第23話 悪夢
赤い液体が、白い布団に広がる。
手には血が滴る白銀の刀。
目の前には深手を負った佳入が横たわっていた。
「はぁ…はぁ……」
息をしているのは凉花だけ。
荒い息が止まらない。
佳入は絶望の表情で固まっていた。
息はしていない。
なんとあっけなかっただろうか。
寝込みを襲っただけだけで、抵抗を受けずに殺せるとは。
『信じていたのに……』
呟いた佳入の消え入る声が耳の中で反響している。
信じるものなんて凉花には最初からなかっただけだ。
ふらふらとおぼつかない足取りで寝室から出ると、驚愕した立河の義母と鉢合わせした。
「死神!」
「夫も呪い殺したか!」
「夫殺しの悪嫁!」
その声はどんどん拡大して、群衆の声に変わっていく。
立っていたのは屋敷の縁側ではなく、群衆の前。
群衆の目は凉花をにらんでいた。
そりゃそうだ。
新婚夫婦を襲った悲劇。
死神と名高い凉花のせいにされないはずがない。
凉花は罪を認めるように静かに目を閉じた。
そんな凉花の腕をつかむ冷たい手。
佳入じゃないかと期待して振り返ると、目の前には早戸家の当主。
「お前は早戸家に戻るんだ。早戸家でしか、お前は生きられない。私が有効活用してやろう。そこに幸せがある」
* * *
「っ……‼」
勢いで目を開ける。
体中は汗がにじんでいて、夢だったのだと思い当たる。
手を見ても血はついていない。
誰も殺していない。
「…大丈夫か?」
「か、佳入……さん……」
ごろり、と寝返りをすると、夢の中で殺したはずの男がこちらを心配そうにのぞき込んでいた。
殺したはずでは、という自分の思考を、それは夢だ、と冷静な自分が押さえ込む。
「うなされていたぞ。悪い夢でもみたのか」
「ええ……まぁ……」
まさかあなたを殺していました、とはいえず、凉花は言いよどむ。
昨夜は佳入に誘われて食事を共にし、久しぶりに立河の屋敷に戻ってきた。
暗殺するためには相手のことを知り、弱みにつけ込んだほうが早い。
そう思って付き合ったのだが。
「少し……風にあたってきます」
胸元を直し、寝室から外にでた。




