第31話 佳入の思惑
「ということがあった」
「いや、なんで私抜きでそんな話になっているんですか」
「君は意識がなかった。早戸家に関わるから、生死をさまようことになった。なら、立河家で保護が筋だろ」
凉花の目が覚めた翌日。
見舞いに来た佳入が凉花に伝えたのは、早戸家と立河家のやりとり。
内容を聞く限り、よく佳入が生きて帰ってきたな、と関心してしまう。
佳入が重要人物であったこと、暗殺したときに凉花という犯人を仕立てあげられないことから、暗殺はやめたのだろう。
それを分かって佳入も単身乗り込んだ。
「心配してくれているのは嬉しいが」
「何も言ってないです」
「君の表情がそう言っている」
「顔は何も言いませんよ」
「俺も君の顔にやっと慣れてきた」
「聞いてますか?」
凉花は眉を寄せる。
しかし、佳入の目尻は、わずかに下がっていた。
それをみて凉花は諦める。
この顔をするときの佳入には関わりたくない。
「で。これが義父上からの伝言だ」
「……ありがとうございます」
手渡された紙は、『忍者』の暗殺対象を知らせる紙と同じもの。
広げると、『忍』の丸印と共に、「裏切り者」の文字。
つまり、解雇。
「ということで、君は正式に立河家のものになった」
「…そうですか」
その紙を凉花は、佳入が見舞いで贈ってくれた花を飾る、花瓶の水に突っ込んだ。
スルスルと、紙はその文字と共に水に溶けて消えていく。
その様子を凉花も佳入も、無表情で眺めた。
「退院したら、何かしたいことはあるか?」
何もなかったかのように佳入が尋ねてくる。
凉花は、透明な花瓶の水を、文字を探すようにみつめていた。
「……何も、ないですね」
「立河家は、君を歓迎するし、君には君らしく、過ごしてほしいと思っている」
『忍者』でなくなった凉花の、「私らしく」とはなんだろうか。
すぐには答えが出ない気がした。




