第16話 防がれた暗殺
立河家の屋敷に帰らないときの凉花の食事は、配給された携帯食料か、病院内の売店の売れ残りか、病院周りの飲食店が選択肢になる。
最近は、売れ残りにありつけることが少なく、もっぱら外の飲食店を利用することが多くなった。
いきつけは何個か決まっていて、特製の弁当を作ってくれる店もある。
「何にするか……」
迷っているふりをして、いくつか店を過ぎる。
決まった道を歩くようになると、不穏なことに気づくようにもなる。
後ろに気を配りながら、ちょうど良い細道にするりと身を隠す。
気配を隠して、凉花を追う人影。
しかし、殺気は隠し切れてはいない。
その気配が真後ろに迫り、勢いよく振り向いて、苦無を突き刺す。
「っおい!」
「……佳入さん……」
渾身の殺意を込めた切っ先は相手の喉元すぐそこ。
すんでのところで凉花の手首をつかんだのは、夫の佳入。
苦無は佳入の喉元を仕留め損ねてしまった。
「何故こんなところに……私の後をつけてきていたんですか?」
殺意を隠す気もなく、凉花はにらみ上げた。
そのどちらにも臆することなく、佳入はなんてこともないようにはぁと息をついた。
「さすがだな。これが『忍者の奥義』というものか」
「あなたに防がれたのは大変遺憾ですね」
言葉を交わしながら、力比べを続ける。
凉花が力を加えてもびくともしない。
佳入が単調な声色で続けた。
「直前まで歩行の姿勢を崩さず、外からは見えない場所に仕込んである刃物を、自分の体の影で隠しながら、一気に死角から致命傷を負わせにくる。洗練されている動きだ」
「その割に余裕ですね」
「そうでもない」
佳入は力を込めながら、じりじりと苦無の位置を凉花側へと押し込んでいく。
「不》意打ち、という点においては、危なかったと思う」
「褒めてます?馬鹿にしてます?」
「褒めている」
苦無が凉花の喉元に近づいていた。
凉花も表情を変えないものの、その力には勝てないと感じた。
ゆっくりと力を抜くと、佳入の手が離れていく。
「それで。どうして私の後をつけてたんですか?」
「後をつける?」
佳入が眉を顰めた。
「後はつけてない。ただ、君を見かけたから、声をかけようと思っただけで…」
「……外に出てから、ずっと殺意のある視線があります。相手は隠そうとしていますが」
状況を把握しようとする佳入を無視して、凉花は通りを見渡せるように、壁に張り付いた。
「今は……いなさそうですね」
「俺は気付かなかった」
通りを確認している凉花の背後に、佳入が声をかける。
「……‼」
ほぼ同時。
二人は一方向に向かって体を向けた。




