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今世の「推し」がいく

作者: えすわい

 続編、です。が、このお話のみ単独でも、お楽しみ頂けるハズ、です。たぶん?


 前世の記憶が、生えた。

 

 その瞬間から私は、なかなかに波乱万丈な人生、って奴を十二分に、それはもう、みっちりと堪能させて貰ってる。


 (よわい)十八にして、もう既に私は、人生経験が結構なレベルで豊富になっていた。

 まあ、ね。人生も二周目になると、自然と厚みも出てくるものさ、なぁ~んて諦めてるけどね。おほほほほ。


 たぶん、ね。こいつのせい、だよねぇ。十中八九。

 こんな、虚構(フィクション)では平々凡々だけど現実にはあり得ない非常識(ナンセンス)な記憶が装備されたから苦労する、のよ。あっはっはっはは。


 ん、んん?


 前世の記憶が生えたお陰で、リスキーな人生になった、と言い切っても良いのか?

 いや寧ろ、生存の危機に直面し前世の記憶が生えてきた、ってことじゃないかな?

 むむむむ、む。いやいや、この二つ事実の間に相関関係など皆無、のような気がしないでも無いこともない、かも...。


 閑話休題。


 と、まあ。それは兎も角、として。

 私の人生は、現時点も含めて相も変わらず、修羅場(ハード・モード)が続いている、のであった。合掌。




 我が屋敷の、私の安らぎの場であり、お抱え職人たちと当家の精鋭たる使用人たちが丹精込めて整備した、広大で麗しい庭園が...傍若無人な輩どもに、現在進行形で、荒らされていた。

 私お気に入りの外壁が真っ白に塗られた可憐で豪奢な屋敷の中でも、あちらこちらで今、何かが破壊されている不穏な効果音が鳴り響く。


 あっちで、ガシャン!

 こっちで、ボッコン!

 そっちで、ズボボボ!


 はぁ。ついつい自身の思考を在らぬ方向へと飛ばしてしまう程に、現状は酷い。

 私の頭を、強烈な痛みが猛然と襲ってきている。

 そう。頭痛が痛い、という奴だね。とほほほほ。


 いや~、読みが甘かった、かぁ。


 まさか、ここまでも破天荒な行動を、何の躊躇もなく平然と楽し気に集団で起こされてしまう、とはね...とほほ。

 ホント、これは、想像の埒外だよ。


 確かに。招待したお貴族様ご本人たちは、悠然と優雅に過ごし、何の問題行動も起こしていない。

 うん。意地の悪い笑みを浮かべ、こちらを見下し切った態度が見え見えというか露骨だ。

 が、しかし。流石は一流、ご本人にはマナー的にケチの付けようがない完璧さ、だった。


 ただ。その同行者たちが、無茶苦茶な行動を取っているだけ、なのだ。


 舐められている、のだろうなぁ。

 そう。反撃など出来まい、と高を括られている。


 はぁ。


 (いささ)か、焦り過ぎた、のかな。

 まだまだ、私が「推し」に近付くため大きくジャンプアップを狙うには、時期尚早、だったんだね。

 と言うか。これ、明らかに準備不足、だったんだよ。しくしくしく。


 現在の私の爵位と地位では、まだまだ、高位貴族家の皆様を招いた茶会の開催など、無謀だったよ。


 お勉強代がお高くついた、って感じではあるけど、この程度で私は負けを認めたりしない。

 そう。ネバーギブアップ、だぁ!



  * * *



 広大な王宮の庭園にて、遥か彼方に微かに見え隠れする可憐な姿。


 私は、己が視力を根性で最大限まで振り絞り、尊く拝ませて頂く。

 うん。今日も、カナちゃんは、可愛い。

 そう。暫定お名前を勝手に命名している私の「推し」である美少女、高位貴族家のご令嬢さま、を拝む。


 ありがたや、ありがたや。


 という訳で。私は、我が「推し」である彼女の姿を自身の目に、シッカリと焼き付ける。

 そして。恋しい我が自宅へと向かって、(きびす)を返すのだった。

 莫大な費用と家人の手間暇を掛けて復旧させた、庭園付き一軒家のそれなりには豪華なお屋敷へと向かって...。


 てくてくてく。

 と、優雅に速足で帰路につきながらも、改めて考える。


 ついつい焦って、高位貴族家を招待し、我がお屋敷にてお茶会を開催してみたのだが、あれは散々だった。

 欲張って、彼女の基本情報くらいは知っているであろう、私より格上である貴族家の中でも別格の、伝統派とも呼ばれる伯爵家の方々をターゲットにしたのは、明らかに勇み足だったね。


 本日は、幸運にも麗しい彼女の姿をシッカリと堪能できた事だし、改めて、爵位アップに向けた暗躍を開始するとしよう、と固く心に決める私だった。




 私の、今までの、貴族社会の中での外交路線は、中立の一本やり、だった。


 領地を授かっている貴族であれば、地域閥っぽい感じで、領地の隣近所や地理的な要因から、(おの)ずと所属する派閥が決まってくる、らしい。

 のだが...私は、残念ながら、領地を持たない法衣貴族として爵位を得ているので、そのような繋がりが全くない。

 その上。(みずか)らが商会長を務めて手広く商売をし、貪欲に売り先と利益を追求してきたので、特定の集団や派閥に属することは意図的に避けてきた、といった経緯もあったりする。


 つまりは、中立外交って奴を実践していた。うん。全方位外交、という奴だね。


 しかも。ここ数年で台頭してきた成り上がり、でもあるので、周囲とは少し距離をおいていた。

 出来るだけ敵は作らないようにと心掛けてはいたけど、一方で、積極的に親密な味方を作ろうともしなかった。

 だから。貴族社会の中では、孤高を気取っている、と見做されていた可能性が高いと思われる。


 う~ん。

 さて、どうしたものだろうね。


 まあ、目的はハッキリしてる。

 今世の私の「推し」である仮称カナちゃんを幸せに出来るポジションを得る、のだ!


 が、しかし。困った。

 肝心な彼女の立ち位置どころか本名さえ得ることが出来ない現状では、付くべき派閥すら決めれない。


 むむむむむ。


 いや~。どうしたものかねぇ...。




「商会長!」

「ん?」

「また、サボってたんですか?」

「いやいや、違うよ、情報収集だよ!」

「ウソおっしゃい!」

「ええ~」

「どうせ、また、美少女を傍から見てデレデレしてたんでしょうが!」

「...」

「ほら、アンタがまた事業拡張するって言ったんでしょ!」

「まあ、そうだけどぉ...」

「エリ~?」

「は~い、分かりました。働けば良いんでしょ、働けば」

「そうよ。シャキシャキ働きなさい!」

「はぁ。マリさんって、容赦ないよね」

「ナニ言ってるの、アンタが私を巻き込んだんでしょうが!」

「いや、まあ、そうなんだけどぉ」

「ほれ、文句を言わず、仕事する!」

「ほ~い」


 強制的に自立させられ初の住み込み労働した宿屋で、先輩従業員だったマリさん。

 (なり)振り構わず強引に喰らい付いて成り上がるぞと決意したその時、偶然にも直ぐ傍に居た優秀な人材。

 当然、私が放っておく筈もなく。ほぼ無理やりに巻き込んだ、んだよね。


 うん。よくやったぞ、私。

 はっはっはっはは。


 頼れる美人秘書官様に、乾杯ぁ~い。



  * * *



 実力主義というお題目が付けられた、弱肉強食なこの社会。


 うん、自己責任。

 騙された方が悪く、付け入るスキを作った方が負け。

 他人は利用するモノであり、手柄を奪うのは当たり前で、結果が全て。


 爵位は一代限り。でも、権限と経済力の差は歴然で圧倒的な、超格差社会。

 つまり、建前上では機会均等社会であっても、実質的には誕生時点で出来レースの階級社会。


 世の中、何かと世知辛い。


 とは言え。

 今の私が奪取した地位くらいまでなら、そこそこな割合で駆け上がることは可能、だったりする。


 ただし。

 ここは、地位の維持は短期や一世代限り、が定番化した、弱肉強食が最佳境の激戦区、だ。

 成り上がるのも早いが、落ちぶれるのも一瞬で、頻繁に入れ替わりが発生する地位(ポジション)なのだ。


 はぁ~、あ。ここに至るまで、相当な努力を重ねて来た、のにねぇ。


 本当に、諸行無常な世の中だよ。


「エリー様?」

「何でもない。ちょっと黄昏ていただけ、だよ~」

「はあ...」

「で。あの案件は、どうなったの?」

「はい。実はですね...」


 一見すると気弱で大人し気な感じだけど、実際にはバリバリの剛腕実務家である、クララちゃん。

 茶髪にグレーの瞳を装備した儚げな外見の美人さんが、サクサクと要点を説明しながら速やかな決断を迫ってくる。


 いや~、この静かで重厚な圧に、私はいつもタジタジだよ。


 傍から見ると、たぶん、可愛らしい美人さんと私の親し気な雑談シーンなんだろうけど...。

 このクララちゃんも、全く容赦がない人、なんだよね。


 まあ。その分、実力も確かで、実績を積み上げてきた圧倒的な強者、なんだけどさぁ。


 そう。何故だか、私の周りには、仕事が出来る女の子たちが揃っている。

 ただし。結構な割合で、見ためのイメージを中身が裏切っているタイプの子が多かったりするけど。


 と、まあ。それは兎も角...有難いこと、である。本当に。


 私自身も、まだまだ若い女の子、ではあるし?

 男は、物理的にもいつ下剋上を起こすか分からない、生き物だし?


 ついつい私が、無意識に周囲を同年代の女性で固めてしまっている、といった可能性はあるけどね。

 はっはっはっはは。てへっ。


 と、まあ、そんな訳で。今日も我が商会は、通常運転であった。



  * * *



 二十一世紀の日本に存在する風物詩の一つ、満員電車。


 人が溢れて扉が閉まらず、発車時刻はとうに過ぎたが停車したまま。

 だけど。車内の通路に人は疎らで、少し詰めれば多数の人が入れる余地が十二分にある。


 開いた扉に近い入り口付近の空間は、ギュウギュウ詰め。

 そこから車内通路の奥へと続く関所で、自身の立ち位置を死守し踏ん張る迷惑そうな表情の者が数名。

 そして。直ぐ傍で繰り広げられる押し(くら)饅頭を他人事だと見向きもせずスルーしてる人、少々。


 そんな情景を目の当りにし、カリカリしている私は、変わり者。


 周りの人は皆、見慣れた当然の事象と捉え、何食わぬ顔し気にも掛けない。

 揺るぎのない平常心で、自身の興味ある手元のコンテンツに没頭している。


 うん。これが、私の前世での記憶にあり声高にその存在を主張することが多い日常の一コマ。


 他者を思い遣りましょうという理想論的な布教の言葉を真に受けた私は、単なる道化。

 赤の他人であっても同じ場所に居合わせた隣人を思い遣った行動を取るも、一方通行。

 周囲が全くそれに同調していない現実に直面し、怒りを覚え。物悲しい気持ちに沈む。


 他人に期待するから、裏切られたと感じ、イライラするのだ。


 自分と他者は全くの別モノ、価値観や倫理観は異なって正常。

 この世には、人類共通の常識などという御伽噺は存在しない。


 それが真実、なのだろう。


 アンコンシャスバイアス。

 ダイバーシティとエクイティとインクリュージョン。

 前世で大いに持て囃され一世を風靡していた数々の横文字単語たちを、思い出す。


 常識を疑い、差異を当然と捉え、多様性を尊重する。

 そう。他者に自分と同じ常識が備わっている、などと考えるのは論外。


 受けた恩には、恩で報いる。なぁ~んて甘々の考えを持っていては、ダメ。

 目には目を、歯には歯を。をモットーに、常に身構えておくべき、なのだ。


 ホント、世の中は世知辛いよね。


 などなど、と。

 まあ、何とも、ドロドロした根暗で陰気な思考にドップリずっぷり浸かってしまっている、私。

 何故にこのような状態に陥っているのか、と言うと...実は、私の「推し」に関する悲しいお知らせ、って奴を受け取ってしまったから、だった。


 はぁ、あ。悲しい。世も末、だよ。


 本当に、もう、嫌になる。

 少しくらい、私に楽しい夢って奴を見せてくれても良いのに、と痛切に思うのだが...。




「はぁ~い、ご報告、しまぁ~す!」

「はい、はい。何か、追加情報が出て来た?」

「はい!」

「はぁ、そっかぁ。あまり気が進まないけど、聞いておいた方が良さそうね」

「はい、是非とも、お聞きください!」

「はい、どうぞ」


 今日も元気な、アリスちゃん。


 何を隠そう、彼女は、某組織のお試し商会員、第一号だったりする。

 そう。当商会が満を持して立ち上げた、高位貴族家を対象とする諜報機関、みたいな部門の。


 アリスちゃんは、ソコソコな地位にある立派な高位貴族家の生まれ、だ。

 けども。

 超子沢山な家系(?)に起因する裕福とは言えない厳しい人生を、現在進行形でサバイバル中。


 うん。世にも稀な、五女で七番目のお子様である、元気なボクっ子なのだ。

 いや、まあ。ボクっ子は本筋に関係ない情報、だけどね!

 関係はない、けど、少しくらいは明るい話題が欲しい、じゃないか...。


暗号名(コードネーム)カナちゃん、本名カテリーナ様は、王立魔術学院への進学を目指している模様です!」

「んん?」

「公爵令嬢様としては異例、ですね!」

「...」

「だけどぉ、カナちゃんの魔術に関する才能は抜群のピカ(いち)でピカ~と光り輝いている、らしいのです」

「う~ん?」

「ボクの調査結果に、間違いはありません!」

「いや、ねぇ」

「完璧です!」

「けど、さあ」

「調べは付いてます!」

「えっと...それ、誰情報なの?」




 お試し雇用し、いざ活動を開始してから暫くの間は梨の礫だった、アリスちゃん。

 マイペースなので、まあ、ダメ元でも仕方ないかぁ~、と方向転換を検討し始めたタイミングで、大金星を挙げた。


 私の「推し」である仮称カナちゃんの、本名を突き止めて来た。


 そして。

 最初の取っ掛かりさえ掴んでしまえば、手掛かりさえ得られば、あとは速い。


 優秀な我が商会のスタッフたちは、その真偽をシッカリと確かめ迅速に何重にも裏付けを取り。

 貴族社会に流れる各種の噂話や風聞やゴシップ情報などなど、ゴッソリ着実に搔き集めてくる。


 うん。情報収集は、商売の基本、だからね。

 若い子が多い新進気鋭の商会だけど、短期間で成り上がっただけあって、基礎能力は高いのだ。


 で。その結果、私の手元に集まってきた情報によると...。


 カナちゃんはカテリーナ様で、不遇な公爵令嬢、だったのだ。


 シクシクシク。

 何だか、彼女の笑顔がレアだなぁ、とは思っていたのだ。

 けど、高貴なお嬢様って、そんなモノだよなぁ、と。


 周囲に人は居るけど、皆が余所余所しいなぁ、とも実は感じていた。

 彼女は孤高な人なんだ、格好いいよね、と。


 はぁ。まだまだ私も、若輩者だね。




 そこに追加された、新情報。なんだけど、これ本当、なんだろうか?


 王立魔術学院とは、二十一世紀の地球における大学もしくは大学院といった趣の教育機関、だ。

 う~ん、教育機関というか研究機構、という方が正確、かな。

 研究機関であり成果を競い誇るために公表する機会と場所が備えられた、王国の公的組織。


 当然、ここでは熾烈な競争と成果の奪い合いが、日々延々と繰り広げられている、らしい。


 ちなみに。


 前世の世界で蔓延していた異世界モノによく描かれている、貴族の子弟たちが通い集団生活を送る学園。

 未成年者を対象とし卒業がほぼ義務になる、小学校と中学校と高等学校、に相当する貴族子弟向け学校。

 などという代物は、この世界というかこの国には、存在しない!


 うん。

 身分を問わない、といった状況(シチュエーション)など、この世界に一切あり得ない。

 皆が平等な集団生活、などといった妄想の世界にも需要は欠片もない。


 そう。

 経済的に余裕があるならば、家庭教師を雇うことになるのは当然の帰結。

 優秀な人材を育てるノウハウや仕組みは、囲い込んで秘匿するのが当然。


 自分自身の強化と配下への恩恵誇示は、他者との競争に打ち勝つ力の根源なのだ。

 おいそれと手の内を部外者に晒してしまうなど、愚者の行動でしかなく、論外だ。


 それが、弱肉強食を徹底的に極め全て自己責任と見做される社会の、行き着く先。




 と、まあ、また変なテンションで、脳内思考が熱く語って暴走してしまったが...。


 カテリーナ様ってば、いったい、何を考えておられるのだろう?

 う~ん。平凡な頭脳しか持たない私では、まだまだ、我が「推し」の崇高な思考に追い付くのは難しい。


 けども。


 茨の道を、「推し」が行く。

 ならば、私のすべきことは、その後押し、だよね。

 こっそり目立たず先回りし、「推し」の進む先の地均しをするのも良し!


 我が人生の次なる指針も決まったことだし、さてさて、ばりばりと働きますか。


 お楽しみ頂けましたでしょうか?

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