第11話 二人の分隊長
外でけが人が増えたと報告をうけて、凉花は処置室へと急いだ。
街中で暴動がおきた、という噂は聞いていたが、思った以上に病院全体が騒がしい。
処置室に飛び込むと、対応できていないけが人が多くいた。
「凉花先生!凉花先生はこちらの二人を……!」
近くにいる他の医者からそう言われて向かった先に、見知った姿があった。
「……久寿里さん、奈須さん……」
「ああ、奥様……」
第一部隊の分隊長二人が、息も絶え絶えに凉花を見上げていた。
* * *
日中の喧噪が去った夜。
病院で仕事をしていると医師室の扉が叩かれた。
現れたのは佳入。
他の誰もいないのをいいことに、凉花は眉に深い皺を刻んだ。
「なんでこんなところにいるんですか。もう面会時間は終わりましたよ」
ここは病院のはずだ。
「妻に会いに来たといったら、通してもらえたぞ」
「ええ……」
なんてガバガバな警備だ。
だが、こいつならその美貌や声色、地位を使ってでも目的のために人をだますと思っている。
一方、医師室に入ってきた佳入は凉花の机を見て、目を見開いた。
「…君は、いつもこんな物を食べているのか」
彼の細い指がつかんだのは、凉花が夕食代わりに食べていた携帯食料。
賞味期限が迫っている携帯食料は安くもらえるので、重宝していた。
「あなたにとやかく言われる筋合いはありませんが?」
「俺は君の夫だろう」
だからなんだ、と凉花が怪訝な顔をするのと、佳入の眉が寄ったのはほぼ同時。
「こんなことなら、今度屋敷の食事を持ち込んでやろう。君が餓死されたら、立河家の評判が下がる」
「いえ結構です。早戸家の評判は下がってなかったので」
「冗談を言うな」
確かに、凉花は早戸家の評判など気にしていなかった。
本当は評判が悪かったのかもしれないが、これはこれ、それはそれだ。
「今回はうちの分隊長二人が世話になる」
「いえ。仕方のないことです」
空いている椅子に座った佳入はふぅと息を吐いた。
「佳入さんはお怪我はなかったのですか」
「あの二人のおかげで助かった」
「そうですか」
分隊長は二人とも傷は重く、入院して治療することになった。
どちらも持ち直してはいる。
だが、命がもつかどうかは、別の問題だ。
「どうするつもりだ?」
「私は私の仕事を粛々とします」
「そうか……」
何かを考えたあと、佳入はぐっと顔を寄せてきた。
突然の行動に、凉花は反射的に体をのけぞる。
至近距離で見ると佳入の美貌は明らかで、どきり、と心臓が鳴る。
「君は……」
佳入の吐息が鼻にかかる。
その声は極限まで小声で、周りに聞こえないように気をつかってくれたらしい。
「君は…病院で人を救う仕事と人を殺す暗殺の仕事と、どっちが好きなんだ?」
彼の美貌のせいなのか、質問のせいなのか、その近距離のせいなのか。
凉花の心臓がまた大きく動揺する。
「どちらが自分に合っていると思っている?」
すぐに答えられないのはなぜだろう。
仕事が自分に合っているかどうかなんて、考えたことはない。
早戸家に引き取られてから、目の前に与えられることをこなすだけで生きてきた。
今も、目の前に現れる人に定められた対応をしている。
それだけなのに。
この質問は凉花の気分を悪くした。
ならば。
「暗殺、じゃないですか?」
きれいな作り笑顔を見せると、目の前の美貌が固まった気がした。




