第29話 契約の見直し
「ご無沙汰しています」
「……ああ」
佳入は早戸家を訪れていた。
目の前にいるのは、凉花の養父である早戸家当主。
通された当主の部屋は、立河家の屋敷と比べて、壁が厚く作られている。
そして壁の向こうにわずかな人の気配。
ここは『忍者』の任務を言い渡される場所として最適だ。
「立河様は無事なようでよかったですよ」
冗談を。
佳入は口をつぐんで、言葉を飲み込む。
「他家に嫁入りした娘が重症なことよりも、俺の心配ですか」
「凉花は体が丈夫な娘ですから。それに、あなたがいなくなるほうが、国として損失が大きい」
「…そうですか」
早戸家は凉花が病院に運ばれてから、一度も見舞いに行っていない。
それどころか、立河家に苦情もない。
まるで興味などないように。
凉花が死んでもいいというように。
「それで、本日はどのようなご用件でしょうか」
「凉花さんについて確認と、婚姻の条件について見直しにきました」
「といいますと?」
「凉花さんは…まだ早戸家により働かされていますね」
「何の話でしょう」
「俺は『忍者』の存在を知っており、早戸家がその背景にいることを把握している。そちらには周知の事実でしょう」
「……先日の事故、うちの領地で起きたそうですね」
すっ、と早戸の目が細まり、その眼光は刃物のように研ぎ澄まされた。
これが、当主、いや『忍者』をまとめる者としての顔なのだろう。
「凉花はうちが育てた娘です。立河家に行っても、彼女がそのように働くことを選んだ」
「むしろ、働かざるをえなかった」
かぶせるような佳入の言葉に、早戸は反論しなかった。




