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ブレイバーズ・メモリー(3)   作者: 橘 シン


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エピソード27 再開


 ナミとソニアがシファーレンに出発して、一ヶ月になろうとしている。


 私は、ノワール様からいただいた禁忌魔法の研究書を古代語から現代語に訳す作業をしていた。

 

 別にする必要はない。私は古代語を読めるから。


 けれど、ノワール様の言葉を己の言葉に置き換えることで、その真髄をより深く、骨の髄まで理解したいという渇望にも似た思いが、私をこの作業へと駆り立てていた。

  

 インクの香りが部屋に満ちている。


 嗅ぎ慣れた匂いだ。


 一旦、作業をやめて、重くなった目頭を指先で静かに抑えた。


「何かお飲みになりますか?」


 私専属のメイド。カリィがそう声をかけてくれた。


「いいえ」


 

 廊下がバタバタと騒がしくなる。


 何か、嫌な予感が胸に去来する。


 ヴァネッサじゃあるまいし…。

 


「なんでしょうか?」

「さあ…」


 カリィがドアを開ける。


 ヴァネッサが猛烈な勢いで駆けて行くのが見えた。


 彼女があんなに慌てている姿を見るのはそうはない。


 十日ほど前にもあったが、その時と違う感じがする。


「ヴァネッサ様?」


 

 私の胸騒ぎは一層強くなる。そして、その予感が的中するかのように、今度はベッキーが、慌てて部屋に駆け込んでくる。


 彼女の顔は真っ青で、瞳は動揺に揺れていた。


「エ、エレナ様!大変です!」

「どうしたの?」


 彼女は息を整えてから、話し始める。


「はあ…ふう…。ナミと、ソニアさんが、すぐそこまで帰ってきてて、でも、賊に襲われてるんです!」

 

 その言葉を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になった。


 ナミとソニアが、すぐそこに?そして、襲われている?

 

 背筋に冷たいものが走った。


「なんですって…。あなた、どうしてそれを?」


 彼女の説明によれば、北西の方角に光の筋が現れて、異変を感じたヴァネッサが、リサに千里眼を使わせて、判明したという。


 私もすぐに千里眼の魔法を発動させた。


 両手の中に広がる部屋の景色が歪み、遠方の情景へと切り替わる。


 意識を集中させ、シュナイツの北西へ焦点を合わせた。


「ジルさんとミャン隊長が、出ていきました」

「ええ。見えた」


 千里眼には、飛び出したジルとミャンの姿が捉えられている。

 

 彼らの速さ、迷いのない動きから、状況の深刻さがひしひしと伝わってきた。


 私は彼らの遥か前方、報告のあった方角へと視線を飛ばす。



 千里眼に映し出されたその光景に、私は息を呑んだ。


 ソニアは地面に力なく倒れている。その傍らで、複数の賊が、彼女に容赦なく暴行を加えている。苦痛に歪むソニアの顔が、鮮明に映し出された。

 

 次に、ソニアを助けようと、ナミが果敢にも賊へ近づくのが見えた。しかし、彼女はあっという間に賊に腕を掴まれ、まるで人形のように引っ張られ、平手打ちを食らう。


「ナミ!」

 

 ベッキーが悲痛な叫びを上げた。


「逃げて!早く!」


 彼女が、どれだけ叫んでも、この魔法の視界の向こう側にいる二人には絶対に届かない。


「竜騎士隊のみなさんも出ていったようです」


 カリィが廊下からそう話す。


 私は千里眼の魔法を止めた。


「エレナ様?」


 ソニアが暴行されている姿を、ナミが傷つけられる姿を、もう見ていられなかった。

 

 胸が張り裂けそうだった。


 二人をシファーレンに向かわせたのは、私だ。

 

 その結果、二人が賊に襲われている。


 二人に、もし取り返しのつかない何かがあったら…。


「私も行く…」

「エレナ様…今からですか…」

 

 ベッキーの言葉に構わず、私は部屋を出た。


 

 部屋を出てすぐにウィル様と鉢合わせする。


「エレナ…」

「事情はわかっています。私も行きます」

「待つんだ。今から行ってどうする?」


 歩き出した私の肩をウィル様に掴まれた


「二人を向かわせたのは私です。賊に襲われている責任は私にあります」

「責任なら、僕にもある」

「ウィル様に、責任など…」


 私はウィル様を振り返る。


 彼の表情は、私の焦燥を受け止めながらも、どこか苦渋に満ちていた。


「最終的に判断したのは僕だ。もう一人加えるべきだった…」


 彼はそう言って小さく息をはく。



「エレナ…何かをしたいって気持ちはわかるわ…でも、今は待ちましょう」


 リアン様が、そう声をかけてくれる。


 ウィル様とリアン様。二人の瞳に映る心配と、冷静な判断。私は立ち止まった。


「わかりました…。外で、待ちます…」

「ああ。ベッキー、エレナのそばにいてくれ」

「はい!」


 私とベッキーは館の外に出た。



「賊がすぐそこにいる!警戒度を上げろ!」


 ガルドがそう指示すると、兵士達が、慌ただしく走り出す。


「エレナ」

「ライア…」

「君には状況がわかるのではないか?」

「ええ…でも、見ていられない…もし、二人が…」

「大丈夫だ。ジルとミャン、竜騎士達が向かっている」

「ええ…」


 みぞおちのあたりが重苦しい。


「千里眼なら、リサが使えますけど…」

「今の彼女には無理。長時間の使用はできない」

「らしいな。今は無事を願おう」


 

 この時ほど、時間の経過が遅く感じた事はない。


 私は門の辺りをウロウロしていた。


 悪い考えが頭に浮かんでは消し、浮かんでは消しを繰り返す。



「戻ってきたぞ!」

「門を開ける準備をしろ!」


 竜の足音が近づいてくる。


 門が開かれて、ジルと竜騎士が入って来た。


 私はすぐに駆け寄る。

 

「ジル!」

「エレナ様」


 彼女はソニアを抱きかかえていた。

 

 ソニアは力なくぐったりとしている。


「そんな…まさか…」


 私は、手足が震えてきた。 


「エレナ様。ソニアさんは、気を失っているだけです」

「そう…生きている…」

「はい」

「よかった…」

「先生に診てもらわなければいけないので、これで…」

「ごめんなさい。行って…」


 ジルが館へと入っていく。


「エレナ隊長」


 ミレイが、私に向かって敬礼する。


 スチュワートはガルドの方へ行く。


「ナミさんは大丈夫です。軽症のみで、意識もはっきりあります」

「そう…ありがとう…」

 

 私は安堵しその場にしゃがみ込んでしまった。


「大丈夫ですか?」

「ええ…大丈夫…」

「エレナ」


 ライアとベッキーがそばにくる。


「ミレイは、ウィル様と魔法士隊に報告を」

「わかりました。失礼します」


 ミレイが去り、竜騎士二名と竜三頭が門から出ていった。


「とりあえずはよかったじゃないか」

「ええ…本当に…」


 ライアが私の肩を強く抱いてくれる。


「部下を信じる事も隊長の努めだ。受け売りだが」

「確かに…でも、もうこんな思いはしたくない」

「僕だってしたくないさ」


 彼女が苦笑いを浮かべた。


 しばらくして、ヴァネッサ達が帰ってきた。



「ただいま戻りました、エレナ様」

「ナミ、おかえりなさい…」

 

 顔にアザがあり、腕を釣っていたが、しっかりとした口調。


 足取りは問題ない。


 彼女は私に近づき、肩に寄りかかる。


 私はそっとナミを抱きしめた。


「本当にご苦労さま」

「はい…」

「報告は後で聞く。今は休んで」

「はい」


 ベッキーは半泣きでナミに駆け寄る。


「ナミ!」

「ベッキー!」


 二人は泣きながら抱き合う。



「ヴァネッサ。ありがとう」

「あたしは何もしてないよ。着いた時には、もう終わってた」

 

 彼女はそう言って、肩を竦めた。


「あなたの的確な指示が…」

「もういいって」


 ヴァネッサは私の肩を軽く叩き、去っていく。


 竜騎士達とミャンにも礼を言う。


「礼されるほどの事はしてませんよ」

「普通っすよ」


 レスター達は得意げな顔を一切せずに去っていく


「頭なんか下げないでヨ。そんなことされたら、こっちが恥ずかしいヨ」

 

 ミャンは、礼を言う前に行ってしまう。


 

 翌日の午前中にナミからの報告を聞く。


 ソニアは目を覚ましたが、腹部に痛みが残ってるため、医務室で療養中である。


 ナミも肩を痛め、腕を釣っている状態だ。 


 旅の道中に関しては割愛する。


「アタシも行きたかったナァ~」


 ミャンが食事の所にだけ、反応していた。



 治癒魔法に関しては、事前の予想通りで、カレン・カシマ氏はナミの曽祖母であり、シファーレンの研究所に勤めていた。


 研究書も一冊だけだが存在している。

 


「ここからが、大事な話になります」


 ナミが、そう言って私を見つめる。


「カレンおばあちゃんの研究書を、いただく許可は貰えませんでした」


 それは当然の話。


 カレン・カシマ氏の研究書は、シファーレンの研究所のものであり、治癒魔法の重要性を考えれば、おいそれと外部の者へ渡せるものではない。


「写本ならば良いと」

「そうなのか?で、その写本とやらは?」


 写本はここにはない。


「いただくためには条件があるのです」

「なんなノ?条件っテ?」 

「エレナ様」

「なに?」

「シンシア・レーヴ様がエレナ様にお会いしたいと。エレナ様がレーヴ様と会う。これが条件です」


 

Copyright©2020-橘 シン

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