第2話 無表情・美男子・若き隊長
「きゃぁ!立河様よ!」
「第一部隊の方が入院されているから、きっと隊長として見舞いに来られたのね!」
「無表情なのも知性あふれて素敵ねぇ」
「まとっている雰囲気が素晴らしいわ」
仕事の合間に凉花が中庭の傍を通ると、面会にきたのだろう婦人達の会話が耳に入る。
チラリと見ると、数人の軍人が中庭に立っていた。
その中にいる一人の美男子に婦人達の目線は釘付けだ。
「聞きました?ついに立河様も結婚のお相手探しを始めたんですって!」
「聞きました聞きました。いろんなところからご紹介が絶えないと」
「若くして立河家を立て直し、第一部隊の指揮をとる方ですもの」
「軍学校でも首席だったとか」
当の本人に噂話は聞こえているはずだが、凉花からみれば、立河はその麗しい見た目を見せつけに来ているように見えた。
誰にも気付かれていないのをいいことに、凉花は一人眉根を寄せる。
「無表情といえど、噂の美貌をみて納得ですわ」
お貴族様や軍が得意な建前か、あるいは嫁探しに行くように命令されたか。
軍学校時代を知っている凉花は、勝手に哀れみの気持ちを立河に向けた。
そんな立河の黒色の瞳が凉花を捉えたような気がした。
「⁈」
無表情でみていたのがばれた?
凉花はすぐに目をそらし、逃げるように足早に中庭を去った。
* * *
「立河隊長?」
話していた部下がふいに佳入の名前を呼ぶ。
駆けていった小柄な姿に、無意識に佳入のくちびるは弧を描いていたが、すぐに元に戻る。
「どうされました?」
「いや、なんでもない」
心の中だけで佳入は面白そうに小さく笑った。
今週に起きるであろう出来事を予想しながら。