第二話
私は、死んだ。
私はその可能性に行き着いたが、それでいて「別にそれならそれでもいいか」とも考えていた。
私は、疲れていた。
毎夜毎夜、家にたどり着くのは日付が変わる少し前。
毎朝毎朝、家を出るのは夏でやっと日を浴びる事ができる時間帯。
会社はその親会社の会長がクソみたいな吝嗇家らしく、給与は薄く、基本外の支給は極限まで絞られ、賞与は寸の志もなく、設備はボロく、そして臭い。
使い古された時代遅れの機材は、動作はもちろん立ち上がりもままならず、しかし動かしたままでは熱を排せず停止する。
ただただ額面上の金銭の支出の圧迫のみが優先され、それ以外のあらゆるコストでもってそれが穴埋めされていた。
私自身、転職を考えた事もあった。
しかし、それを行う時間と気力と体力は残されていなかった。
ならば退職すべきだったのかもしれないが、私はその一歩を踏み出せずにいた。
世間では景気がどうの市場がどうのと言われているが、今一度就活をするのが私は嫌だったのだ。単純な話だが。
まあ、やがてはその逃避が限界になる時もあったのかもしれないが、もはやそれはどうでもいい事だろう。
だって私は死んだんだもの。
別に望んでいたわけではないが、退職を決断するのとは「また別の一歩」を踏み出してしまったのとそう変わりはあるまい。
この先に待つのが異世界だか輪廻での転生かは知った事では無いが、実際に「死後」なるものが存在し、「次」もあるとなれば今度はマシな生活をしたいなあとかなんとか考えていた所で再度はたと気がついた。
私はいつまでここで待てばいいのだろうか。
私は近頃の傾向通り時計をしていなかった。
しかし、その代用の代表であるスマートフォンは手元になかった。確かにポケットに入れていた筈なのに。
というか、どうやら転生であるとしても私はスマホと共にある事は無いらしい。
ともあれ、まだ実は数分しか経っていないのかもしれないが、ここまで長々と色々考えて思い出していても辺りの暗闇には全くの変わりがない。
役場や銀行の待合みたいに番号が示されているわけでもない。
いつまで私は待たねばならないのか。
それこそ手元にスマホがあれば、オフラインに保存した動画やらなんやらで時間を潰す事もできたかもしれないのに。
そもそも待つのはここでいいのか。
いや、ここじゃないとするならどこに行けばいいのか。
どこかに行く事はできるのか。
違う方向性から私の心に不安が忍びよる。
いつ行われるかも知れない「死後の裁き」なりなんなりの時まで、何もできず、何をする事もなくただただ無の空間で孤独を過ごさなければならないのだろうか。
私が一体何をした。
そんな罰を受ける謂れはない筈だ。閻魔大王なり神様なりの基準や判例は知らないが。
私は良くも悪くも何もしていないし、何もできていない。
部屋に紛れ込んだ蜘蛛を外に逃した事ぐらいはあったかも知れないが、その糸が垂れてくるのはもうちょっと後の事だろう。
いや、何かイベントが起こってくれるならもはやなんでもいいのだが。
考える事しかできないために、色々私が考えていると、突如それは「聞こえた」。
「ああ!やはり確認しててよかった!まだ残りがおったわ」