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ブレイバーズ・メモリー(3)   作者: 橘 シン


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26-47


 あたしとレスターが到着した時には、戦闘はおわっていた。


「ナミ!ソニア!」


 竜の背から飛び降りると、足が地に着くと反射的に駆け出していた。


「ナミは、大丈夫ダヨ!」

 

 ナミはミャンに支えられている。


 大丈夫だと伝えるように、手を上げて頷き返してくれた。


 顔色は悪いが、意識はちゃんとあるようだ。


 あたしも安心させるように手を上げ、頷き返す。


 

 心配だったのはソニアだ。


「ソニア…」


 彼女は地面に寝かされていた。


 まるで呼吸をするのも苦しいかのように、全身を硬くしていた。


 息は荒く、額を伝う汗、唇はかすかに震えている。


「大丈夫かい?…」

「ヴァネッサ…隊長…」


 苦悶の表情を浮かべながら、それでもあたしの名を呼ぶ。


「お腹を強く蹴られたか、殴られたようです」


 そばについていたジルが教えてくれた。

 

 言葉を聞いた瞬間、胸の内にどす黒い怒り怒りが湧き上がった。


「女の腹を蹴るなんて…」

 

 なんて奴らだ!。



「早く先生に診せたほうがいいかと」

「そうだね。ソニア?もう大丈夫だからね?」

「すみません…」


 ソニアはかすれた声で答えた。 


「謝る事なんてないんだよ」

「最後の…最後に…やられちゃいました…」

「何言ってんの。あんたはちゃんと任務を果たしたよ」

「はい…ナミさんは?」

「ナミは大丈夫だよ。あんたより軽症だから」

「よかった…」


 安堵の言葉を最後に、彼女は意識を失った。


「ソニア…」



 レスター達が賊の死体を片付けていた。


「周囲の警戒もしておけよ」

「はい」


 確実に事態は収束へ向かっている。 


「ジル」

「はい」

「シュナイツまで運んでもらえる?」

「かしこまりました」

「あんたにはちょっと辛いかもしれないけど」

 

 ジルの顔も疲労の色が濃い。

 

 吸血族は昼間の戦闘を苦手としている。

 

 ジルは慣れてるほうだが、それでも疲れているのが、あたしにもわかった。


「ソニアさんを運ぶくらいなら、問題ありません」

「ありがと」


 その言葉に、思わず彼女の肩をそっと掴んだ。



「スチュアート!ミレイ!」

「はい!」

「死体はもういいから、ジルと一緒にシュナイツまで戻って」

「了解」

「伏兵がいるかもしれないから警戒して。ミレイ、速度を合わせるんだよ」

「はい!」

 

 スチュアートとミレイが竜に乗り込む。


「戻ったら、サムとライノをこっちに寄越して。あんた達は待機」

「わかりました」

「じゃあ行きな」


 ジルはソニアを、そっと抱きかかえて走り出した。


 それにスチュアートとミレイがついていく。


 

 次はナミと…


「ナミ、ご苦労さん」

「はい…」


 ナミはか細く力なく答える。 

  

 彼女の顔には少しアザがあった。殴られたか。


 見るからに疲弊し、痛みに耐えているのがわかる。 


「左肩が痛いっテ」

「左肩?」

「肩が抜けたみたイ」

「どれ…」

 

 そっと肩を触れると、確かに関節がずれている感触。


「抜けてるね」


 ナミを仰向けに寝かせる。


「ナミ。痛いと思うけど、腕を伸ばして」

「はい…」


 彼女は息を呑みつつ、少しずつ腕を伸ばしていく。痛みに顔をしかめ、唇を噛む。


「ゆっくりでいいから」

「はい」


 彼女の不安を紛らわせるために話しかける。


「首尾よくいったの?」

「はい…」  

「トラブルはなし?」

「海賊に会いました」

「海賊?」


 思わず、ミャンと顔を合わせる。


「海にもいるんダ…」


 海にも賊もいるんだ。


 伸ばした腕を頭の方に持っていく。


「賊は撃退したの?」

「なんとか…」

「そう。ひいおばあさんが魔法士ていうは?」

「カレンおばあちゃんは確かに魔法士でした。研究書も見つけてもらって…」

「持ってきたの?」

「もらうには条件があって…」


 はい、どうぞ。とはいかなったか。


 脱臼した肩が元に戻る角度があって、その位置で、ナミの腕を少し引っ張る。


「なんか音したヨ?」

「肩が入った音だよ。ナミ、どう?」

「痛みもしびれもないです…」


 彼女は安堵の表情を浮かべた後、涙を流す。


「ありがとうございます…」

「いいんだよ」


 彼女の荷物から、着替えを取り、腕を釣る。


「左腕は極力使わないで、安静に」

「はい」

「しばらくそのままで休んでな」

 

 さてと…。


「レスター」

「特に以上なし」

「そう…ミャン、全員殺ったの?」

「やっちゃったヨ」


 話を聞きたかったけど、仕方ないか。帰ってからでいい。



 サムとライノが到着する。


 ん?竜が三頭だ。


「おー!アタシの竜も持って来てくれたんダ。ありデスー」


 ミャンは喜々として、自分の竜の頬を撫で上げる。


 こういう時にしか出せないからね。


「すみません。そのせいでちょっと遅れまして…」

「あんたの判断かい?サム」

「はい…。竜の数が多いほうがいいかなって。警戒するにも、戦闘するにも…って終わってますね」

「いい判断だよ」

「ども…」


 サムが照れくさそうに小さく頭を下げる。


「あんたは周囲を警戒して」

「はい」

「ライノ」

「はい!」

「レスターと一緒に賊を死体を片付けな」

「了解!」

「ミャンはナミのそばに。警戒しつつね」

「はいデス」

 

 あたしも死体の片付けに加わった。

 

 血の匂いが辺りに、漂っている。


「去年、襲撃した奴らと装備が違いますね」

「ああ。統一性がない」


 あの襲撃を撃退したから、シュナイツには寄り付かなくなる、と思っていたけど。


「あの件を知らないのか、バカなのか」

「バカなんですよ」


 サムが笑う。


 サムに笑われるって相当なバカだよ。


「賊がいなけりゃ、のどかでいい所なんですけね」

 

 ライノが空を見上げてつぶやいた。


「領民が増えて、活気づけば、また違うと思うんですよ」

「私は今でもシュナイツが好きです」


 ナミがゆっくりと立ち上がった。

 

 ミャンがそっと背中を支えている。


「アタシもシュナイツが好きだヨ」

「あんたは、腹が満たされればどこでもいいんでしょ」


 あたしの言葉にクスクスと笑いが起きる。その笑い声が、この場の重苦しい空気を少しだけ軽くしてくれた。


「そんな事ないっテ!」


 死体の片付けが終わり、帰還の準備をする。 

  



 私はヴァネッサ隊長の竜に乗る事になった。


「あの、竜に乗るは初めてなんですけど…」

「大丈夫だよ。ただ乗ってるだけだから」


 彼女はさらりと言うけれど、私は少し怖かった。


 牙や大きな爪がむき出しだから…。 


「竜は全然警戒してないでしょ?」

「はい…」


 いや、わからない…。


 竜は、私を見て首を傾げる。


 そういえば、リアン様が厩舎で、竜の顔を撫でているのを見た事がある。


 勇気あるなって、思っていた。

 


「さあ、乗って」


 ヴァネッサ隊長に言われるまま、竜の背中に乗る。


 私はヴァネッサ隊長の前に座らせれた。


 左腕が使えない私を支えるために。


 彼女も乗って、竜がゆっくりと立ち上がった。


 視界が一気に高くなり、思わず息を飲んだ。


「…」

「ほら、大乗でしょ?」

「はい…やっぱりちょっと怖いです」

「大丈夫。鞍に掴まる所あるでしょ?」

「はい」

「それを掴んで。後はあたしが支えるから。寝ててもいいよ」

「さすがに無理ですよ…」

 

 だよね、と言ってヴァネッサ隊長が笑う。


 その笑みが、少しだけ私の不安を和らげてくれる。


 

「レスター。先頭ね」

「はい」

「ミャン、続いて」

「はいハーイ」

「ライノ。あたしの隣に」

「はい」

「自分が殿っすね」

「ああ。頼んだよ、サム」

「うぃっす」


 竜騎士たいのみなさんは、隊列を組み、シュナイツへと向かった。



 私は揺れる竜の上で、今回の旅を振り返っていた。


 辛い事、嬉しい事がたくさんあった。


 出会いも、別れもあった。


 この旅は、私にとって忘れられないものなった。


 

 そして、何より。こんな私と一緒に旅をしてくれたソニアさんに感謝したい。


 私を守るために怪我まで…。


 その恩を返すために、私はもっと成長したい。


 治癒魔法士として、胸を張れるように…。


 

 ありがとう、カレンおばあちゃん。


 心の中で、カレンおばあちゃんに感謝を伝えた。

 



「最後の最後で、あれはないわ…」


「あれは仕方がないかと」


「うん…ナミさんの機転で、気づいてくれてなかったら、こうやって話してない」


「苦し紛れですけど…」


「かもしれないけ、成功した」


「大事にならなくて、ほんとによかったです」


「わたし達の話はこれくらいでいいんじゃない?」


「はい。次はエレナ様でしょうか?」


「うわ、ヴァネッサ隊長とエレナ隊長、まだ戦ってる…」


「え?…」

「もう…。エレナ様を呼んで来ますので、少々お待ちください」


「私も行くわ」


「失礼します」




エピソード26  終わり

Copyrightc2020-橘 シン


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