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第27話 予想外の急患


静かというのは平和な(しょう)()だ。

一人しかない医師室で、|道《みち》がみは一人ほくそえんだ。

いつも病院に住んでいる『死神先生』はいない。

あの『死神』がいると、大抵何かが起こるのだ。

入院中の患者の急変、死亡、町中での暴動。

何かが起こる可能性が明らかに高い。

その(げん)(きょう)が、いない。


「ふふふふふふ……」


思わずこぼれる笑み。

今夜は暴動などの予告情報もない。

急患がこなければ、今日の夜は平和に過ごせるだろう。

いや、急患なんて断ればいいのだ。

道上は引き出しをあけ、細かい文字と数字が書かれた紙の束を取り出した。

長い夜。しかも一人。仕事もない。特別手当もでる。

この自由な時間を(しゅ)()に使って何が悪い。


「♪~」


こぼれた笑みは(じょ)(じょ)に鼻歌に変わり、今日の手当を元手に、どの馬に()けようかと情報を読み取る。

そんな医師室に足音が()け込む。


「道上先生!急患です!」


すぐに眉間に(しわ)を寄せ入り口を振り返る。

焦った見習いの若い医者の様子はいつもとは違う気がしたが、道上は不機嫌な顔を隠す気にもならなかった。


「急患?明日じゃだめなのぉ?」

「それが……えっと、見に来てください」


にらむと一瞬萎縮するも、見習いは上目(づか)いで言いにくそうにそう言う。

軽い傷だったら追い返して明日の医者におしつけよう。

それこそ明日は『死神先生』が対応してくれる日だ。

何かあっても『死神』のせいになる。

道上は不機嫌顔のまま、病院の正面入り口に行き、やってきた急患とやらに目を見開いた。


「た、立河隊長……それに……」

「こんな夜にすまないが、妻を()てほしい」


無表情と言われている若き第一部隊隊長は焦りをあらわにしていた。

その彼が抱えているのは意識のない女性。


「『死神先生』……」

「木から落ちた、その先が(がけ)になっていて、助けようとしたんだが……」


佳入も凉花も、傷だらけで、やぶれた服にも血がにじんでいる。

いつもは微笑んでいる凉花だが、『死神』の笑顔と呼ばれた笑みはなく、呼吸が速い。

道上の脳裏から“断る”という単語は消えた。


「こちらへ、隊長も……」

「いや、俺はたいしたことはない。それよりも凉花さんだ」


佳入はそう言って凉花を引き寄せた。


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