26-47
あたしとレスターが到着した時には、戦闘はおわっていた。
「ナミ!ソニア!」
竜の背から飛び降りると、足が地に着くと反射的に駆け出していた。
「ナミは、大丈夫ダヨ!」
ナミはミャンに支えられている。
大丈夫だと伝えるように、手を上げて頷き返してくれた。
顔色は悪いが、意識はちゃんとあるようだ。
あたしも安心させるように手を上げ、頷き返す。
心配だったのはソニアだ。
「ソニア…」
彼女は地面に寝かされていた。
まるで呼吸をするのも苦しいかのように、全身を硬くしていた。
息は荒く、額を伝う汗、唇はかすかに震えている。
「大丈夫かい?…」
「ヴァネッサ…隊長…」
苦悶の表情を浮かべながら、それでもあたしの名を呼ぶ。
「お腹を強く蹴られたか、殴られたようです」
そばについていたジルが教えてくれた。
言葉を聞いた瞬間、胸の内にどす黒い怒り怒りが湧き上がった。
「女の腹を蹴るなんて…」
なんて奴らだ!。
「早く先生に診せたほうがいいかと」
「そうだね。ソニア?もう大丈夫だからね?」
「すみません…」
ソニアはかすれた声で答えた。
「謝る事なんてないんだよ」
「最後の…最後に…やられちゃいました…」
「何言ってんの。あんたはちゃんと任務を果たしたよ」
「はい…ナミさんは?」
「ナミは大丈夫だよ。あんたより軽症だから」
「よかった…」
安堵の言葉を最後に、彼女は意識を失った。
「ソニア…」
レスター達が賊の死体を片付けていた。
「周囲の警戒もしておけよ」
「はい」
確実に事態は収束へ向かっている。
「ジル」
「はい」
「シュナイツまで運んでもらえる?」
「かしこまりました」
「あんたにはちょっと辛いかもしれないけど」
ジルの顔も疲労の色が濃い。
吸血族は昼間の戦闘を苦手としている。
ジルは慣れてるほうだが、それでも疲れているのが、あたしにもわかった。
「ソニアさんを運ぶくらいなら、問題ありません」
「ありがと」
その言葉に、思わず彼女の肩をそっと掴んだ。
「スチュアート!ミレイ!」
「はい!」
「死体はもういいから、ジルと一緒にシュナイツまで戻って」
「了解」
「伏兵がいるかもしれないから警戒して。ミレイ、速度を合わせるんだよ」
「はい!」
スチュアートとミレイが竜に乗り込む。
「戻ったら、サムとライノをこっちに寄越して。あんた達は待機」
「わかりました」
「じゃあ行きな」
ジルはソニアを、そっと抱きかかえて走り出した。
それにスチュアートとミレイがついていく。
次はナミと…
「ナミ、ご苦労さん」
「はい…」
ナミはか細く力なく答える。
彼女の顔には少しアザがあった。殴られたか。
見るからに疲弊し、痛みに耐えているのがわかる。
「左肩が痛いっテ」
「左肩?」
「肩が抜けたみたイ」
「どれ…」
そっと肩を触れると、確かに関節がずれている感触。
「抜けてるね」
ナミを仰向けに寝かせる。
「ナミ。痛いと思うけど、腕を伸ばして」
「はい…」
彼女は息を呑みつつ、少しずつ腕を伸ばしていく。痛みに顔をしかめ、唇を噛む。
「ゆっくりでいいから」
「はい」
彼女の不安を紛らわせるために話しかける。
「首尾よくいったの?」
「はい…」
「トラブルはなし?」
「海賊に会いました」
「海賊?」
思わず、ミャンと顔を合わせる。
「海にもいるんダ…」
海にも賊もいるんだ。
伸ばした腕を頭の方に持っていく。
「賊は撃退したの?」
「なんとか…」
「そう。ひいおばあさんが魔法士ていうは?」
「カレンおばあちゃんは確かに魔法士でした。研究書も見つけてもらって…」
「持ってきたの?」
「もらうには条件があって…」
はい、どうぞ。とはいかなったか。
脱臼した肩が元に戻る角度があって、その位置で、ナミの腕を少し引っ張る。
「なんか音したヨ?」
「肩が入った音だよ。ナミ、どう?」
「痛みもしびれもないです…」
彼女は安堵の表情を浮かべた後、涙を流す。
「ありがとうございます…」
「いいんだよ」
彼女の荷物から、着替えを取り、腕を釣る。
「左腕は極力使わないで、安静に」
「はい」
「しばらくそのままで休んでな」
さてと…。
「レスター」
「特に以上なし」
「そう…ミャン、全員殺ったの?」
「やっちゃったヨ」
話を聞きたかったけど、仕方ないか。帰ってからでいい。
サムとライノが到着する。
ん?竜が三頭だ。
「おー!アタシの竜も持って来てくれたんダ。ありデスー」
ミャンは喜々として、自分の竜の頬を撫で上げる。
こういう時にしか出せないからね。
「すみません。そのせいでちょっと遅れまして…」
「あんたの判断かい?サム」
「はい…。竜の数が多いほうがいいかなって。警戒するにも、戦闘するにも…って終わってますね」
「いい判断だよ」
「ども…」
サムが照れくさそうに小さく頭を下げる。
「あんたは周囲を警戒して」
「はい」
「ライノ」
「はい!」
「レスターと一緒に賊を死体を片付けな」
「了解!」
「ミャンはナミのそばに。警戒しつつね」
「はいデス」
あたしも死体の片付けに加わった。
血の匂いが辺りに、漂っている。
「去年、襲撃した奴らと装備が違いますね」
「ああ。統一性がない」
あの襲撃を撃退したから、シュナイツには寄り付かなくなる、と思っていたけど。
「あの件を知らないのか、バカなのか」
「バカなんですよ」
サムが笑う。
サムに笑われるって相当なバカだよ。
「賊がいなけりゃ、のどかでいい所なんですけね」
ライノが空を見上げてつぶやいた。
「領民が増えて、活気づけば、また違うと思うんですよ」
「私は今でもシュナイツが好きです」
ナミがゆっくりと立ち上がった。
ミャンがそっと背中を支えている。
「アタシもシュナイツが好きだヨ」
「あんたは、腹が満たされればどこでもいいんでしょ」
あたしの言葉にクスクスと笑いが起きる。その笑い声が、この場の重苦しい空気を少しだけ軽くしてくれた。
「そんな事ないっテ!」
死体の片付けが終わり、帰還の準備をする。
私はヴァネッサ隊長の竜に乗る事になった。
「あの、竜に乗るは初めてなんですけど…」
「大丈夫だよ。ただ乗ってるだけだから」
彼女はさらりと言うけれど、私は少し怖かった。
牙や大きな爪がむき出しだから…。
「竜は全然警戒してないでしょ?」
「はい…」
いや、わからない…。
竜は、私を見て首を傾げる。
そういえば、リアン様が厩舎で、竜の顔を撫でているのを見た事がある。
勇気あるなって、思っていた。
「さあ、乗って」
ヴァネッサ隊長に言われるまま、竜の背中に乗る。
私はヴァネッサ隊長の前に座らせれた。
左腕が使えない私を支えるために。
彼女も乗って、竜がゆっくりと立ち上がった。
視界が一気に高くなり、思わず息を飲んだ。
「…」
「ほら、大乗でしょ?」
「はい…やっぱりちょっと怖いです」
「大丈夫。鞍に掴まる所あるでしょ?」
「はい」
「それを掴んで。後はあたしが支えるから。寝ててもいいよ」
「さすがに無理ですよ…」
だよね、と言ってヴァネッサ隊長が笑う。
その笑みが、少しだけ私の不安を和らげてくれる。
「レスター。先頭ね」
「はい」
「ミャン、続いて」
「はいハーイ」
「ライノ。あたしの隣に」
「はい」
「自分が殿っすね」
「ああ。頼んだよ、サム」
「うぃっす」
竜騎士たいのみなさんは、隊列を組み、シュナイツへと向かった。
私は揺れる竜の上で、今回の旅を振り返っていた。
辛い事、嬉しい事がたくさんあった。
出会いも、別れもあった。
この旅は、私にとって忘れられないものなった。
そして、何より。こんな私と一緒に旅をしてくれたソニアさんに感謝したい。
私を守るために怪我まで…。
その恩を返すために、私はもっと成長したい。
治癒魔法士として、胸を張れるように…。
ありがとう、カレンおばあちゃん。
心の中で、カレンおばあちゃんに感謝を伝えた。
「最後の最後で、あれはないわ…」
「あれは仕方がないかと」
「うん…ナミさんの機転で、気づいてくれてなかったら、こうやって話してない」
「苦し紛れですけど…」
「かもしれないけ、成功した」
「大事にならなくて、ほんとによかったです」
「わたし達の話はこれくらいでいいんじゃない?」
「はい。次はエレナ様でしょうか?」
「うわ、ヴァネッサ隊長とエレナ隊長、まだ戦ってる…」
「え?…」
「もう…。エレナ様を呼んで来ますので、少々お待ちください」
「私も行くわ」
「失礼します」
エピソード26 終わり
Copyrightc2020-橘 シン




