第14話 もう一人の分隊長
奈須を見送った佳入は、久寿里の病室にいた。
「なんで……」
久寿里に奈須のことを伝えると、愕然としていた。
「不慮の事象が起こった、と言っていた。心臓が弱かったらしい」
「あいつは…そんなこと一度も言ってなかった」
久寿里は点滴がつながれた両手をただただ見つめていた。
「あいつとは……第一部隊に入ってから、二人三脚で切磋琢磨してきたんです……今回も、俺とあいつで、隊長を守れて、よかったと、一緒にまた戻ろうと……」
「……残念だ」
佳入の無表情しか知らない久寿里は言葉を失った。
みたことのない、隊長の苦々しい顔。
久寿里は息をのんだ。
「本当に……」
「不慮の出来事が起こりうる。今回、奈須が死んだのは、俺を守ろうとした怪我のせいじゃない」
「……」
言い訳のようにそう言う佳入。
久寿里はなにも言えず、黙り込む。
「隊長……その、奥様…凉花先生について、一つ、よろしいですか」
「ああ」
「俺はあの場で犯人が隊長に向かっていったとき、奈須とあなたを守りに行きました。その直後から病院まで記憶がない。ですが、一つだけ思い出したんです」
久寿里は一切佳入の方向をみない。
反応を見るのが怖いように、白い天井をまっすぐ見ていた。
「俺は大きな底の見えない河と、対岸で手を振る人をみたんですよ。今思えば、あれは生死の境だったんじゃないかって。昔死んだじいちゃんが手を振ってる気がして。そこから俺を連れ戻したのが、凉花先生です。隊長。あの人は本当に死神なんでしょうか」
そこまで話すと、ふぅと久寿里は息をはいた。
「死神なら、奈須より俺が死ぬべきだった、っていうことじゃないか」
「彼女は……」
佳入の声色はいつもと変わらない、単調なもの。
それでもわずかな哀愁を久寿里は感じた。
佳入は感情を含まないように気をつけた声色で続けた。
「彼女は紛れもなく医者だ。医者は死神じゃないし、神でもない。ただ、目の前にいる人を、全員生きるべきと仮定して治療に当たる。だから生きるべき人を助けてもそれが当たり前だと言われ、生きるべきと思っている人が死ぬと、死神と揶揄される。それを決めるのは、多分、我々人間じゃない」
後半になるにつれ、語気が強くなる。
凉花を責めるような言い方ではない。
この世の中の仕組みを恨んでいるような言い方。
「久寿里。お前は療養に専念して、必ず…必ず第一部隊に帰ってこい」
「もちろんですよ、隊長。またその背中をお守りできるように、励みます」
佳入と久寿里はそう言って、握手を強く交わした。




