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魔王討伐?それ、チュートリアルです

勇者として召喚された僕に、良いニュースと悪いニュースがある。

良いニュースは召喚された国が当たりだったことだ。僕は召喚された後、突然知らない場所へ呼び出したことを謝罪され、この国が魔王の侵攻で危機的状況にあること、自分が勇者として召喚されたこと、魔王を討ち滅ぼして欲しいということを聞かされた。なんと国王直々にだ。そして、親睦を兼ねた晩餐会に招待された。いろんな転生ものを読んだけど、この国は間違いなくアタリだ。

そう思ってたのもつかの間。そう、これが悪いニュース。

この国、飯がめちゃくちゃに不味いのだ!


いや、お待ちいただきたい。自分のために開いてくれた晩餐会で飯が不味いなどと、無礼にもほどがあると皆様がおっしゃりたいのはよく分かる。けど、ほんっとうに不味いんだよ!こちとら飽食の時代とまで言われた現代っ子。毎日マックやスタバを味わった口は、いまさら味付けが塩のみの食事をうまいとはいえなかったのだ。品数も食材も貧相、もしかして、身分もないヤツはこの程度の飯で我慢しろってことなのか?じつは、態度だけでこの国ハズレだったのか?


ただ、僕だって愚かじゃない。思っても、口に出さなければ相手を不快にさせることはないのだ。判断するのはもう少し後でも遅くはない。


「お口に合いませんでしたかな?」と国王に聞かれた。

訂正、僕は愚か者だったようだ。口に出さなくても顔に出ていたらしい。やばい!どうしよう、召喚されて早々に無礼討ちとか勘弁して貰いたい。なにか、上手い言い訳はないものか・・・


「ひどいものでしょう。本来であれば、もっと素晴らしい物をお出しできるんですけどね。魔王に侵略されている今となっては勇者様にすら、こんな粗末なものしかお出しできないのです。」

残念そうに話す国王に胸が締め付けられる。ごめん!不味いとか言って!

(言ってないけど)


冷静になってよく卓上をみると、たしかに僕の前に出されている料理が一番豪華だった。ああ、僕はなんて最低なヤローだ。精一杯のおもてなしを受けておきながら、不味い、ハズレかも、なんて・・・


「このままでは、我らは滅ぼされてしまいます!どうか勇者様、この国を救ってくだされ!」


助けられるなら、助けたい。こんなにいい人達がむざむざ殺されてしまうなんて胸クソもいいとこだ!

でも、僕に何ができるだろうか。生まれてこの方喧嘩すらしたことがない。そんな僕がどうやって魔王を倒せば・・・ん、?待てよ?


「王様、僕って勇者ですよね?勇者ならなにか凄い武器とか、魔法とか、なんかあるんじゃないですか?」

「たしか、勇者様はこちらの世界にやって来る際、秘められし能力(スキル)が目覚めると、王家に言い伝えられていますが」


なるほど、チートなスキルがあれば僕でも魔王を倒せるはずだ。僕のスキルは一体何だろう?


「どうやって確認するんですか?」

「王家に代々伝わるこのオーブで確認することができますぞ。」

おお、水晶玉!いいね、いいね。すごく異世界っぽい。さてさて、どんなスキルだ?


召喚特典スキル 神農人(シェンノン)

食材の入手方法から調理法まですべてが分かる。料理技術が神業(カンスト)になる。

異空間収納庫(インベントリ)を使うことができる。


ほうほう、これはすごいスキルだ。これさえあれば、いつでもどこでも美味しいご飯が食べられるね、ってアホか!!飯でどうやって魔王を倒すんだ!毒でも盛るか?魔王に毒は効かないだろうが!

ん、待てよ?毒?飯?アレでワンチャンいけんるんじゃないか?


「国王様、お願いがございます。この国にある穀物の内、半分を私にお与え下さい。さすれば、必ずや魔王を討伐してご覧に入れましょう!」


「本当ですか?勇者様!もちろんですとも、我々全員あなた様に賭けましょう。」




一ヶ月後、僕はスキルで作った対魔王兵器を使い、魔王城へ向かった。


「みんな、あんたを信じてる。けど、本当に大丈夫なのか?」


彼はランドウ。くそ雑魚ナメクジな僕の護衛としてついてきてもらった王国一の剣士だ。大人数で行くと作戦がばれてしまうため、魔王城へ行くのは僕と彼の二人だけだ。


「大丈夫、大丈夫。魔王が王国で聞いたとおりのヤツならこの作戦は必ず成功するさ。」


三日ほど歩いて、ぼくらはようやく魔王城についた。城を見て僕びっくり!多分魔王は厨二病患者(かつての僕と同じ)だ。うわぁ、やだやだ古傷が痛む。さっさと討伐して帰りたい。

門をくぐって扉の前まで来た。さあ、作戦開始だ!


「魔王様、魔王様はいらっしゃるか。王国の代表者として貢ぎ物を持って参りました!」


ギィーっと大きな音を立てて扉が開いた。「うむ、入れ」と不気味な声がした。チラッとランドウの方を見ると表情がこわばっている。うーっ、緊張してきたー!


長い廊下を抜けると、広間に出た。奥の方の椅子にいかにもな人物が座っている。なるほど、コイツが魔王か。


「それで?貢ぎ物はどこにある?」

まだ僕たち入ってきたとこなんですけど?使者をいたわるとか、そういう人の心ないんか?(いや、コイツ人じゃなかったわ)


「はい、魔王様。こちらに用意してございます。」

わざとらしいくらい丁寧な口調で答えた。どこが地雷かもわからないからな。こういうときはなるべく下手に出ておく方が良い。

僕は異空間収納庫(インベントリ)から対魔王兵器を取り出した。僕のスキルで穀物、それが何を意味するのか、こいつが一体何なのか二十歳以上の方々ならお気づきだろう。


「なんだ、それは。」

「はい、こちら()でございます。」

「ほう、初めて聞く名だ。」


そう、王国の晩餐会で気がついた。この世界にはまだ酒がないのだ。それがどうしたって?まあ見ててごらんなさいよ。


「我々は()()この飲み物を作ることができたのですが、飲んでみたところ大変美味で。これは是非とも魔王様に捧げねば、と思いお持ちしたのでございます。」

「・・・毒など入れてはおるまいな?」

「ご冗談を。このとおり、()()()()()でございますよ!」

そう言って一口飲んで見せた。クーッ、こいつはいける!おっと、まてまて。目的を忘れるな。


「ささ、魔王様もまずは一杯・・・」

顔に出やすい僕の性格が幸いしたらしい。未知の飲み物に警戒していた魔王もどうやら安心したようだ。


「うむ、いけるなぁ」

「そうでしょうとも、そうでしょうとも!ささ、もう一杯」

「うむ、ただ、飲むだけでは物足りぬ。」

「流石魔王様、美食家(グルメ)でいらっしゃる。こちら、酒だけでは物足りないかと道中で調理しておいたおつまみという物でございます。よければ酒と合わせてみてください。」

「ほう、合うな。これは止まらん。」


魔王、僕の勝ちだ!ここから先は早かった。酔って有頂天になった魔王をおだてて更に飲ます!

「何?お前勇者として召喚されたのか!」

「ええ、ですが戦うためのスキルを習得できなくて・・・こうして魔王様に貢ぎ物をもってくる道を選んだのでございます。偉大な魔王に逆らうな、王国じゃあ常識です。」

「そうだろう、そうだろう!なんせ俺様がいじめ抜いてやったからな!奴らにはもう反抗する気力も残されておるまい。なにしろ、頼みの勇者が無能だったのだからな!いや、これほどの美味なものを作れるのであれば、最後までいかしておいてやろうぞ」

「ああ、魔王様は寛大でいらっしゃる」

「ふはは、とうぜんだ。おれさまは、まお、う、だから、な」


ドスンと大きな音を立てて魔王は倒れた。完全に酔い潰れたようだ。これで、しばらくは抵抗できまい!いやはや、しかし流石魔王だ。あれだけ用意しておいた酒がもうほとんど残ってない。何度も折って作った度数の高い酒だってのに。まあ、でも作戦成功だ!


「これでよし。ささ、ランドウさん()っちゃって下さい!」


ランドウは呆然としていた。どうやら状況がまだ上手く飲み込めていないようだ。


「ランドウさん?おーい、ランドウ先生!」

「あ、あぁ、すまない。あの魔王がいとも簡単に・・・」


そうして我々は諸悪の根源たる魔王を討ち取ったのだった!

え、酔わせて倒すだなんて勇者らしくない?卑怯だって?何をおしゃいますか!

化け物、魔物を酔わせて倒すのは日本では良くある事じゃあないですか?僕は

ただ、偉大な先人達のやり方を真似ただけです。別に卑怯じゃないですー。

工夫ですー。そう、勝てばよかろうなのだ。


さあ、魔王も倒したことだし、これからどうしようか。スキルを生かすならやっぱり農家かなー?いや、料理人として店を構えるのも捨てがたい!未知の食材も沢山あるだろうし、ああ、夢が広がる!


「すごいな、あんたは。創意工夫であの魔王をほんとに討ち取っちまうなんて。」

帰り道にアルトスが話しかけてきた。


「いやいや、今回はたまたま。それに討ち取ったのはランドウじゃないか。」

「俺がやったのはいいとこ取りさ。俺一人じゃ、勝負にすらなってねぇよ。ありがとな、おかげで国は救われた。本当にありがとう。」

流石、王国一の剣士。愛国心あふれるなんて良い奴なんだ!


「頑張ったのはお互い様だろ?国に戻っても仲良くしてくれ。店と兼業で農家始めようと思ってるんだ。ひいきにしてくれよ?」

「あっはははははっ!魔王を倒した勇者が何を始めるって?あんたジョークも一流なんだな。」


はい?一体どういうことだ?




国に戻ると大歓声で迎えられた。これ、国民全員出てきてるんじゃないか?

「おお、勇者様!よくぞ魔王を討ち滅ぼして下さいました!」

国王がまた直々に出迎えてくれた。この人フットワーク軽すぎない?

「すさまじい歓声ですね」何気なく僕は言った。

「そりゃあもう、魔王が討伐され、次期国王が誕生するとなってはこの歓声も当然でしょう?」

「次期国王?それはおめでたい!一体どなたが?」

「どなたが?面白いことをおっしゃる。勇者様以外誰がいるのですか?」

「え、僕!?」

「魔王を倒した勇者は王女と結婚し、次期国王となるのですよ。おや、ご存じありませんでしたかな?」


たしかに、そういう話はよく聞く。けど、それって物語によるじゃん!王様、大事なこと言ってない!

ランドウが言ってたのって、コレかぁ。国王とか、柄じゃないって!

いったいどうしたものか・・・


最後までお読みいただきありがとうございました!


最後に★で応援していただけると作者の活力になります。


感想もいただけるとうれしいです。



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