第30話 変わり者同士
「むしろ、働かざるをえなかった」
かぶせるような佳入の言葉に、早戸は反論しなかった。
佳入は淡々と続けた。
「彼女がどんな生き方を希望するのか、聞いたことはありましたか」
「女は家に従うものだ」
「であれば、彼女は今は立河の人間です。早戸の人間ではありません」
「これまでと同じ生活を続ける、というのが、凉花が出した条件だ」
「それは早戸家からの条件です。それが重要でしたか?」
「何が言いたい」
「条件を見直しましょう」
するり、と佳入は脇差しを抜き、目の前に置く。
すぐ手の届く場所に。
壁の向こうにいる複数の人の気配を牽制するように。
「こちらからの条件は凉花さんをもらい受けること。その代わり、早戸家の家業、つまり『忍者の奥義』継承の事業に出資することでした、これが上層部からの条件です」
「その通りだ」
「そして、凉花さんの個人的な希望は、立河家屋敷にとどまらず病院の仕事を優先する生活を続けたいというもので、了承しました。ですが、ここに『忍者』としての暗殺はありません」
「…何が望みだ」
「凉花さんに『忍者』の仕事をさせるときは、俺を通してください」
早戸が佳入をにらむ。
それに負けないようににらみ返す。
「この業務は、軍が関わっていない、御上からの勅命。関係者以外に知らせることはできない」
「でれば、立河家に嫁いだ彼女は、すでに関係者ではない。それに」
佳入は早戸の奥底を読もうと、その瞳をのぞき込む。
決して、こちらが押されてはいけない。
「国にとって損失が大きいはずの俺を殺すというのも、御上からの命ですか?」
「それが掟だ」
「俺が関係者になればいいでしょう?」
「……なぜ、そこまで凉花にこだわる?」
まるでそんな価値はないだろう、とでも言わんばかりの声色に、佳入は気分が悪くなる。
激情に任せてしまえば、暴言を吐くことになりそうだ。
一度気持ちを落ち着ける。
「俺は…『忍者』ではない凉花に魅力を感じます。もっと他の世界を知ってほしい。不自由のない生活をしてほしい。それだけですよ」
「…どうやら、私が思っていたよりも、立河家のご子息は変わり者らしい」
「俺が変わり者でも構わない。立河佳入として、彼女をもらいたい、と言っているんです」
早戸は、今まで見たことのない、佳入の静かだが激しい気迫をみた。




