第25話 凉花の選択
「最近、立河の新婚夫婦の仲がいいって噂よね」
「え、そんな噂が?」
「ええ。群衆はもうときめいてるときめいてる」
「はぁ……」
「こないだ仲睦まじく睡蓮園を散歩されていたとか!」
「うわぁ」
『忍者屋敷』と呼ばれる早戸家の別邸。
民衆は噂程度だが、実際にその離れには『忍者』用の道具が揃っていた。
その場所で鉢合わせしたのは、沙羅。
二人して道具の手入れを始めるついでに世間話をしていた。
「団子屋の看板娘にまでそんな話が伝わるなんて」
沙羅は普段は団子屋の看板娘として生計を立てている。
仕事の傍ら、いろいろな情報を収集し、同時に情報の受け渡しも兼任していた。
そのせいか、色恋沙汰、特に立河家の若夫婦の話題については俄然興味を持ってしまうらしい。
「泣いていたご婦人方も、若奥様の『完璧な微笑み』が立河の若旦那の美貌にぴったりだって、負け惜しみを何度聞いたか!」
「はいはい」
『作り笑いはやめろ』と言われても、外出時の凉花の作り笑いには佳入はうるさく言わない。
凉花が微笑むと佳入はその無表情に眉間の皺を付け足すだけ。
いつしかその表情の変化が面白いと感じていた。
「…凉花…それ、いいの?」
「いいの」
沙羅が言うのは、凉花の手元。
今はきれいに磨かれた苦無と手裏剣。
確実に暗殺するために、凉花の手持ちには一部毒が塗られた刃物を準備している。
しかし、今、手持ちの刃物全てを磨いたあとに毒を塗っていない。
「もう少し、暗殺の技術を磨かないと。毒に頼っててはいけない」
「これ以上磨いてどうするのよ」
「暗殺数を追い抜かせる機会もないのか」と口をとがらせる沙羅。
凉花はそれに苦笑した。
「これは、私の誇りをかけてるから」




