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なろうっぽい小説

完璧にお美しいお姫さま

作者: 伽藍

公爵令嬢の婚約者を持つ王太子を寝取ろうとした伯爵令嬢が、死罪に処されることになった。その前の、巻き込まれて死罪になる母親と娘の心温まる一場面のお話。

 オコーナー伯爵令嬢のマーシーは、十歳になる頃には美少女として随分と有名になっていた。


 ほんの幼い頃から片鱗を見せていたマーシーの美しさは、王立学園に入学する十六歳になるといよいよ国で一番とまで謳われるようになった。男性だけではなく女性まで、その美しさに思わず視線が吸い寄せられてしまうほどだった。


 けれど、その美しさに反して性格には随分と問題が多かった。マーシーは自分が美しいことを自覚しており、しかも自分の美しさを悪いほうに利用することを躊躇わなかったからだ。

 マーシーは生徒でも教師でも男と見れば見境なくすり寄り、男たちに高価なものを貢がせては見せびらかした。気に入らない女子生徒がいれば、取り巻きの男たちを使って嫌がらせまでする始末だった。


 やがてマーシーは、一人の男子生徒に狙いを絞ることになる。それは、マーシーよりも二歳年上で学園の先輩でもあるこの国の王太子だった。


 王太子には公爵家のご令嬢である婚約者がいたが、王太子は自分の婚約者よりもマーシーといることを好んだ。やがて、決定的な出来事が起きる。

 とある夜会の休憩室で、王太子とマーシーが睦んでいるところが目撃されたのだった。これにより王太子は廃位と謹慎となり、同時にマーシーは捕らわれることになった。


 ほどなくして、マーシーは家族もろとも死罪が決定された。マーシーがただの伯爵令嬢であれば、これほど重い罪に問われることはなかっただろう。けれど、マーシーには一つ事情があった。

 マーシーはもともと、国王の二つ違いの弟である王弟の婚約者なのだった。


 マーシーの美しさを見初められて、王弟から求められた婚約だった。王弟はマーシーを溺愛していたので、ある程度の奔放さには目を瞑っていたが、さすがに王位継承権にも関わる王太子との密通は看過することができなかったのだ。


 そうしてマーシーとその家族は毒を飲み、オコーナー伯爵家はひっそりと貴族社会から名前を消すことになった。


***


 さて、マーシーは毒杯を飲む前に、家族と面会する機会があった。もちろん同じく死罪となる家族も捕らわれていたので、騎士たちに囲まれての面会だった。


 身も世もなく泣きながら責め立てる母親を前に、マーシーは薄らと笑った。


「どうしてこんなことをしたのか、ですって?」


 これから死ぬことを理解できていないかのように、マーシーは首を傾げた。牢の劣悪な環境にあってもなお、マーシーの美しさは衰えることを知らなかった。


「だって、どうせ数年後に死ぬのであれば、いま死んでも一緒でしょう?」


 ひどく無邪気に、マーシーは言った。マーシーの表情に曇りはなく、後悔など一つもしていないようだった。


「オコーナー元伯爵夫人、あなたが取りつけてきた王弟殿下のご評判を知らないとは言わせないわよ。だってあれほど有名ですもの。王弟殿下はとってもとっても有能で、穏やかな気質であられる国王陛下をお支えするためには不可欠な存在だけれど、心が欠けているから妻になったものはみーんな三年も経たずに死んでしまうのだもの。わたしは確か、六番目のご正室様の候補だったかしらね。今まで亡くなった元ご夫人がたは、みーんな痩せ細って、全身あちこち傷だらけで、中には歯が一本も残っていなかったお方までいるのですって。まさか、わたしがその噂も知らないとでも思っていたの?」


 元伯爵夫人と、マーシーは自分の実母をまるで他人のように呼ばわった。


「王家に求められたのだから光栄なことでしょう!」


 強い調子で元伯爵夫人が返せば、マーシーはころころと笑う。


「以前にとある男爵家の娘がお嫁様にと求められたときには、男爵家はまるごと国から逃げ出してまで娘を守ったそうよ。それに、我が家はもともとそれなりに力のある伯爵家で、元伯爵夫人は元侯爵令嬢、更に遡ればわたしのお祖母様は元公爵令嬢だそうね。別に何が何でも結ばなければならないほど政略的な意味もないのだから、求婚をお断りすることはできなくはなかったはず。わたしの命なんかよりも、王家から出される支度金のほうがよっぽど魅力だったのね」


「貴族なのだから――」


 言い返そうとした元伯爵夫人を、マーシーは鼻で笑って遮った。


「御託は要らないわ。元伯爵はそうかも知れないけれど、元伯爵夫人、あなたは違うでしょう」


 そこで初めて、マーシーは笑みの種類を変えた。子どもみたいに無邪気な表情から、悪意のある表情へ。


「あなたはわたしが不幸な結婚をする姿が見たかったのよね。それで、わたしが飛びきり不幸になって、虐げられて、ぼろぼろになって、苦しんで苦しんで苦しんで死んでいく姿が見たかったのでしょう。元伯爵夫人は昔っからわたしのことを嫌っていたものね。いいえ、それとも憎んでいたのかしら」


 ちら、とマーシーは母親の隣に座る父親に視線を向けた。官僚としては有能であったらしいけれど父親としてはいるもいないも変わらなかった男は、真っ青な顔で黙りこくっている。


「あなたがわたしを憎む理由を教えてあげましょうか。わたしが、美しいことが気に入らなかったのよね?」


 貴族として完璧な、美しい角度で首を傾げて、わざとらしく嘆息する。


「ごめんなさいね、美しくって」


 うふふ、とマーシーは笑った。飛びきり悪意に満ちた声だった。


「元伯爵夫人も整った顔立ちではあるけれど、どうしても地味だものね。だから華やかで美しい、社交界でも評判のわたしが、憎くて仕方がなかったのでしょう。あなたに煮え切った熱湯を浴びせられたとき、とっても熱かったわ。火傷を負ってのたうち回るわたしを、笑いながら真冬の池に突き落としたこともあったわね。繰り返し繰り返し背中を鞭で打たれたときは、何日も痛みで満足に動けなかったのに使用人の真似事をさせられたわ。夜中にわたしが寝ていたらいきなり部屋に入り込んできて、無防備なお腹を思い切り蹴り上げてくれたこともあったわね。周りに気づかれたら不味いって自覚はあったのか、毎回毎回律儀にお高い診療費と口止め料まで払って魔法医師に傷を治させていたから、傷と痛みが残らなかったのは良かったけれど」


 そんなことになっているとは知らなかったのか、元伯爵が愕然とした顔をする。本当に、いてもいなくてもいないような男だった。


「だからね、こう思ったの。あなたを巻き込んで盛大に破滅してやろうって。だからわたしが王弟殿下と婚約することになったのは、とってもとっても嫌なことだったけれど、ある意味では幸運だったわ。王弟殿下の婚約者が浮気なんてしたら、実家にまで累が及ぶに決まっているものね」


「マーシー、あなた――」


 元伯爵夫人が激高して立ち上がり、向かい合って座るマーシーに近づいて来ようとする。その姿を、監視していた騎士たちが押さえた。


「あら、ありがとうございます、騎士様がた。実家にいた頃よりも、牢の中のほうがよっぽど快適だし安全だわ」


 人びとに称えられる、完璧に美しい笑みで、マーシーは言った。それからまた、元伯爵夫人に視線を戻す。


「元伯爵夫人、あなたはわたしを憎んでいたけれど、きっと気づかなかったのでしょうね。あなたがわたしを憎んでいるのと同じくらいに、もしかしたらそれ以上に、わたしもあなたを憎んでいるってこと!」


 マーシーは言いながら、ころころと笑った。くすくすと笑った。ころころ、くすくす、鈴を転がすような笑い声はやがて大きくなり、けらけらと悪意のある笑いに変わる。

 そうして、笑って、笑って、笑って――。一頻り笑い終えたあと、マーシーはふと飽きたように笑うのを止めて、ごっそりと表情の抜け落ちた顔で言った。


「ざまぁ見なさい」

最近は判りやすいざまぁ小説って書いてなかった気がするので、これは判りやすいお話なのではないかなと思います! 諸説あります(魔法の言葉)


母親が娘に女として嫉妬して娘を虐げるって虐待の理由としては別に珍しくなくて、娘を不幸にしたいがためにろくでもない男と無理やり結婚させようとするって現実でも普通にあり得るお話だと思うのですけれど、そういえばどうしてかなろう小説ではこのパターンあんまり見ない気がするなあ、と思ったので書いてみました。わたしの観測範囲でのお話なので「いや、あるよ!」ってなったら済みません


本当は、母親(元伯爵夫人)がもともと実妹に婚約者を一度奪われていて、マーシーがその実妹に似ていたので~みたいな案もあったのだけれど、それだと憎しみの軸がブレるなあと思って没になりました。ここでこっそり供養しておく


【追記20250612】

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/799770/blogkey/3455945/

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 母親が娘の不幸を望んでるってパターンのなろう小説は、大抵、評判が録でもない男に嫁がせたけど、実はイケメンのスパダリで、娘は幸せになって母親はざまぁされるってのがセオリーですからなぁ。まぁ、実母でなく…
ド派手な自爆をして家ごと吹っ飛ばせる上に、王太子を誑し込んだ毒華として名を残しますもんね… しかも1番美しい姿のままで皆の記憶に残るし… 王弟の所に輿入れしたら若死にするわ嗜虐の限りを尽くされて美し…
穏やかだけど無能な王と有能だけど人格的に王にしたらあかん王弟の究極の選択で、無能をヤベー弟が支える形にしたのがそもそもおかしい。 直系に王位を継げる奴が他にいないにしろ、臣籍降下した王族の子孫や平民相…
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