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第三話


「赤西産業開発の木瀬陸堂さんですな?私、極検特捜部の北峰と申します」

「は、はあ、これはご丁寧に」

 突如現れた特徴的な訛りを持つ中年男性は私に名刺を手渡した。

 名刺て。


 そこには「極楽検察庁特別捜査本部 検事 北峰行司」とあった。

 極楽検察庁て。


「ご、極楽にも居るんですか。検事さんって」

「昔は奉行言うたらしいんですけどな。戦後改名されまして」

 戦後て。


「あの世も色々変わりましたんえ?のお達しで。葬頭河の婆さんなんて「死者と言えども財産権は守られねばならない」て言われて家業を禁止されて、無職になってしもたんやさかいに」

 なんというか、なんともまあ、夢のない「死後の世界」があったものである。


「ま、まあとりあえずあなたの事はわかりました検事さん。ど、どうしてここにいらっしゃってるんですか?」

「ああ、そうそう。それをお伝えに来ましたんや。今、ちょっと地獄の全業務が停止中でしてな。暫くは死ねまへんねん」


 は、はい?


「と、止まるんですか?地獄って」

「いや、近年稀に見る異例の事態で上に下にの大騒ぎですわ。なんで色々手続きに行き違いがありまして、それであなたもここで置いてきぼりになってますんや」

 北峰さんは頭を掻いてそう答えた。

 そして私は頭を抱えたくなるような以下の事を伝えられたのである。


「まず、先週の話なんですけどな。閻魔大王が贈賄で捕まりまして」

「先月ぐらいに裁きを受けた人間の一人に、そっちの世界で経営をしてたとかいう爺さんが来たんですけども。それはもう人々に情けをかけず絞り尽くし、地上げに談合、天下りの斡旋、脱税、贈賄、偽証罪。そして風説の流布に粉飾決算、インサイダー。ま、ありとあらゆる悪行を繰り返した地獄の釜底行き待ったなしの男やったのに、これ、袖の下を貰て極楽に行かせよりましてん」

「そりゃ昔は「地獄の沙汰も金次第」なんて言いましたが、今は違う。「裁く側も浄玻璃化せんといかん」言うて、浄土資金規正法ができてからは六文銭の取り扱いも大事にせなならんと言うのに、あの閻魔大王は古い人かやからかその辺が雑で」


 …それで、逮捕と。閻魔が。

 何故、死んでまで夕方時のニュース内容みたいな事を聞かねばならないのか。最近見てないけど。


「そ、それで地獄が休止してるんですか…」

「いや、本題はここからですねん。アカンのが閻魔大王だけなら、選挙で次が決まるまで代理で他の十王がなんとかしますさかいに」

 まだ、続くのか。これが。

「いえね?その贈賄を皮切りに閻魔庁に獄税が査察に入ったんですけどな?そこでなんと、獄土ウィルと六瑠堂からの裏金とキックバックを貰とる証拠が出てきましたんや!これが!」

 一般名詞と思しき語句にはもはや突っ込むまい。たぶん国税庁かなんかのこちら版だろう。

 しかし固有名詞はわからないので聞くしかない。

「失礼。ごく…ど?なんとかと、りくる…?なんとかとは?」

「ああ、こちらこそ失礼。ちょっと興奮しすぎましたわ。正確には色々違うんですけども、わかりやすさを重視して言うならば、そちらの知識で言うところの人材派遣ってのをしとるとこです」

「は、派遣業鬼でもよこすんです」

「そんな事したら一気に地獄から鬼がのうなってしまいますわ。ただでさえ少鬼高霊化社会て言われてますのに。この地獄八景にぎょうさん居るもん言うたら、亡者に決まってますやろ」

「ますやろってあなた…。ま、まあいいです。それで、死者の魂をどこにやるんです?」

「異世界でんがな」

 はい?

「聞くところによると地球の魂は「密度が濃い」言うて、他所では重宝されとるそうで。送り先の神連中が色々弄り回しても壊れんとかなんとか。で、さっきもちょっと葬頭河の婆さんが失業したとか言うた思いますけど、その他にも地獄でやっていけんようなった事業が結構ありましてな。それらの収入が軒並みゼロになったから、まさに「沙汰出す地獄に金が無い」なんていう状況になりまして。そこで、地獄から「魂」を送り出して、その返礼でこっちに来る他所さんの金銀財宝が地獄の重要な歳入になり、異世界転生ビジネスとして成立してしまったんですわ。さっきの社はこれの最大手です」

 血の池も無いのに、何故こんな生臭い話を聞かねばならないのか。

 ここは地獄か。地獄だ。


「で、ここまでは時の流れやから良いとして」

 良くねえよ?

「ビジネス化してしまった事で起きた問題がありまして、亡者はいっぱいおっても具合のええ魂ってまあそんなに数が無いんですわ」

「人の魂を山菜か何かだと思ってらっしゃる?」

「その割り当てを行うのも閻魔庁の仕事やったんですけども、そこでより多くの魂を得るために、これ、鼻薬を嗅がせてた。これがさっき言った贈賄の正体です」

 私の中の色々がガラガラと崩れていく気がしたが、もはやここまで来たら毒を食らわばなんとやらである。


「…もういいです。わかりました。それで?キックバックは何で何をバックして貰ってたんです?」

「そう!それ!」

 北峰さんはパンと手を打つ。


「話を色々脱線させてしもて偉うすんません。ここからが木瀬さんにも関わって来る話になります」


 ふむ?

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