第15話 軍の動き
第一部隊の執務室。
そこは、第一部隊の待機場所であり、事務仕事場でもある。
今、隊員はそれぞれの持ち場を巡回しており、隊長である佳入しか部屋にいない。
扉をたたく音につづいて、一人の男が入ってきた。
「お、やってんなぁ」
「副総長」
「今は他の隊員はいない。叔父上でいいよ」
佳入が立ち上がって対応しようとすると、副総長である雉郎が笑う。
雉郎は佳入の母方の叔父であり、総隊長の補佐として、副総長の座に着いていた。
そして。
「例の件、『死神先生』が首尾良く処理したようだな」
佳入に『忍者』の存在と、第一部隊の中にいる裏切り者について情報提供したのも雉郎だった。
穏やかな笑みの裏に様々な情報を握っており、情報収集と情報操作をしている。
味方にいると心強いが、敵には回したくない、と佳入は思っていた。
佳入が甥でなければ、第一部隊に潜入している裏切り者なんて、放置していただろう。
「で、どうだった?」
「どうとは?」
「凉花さんについてだよ。やはり彼女は『忍者』だったか?」
「それが」
佳入は首を振った。
「実際に暗殺しているかは、俺にも教えてくれませんでした。ただ、関わっているのは確かなようです。『忍者』の存在について、否定はしませんでした」
「否定できないのだろう。そりゃぁ、あれだけ噂を流されていればね」
『死神先生』。
本来死なないだろう患者が死んでいく。
決して凉花の手腕が悪いわけではなく、死にそうな人でも助かる人はいる。
だから、彼女は生死を操る死神と言われている。
「今回の奈須の件。彼女が手を下したかどうかは、疑問な点が残っています」
「ほう?」
興味深そうに雉郎が片眉をあげた。
「佳入が言うのは尤もだ。今までの手口とは違っている。入院のきっかけになった怪我関連ではなく、心臓死。怪我の深さとその治療に心臓が耐えられなかった、という説明について、病院の上層部は疑問の余地はないとしているが」
「これを、凉花さんから預かっています」
佳入は、机の引き出しをあけ、小さなガラス瓶を取り出した。
「死んだ日。奈須の口の中にあったものです。何かの薬の残りと思われます。死後処置の前に、彼女が回収してくれました」
「ふむ…」
「当時、彼女も含め、病院では奈須に飲み薬は出していないということです。これがどこから出てきたのか、わかっていません」
「うむ。調べてみよう」
雉郎はガラス瓶を受け取り、懐にしまった。
「あと」
佳入は雉郎を引き留めるように言葉をつなげた。
「死神を操る者、早戸家にいると思われる、暗殺を指示する部門は、どこにあるのでしょうか」
「それはまだ調べが付いていない」
「情報が入れば、教えてください」
「佳入」
雉郎は佳入の黒い瞳の奥底を見た。
無表情と同じぐらい感情のない瞳のようにみえるが、確実に、何かが動いている。
「君は第一部隊隊長。その職務から外れるような行動はすすめない」
「心得ています。立河家の人間としても」
「その通り」
「ですが、もう一つ、俺には職務があります」
「なんだ?」
雉郎が捉えた、佳入の瞳の奥にある何かは、消え去るどころか強くなる。
「凉花は俺の妻です。それが家同士の契約だとしても」
「…心得ておこう」
雉郎は、佳入の瞳を面白そうに見ながら、部屋を出て行った。




