った身体は、朽ち果てている。

「大丈夫か?」

「あー、大丈夫! つか湿っぽい話はやめやめ。さっさと寝るぜ」

 大丈夫ではあるが、若干の憂鬱さが漂いはじめたので、アイリは強引に話を打ち切ると、毛布をまとって仮眠をとる。

 賊や、魔獣の襲撃があるため、完全に寝ているわけではないが、剣は抜けるように、柄に手を当てておく。

 ラバスティンは、まずいことを聞いたかもしれないと、バツの悪そうな顔をして、おやすみとアイリに声をかけて毛布を頭から被って寝た。

 そうして夜は過ぎていった。


♂♀


 夢を見た。

 繰り返し、見続けているため新鮮味はないし、内容もとても楽しめるものではない。

 天蓋付きの豪奢なベッドに青白い顔をして眠る、前世の"あたし"。

 その周りで、陰欝な顔で見守る四人の家族。

 光るような、"俺"と同じ金髪の"あたし"。それと対照的な銀髪をもった、最愛の夫がそっと頭を撫でた。

 頭を撫でられて、クマの広がった眼を開いた。"あたし"は小さく微笑む。

『なに、陰欝な顔してるのよ…』

『――お母様!』

 末娘が、眼を開いた"あたし"に抱き着いた。

『気分はどうだ?』

 ヒゲを蓄えた、夫が問う。

『最高! …って言ってやりたいけどね。あたしももうダメかな…。こんなに、早く死ぬなら、もっと無理しとくんだったわ』

『母様!』

 次男が、"死ぬ"といった"あたし"の言葉に、鋭敏に反応した。

『母様は死なない! きっと良い治癒師か、薬が――ッ!』

 次男の言葉を長男が制した。

『母上。もう、避けられないのですか?』

 長男の声は、いつもよりも覇気が無く、疲れた声だった。

『兄さん!』

 次男が吠えた。末娘は"あたし"の身体にしがみついて泣いている。

『もう、あたしは十分過ぎるほど、無茶をした。もう無茶はきかないのね。神様がいて、運命があるなら…認めたくないけれど、これがあたしの運命だったのよ』

 病床に伏せてから、"あたし"は、その運命を受け入れた。

 認めたくはなかったが…。 次男の握る手と、末娘のしがみつく力が強くなった。

『アンタらねー。少しはお兄ちゃんを見習いなさいよ。いい、リフォン? アンタがこの家を継ぐかどうかは、しらない。けど、そんなケチなしがらみに、捕われて、自分のやるべき道を見失うんじゃないわよ? アンタは一番賢いんだから。あ、でもこの子たちの兄であること、あたしたちの子だってことは忘れないでね』

 "あたし"に名前を呼ばれた長男は、その言葉を聞いて、ゆっくりと頷いた。

『クロノ。アンタはいつまでも甘ったれね。でも兄弟妹の中で一番優しい子。あたしがいなくなっても、くじけずその優しさを、アンタ以外の人にしっかり向けなさい。優しさは愛される才能だから。アナタならきっと誰からも愛される子になれるわ』

 次男は、"あたし"の手を強く握りながら、嫌だ嫌だと、泣きながら繰り返す。

 その頭を撫でたくても、"あたし"の腕はもうあがらない。

『エリナ。そんなに泣いたら、あたし似の可愛い顔が崩れるわ。まぁ泣き顔も可愛いけど。せっかく女の子が産まれたのに、あんまり構ってあげられないでごめんね? エリナ。アンタは笑いなさい。女の子の笑顔は武器よ? それと、もっと自由に、強く生きなさい。アンタはあたしに一番似てるから、臆病になりがちだけど、自由の味を知りたいなら、強くなりなさい。大丈夫。アンタが兄弟妹で一番強い子なんだから』

 末娘は"あたし"の言葉を聞き流さないように、泣きながらしっかりと"あたし"の眼をみている。

 三者三様の様子に満足する。心残りはない。

『カムイ。アンタには一言だけ。逢えてよかった』

 泣いているのだろうか? "あたし"の視界はもうぼやけ始めていて、はっきりとは見えない。

『じゃあね。皆。愛してるわ。今までも、これからも』

 


 そうして夢は終わるのだった。

あれ本題に乗らない…

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