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第8話 探り合い

二人で入った店の店員は、佳入の顔を見ると、目を(かがや)かせていた。


「立河様!いつもごひいきにしていただきありがとうございます」

「奥の部屋は空いているか?」

「ええ。もちろんでございます。そちらが噂の奥様でしょうか」


店の人に凉花は微笑んだ。


「どうぞどうぞ」


通された奥の部屋は他の客から切り離された場所にあった。

凉花は表情を変えずも、きょろきょろと周囲を観察しながら進む。

『忍者』として、この町の細かい構造や場所の情報は知っているが、この部屋は()(あく)していない。

おそらく、このような場所で軍や政府に聞かれたくないような(かい)(ごう)が行われているのだろう。

凉花の脳裏に今朝みた暗殺対象者がよぎる。


「ここなら作り笑いをしなくていいだろう」

「……そうですね」


店の人が去って行くのを確認して、佳入がそう言う。

それを不快に思いながら、作り笑いをしてしまう凉花に「それ」と佳入が指さした。


「前に言ったと思うが、俺は君の作り笑いは嫌いだ」

「好きじゃない、って話じゃなかったですか?」

「言葉の(あや)だ」

「つまり、正確には嫌い、ということですね」


わざとらしく凉花は大きなため息をついた。

その次の瞬間には眉間に(しわ)を寄せ、佳入をにらんだ。

佳入の無表情は変わらないが、その雰囲気が少しゆるむ。

どうやらお気に召したらしい。


「こちらでよろしいですか?」

「自然体でいい。俺には気を遣う必要もない」

「立河家のご子息ですし、第一部隊の隊長でもあります」

「だが、俺の妻だ。俺の前ぐらいでは、気をゆるませたらいい」

「……とは言いますが……」


これまで凉花が気を(ゆる)す人はかなり限られている。

夫婦になったとはいえ、話をして数日の佳入に気を許すなんて、変な感じがする。


「…一つ、聞いておきたいことがあるんだが」


食事を進めながら、佳入が無表情のまま、淡々と疑問を口にした。

気配を探ると、店の人は遠く去っているようだ。

これが本題か、と凉花は()(がま)えた。


「凉花さんは、暗殺に関わっていると聞いているが、本当か」

「……」


凉花は全ての感情が顔から()がれ落ちたのを自覚した。

だが、気を許していいと言ったのは、佳入。

知らなくていい内容に踏み込んだのは、佳入だ。


「…誰からそれを?」

「念のため言っておくと、立河家の父上・母上は知らない。これは第一部隊の隊長として知った。国全体に危害をもたらす者を、『忍者』が暗殺している。そのとりまとめ役が早戸家と」

「その通りです」

「では、凉花さんも」

「関わっているかは言えませんが、早戸家がそれに関わり、私も多少関与していることは否定できません」

「わかった」


佳入は静かに頷いた。

凉花が話す間、その表情が変わることはなく、予想していたのだろう。


「それを確認したかった。俺は君の暗殺を(じゃ)()するつもりはない。協力できることがあれば考えよう。邪魔になるなら言ってくれ」


これ以上、深入りするつもりはないようだ。

一瞬、「あなたの部下に暗殺対象がいますよ」と言いかけたが、飲み込んだ。

佳入に言ってどうする?

協力はいらない。。

この仕事は凉花のもので、佳入のものではない。


「……わかりました」


こんな会話ができるということは、いい意味でも悪い意味でも、この場所は危険だ。

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