26-46
ヴァネッサ隊長の命令を受けて、僕とミレイが先行するになった。
焦燥が胸を突き上げる。
「急いで鞍をつけろ!」
厩舎は緊張感に包まれていた。
戦いの予兆が、場の空気をひりつかせている。
竜もそれがわかっていて、鼻息が荒い。
いつもとは違う切迫感を帯びていた。
先行する二頭の竜に、鞍が優先して取り付けられていく。
「スチュアート!ミレイ!革鎧と剣だ」
「ありがとうございます」
「すままい」
サムから、革鎧を受け取る。
「賊は何人いるんですか?」
「わからん」
「六、七人ですl
魔法士のエデルがそばに来ていた。
「リサの千里眼を見る限りは」
それ以上いる可能性もあるわけだ。
予測できない展開の中で、わずかな情報に頼らなければならない。
胸の奥に不安がよぎる。しかし、これまでもそんな状況はあった。
臨機応変に対応するのが、竜騎士だ。
「スチュアート、ミレイ。ジルさんとミャン隊長を拾って現場へ急げ」
「はい」
レスターさんも出る準備をしている。
「おれとヴァネッサ隊長もすぐに出る。落ち着いて対処しろ」
「了解」
竜の背に飛び乗り、門を出る。
緊張と昂揚が入り混じった感情に、鼓動は高鳴っていた。
「ミレイ。全速力だ!」
「了解!」
敷地外なら遠慮はいらない。
竜もそれわかってる。
今までで、一番速く走れてる。
が、ミレイの竜はさらに速く、僕の先を行く。
「ミレイ、君はミャン隊長を拾え」
「わかりました!」
ミレイは、そのまま先を走り続ける。
ミャン隊長の背中が見えてきた。
ジルさんはさらに先か。その
さすがは吸血族。
「ミャン隊長!」
ミレイの声に、ミャン隊長が振り返った。
「乗ってください!」
「あんがトォ!~」
ミャン隊長がミレイの後ろに乗る。
やはり速度は落ちるか。
ミレイを追い越し、先行する。
ポロッサへ道は軽く左に曲がっている。
カーブの先に、ジルさんが見えた。
吸血族といえども、日光の下で長く走ることはできない。
「ジルさん!」
僕は彼女に手を伸ばした。
「乗ってください」
「ありがとうございます」
後ろに乗せて竜を駆ける。
現場はシュナイツとポロッサの中間あたりのはずだ。
焦燥感が、胸の中で渦巻く。
まだか!。気持ちばかりが焦る。
「できるだけ曲がり道の外側を走ってください。その方が見通しがききます」
「わかりました」
ジルさんの冷静な声が、僕の焦りを鎮めてくれる。
言われた通り、道の外側(右側)を走る。
もうそろそろのはすだが…あれか!。
賊の集団が見えた。
ジルさんが、竜の上で弓に矢をつがえて引き絞る。
「ここから射るんですか?」
「問題ありません」
問題ない?。
揺れてる竜の背に乗っているのに…。
と思っている間に、矢を放った。矢は、一直線に賊の首へと吸い込まれていく。
そして見事に賊の首を射抜く。
「ワオ!」
ミャン隊長が声を上げた。
「賊の総数はナナ。今、一人減って六です」
「了解」
ジルさんが再び矢を放つ。再び放たれた矢は、別の?の胴に見事に命中した。
すごい。
これで残り五。
「ミレイ!」
ミレイにサインを送る。
賊の集団を通り抜けて挟み打ちにしろ。
ミレイは頷く。
僕は速度を落とし、ミレイを先行させた。
ミレイは頷き、賊の集団を回り込むべく駆けていく。
現場は眼の前だ。
竜の首を軽く叩く。咆哮の合図だ。
「ギヤアアアァ!」
竜の咆哮が山々に響きわたった。
ミレイの竜も負けじと咆哮する。
その雄叫びは、周囲の空気を震わせた。
「降ります」
「武器は?」
「あの程度の者達に武器など必要ありません」
ジルさんはそう言ってから、竜を降りる
そして、迷うことなく?の集団へと駆け出した。
僕も竜を降りて、彼女の後を追った。
賊たちは、突如響き渡った竜の咆哮に完全に意表を突かれ、硬直していた。
その隙を突き、ミャン隊長を乗せて突っ切る。
「よっト!」
ミャン隊長が飛び降りる。
竜に制動をかけて、ぼくも降りた。
視界の先に、ナミさんとソニアさんが倒れているのが見える。
「よくも!」
賊の一人に迫る。
一気に距離を詰めて、腹部を突き刺す。引き抜いて、右上から振り下ろし斬る。
「ぐは…」
賊は崩れ落ち、地面に赤い染みを広げていく。
ミャン隊長も一人倒した。
スチュアートさんとジルさんも一人倒していた。
残りは一人。
その一人が、ナミさんを引っ張りが上げて、人質にする。
「動くな!…こいつをどうなってもいいのか?…離れろよ!…」
ナミさんの首に剣を添えている。
賊の声は震え、焦りの色が濃い。
「ふざけんじゃねえぞ…この野郎…」
「うう…」
ナミさんがうめき声を上げた。意識はあるようだ。
「ナミ!」
「ミャン…隊長?…」
「助けに来たよヨ」
「黙れ!近づくな!」
賊は狼狽している。迂闊に近づいたら、ナミさんが怪我をする可能性がある。
「武器を捨てろ!…捨てろって!…」
スチュアートさんを見る。
彼は、剣を置いた。そして、ぼくを見て頷く。
ぼくは頷き返し、剣を地面においた。
「ミャン隊長…」
彼女も、悔しそうに短槍を地面に置く。
「ナミを離せ!ゲス野郎!」
ミャン隊長の怒号が辺り響く。
どうかにしないと…。
ジルさんは、ソニアさんのそばにいる。
倒れているソニアさんを一人にするのは危険だ。他にも賊がいるかもしれない。
「諦めろ!どうやったって、逃げれないぞ」
「うるせえ!」
南側の土手を背にしているので、三方を囲めば逃げる事は不可能だ。
しかし、ナミさんを人質にしてる以上、こちらも手を出せない。
「私に構わず…」
ナミさんが声を漏らす。
「ナミ!」
ナミさんは出血してるようには見えない。
おそらく殴られたのだろう、顔に痛々しいアザができていた。
「許さないゾ…。生きて帰さないからナ…」
ミャン隊長が一歩前に出た。
「近づくな!…」
賊の手が震えている。その震えが、僕の心をざわつかせる。
うっかりナミさんを切ってしまうかもしれない。
「ミャン隊長、落ち着いてください」
「わかってるヨ…」
今は感情的になっている場合ではない。
「ミレイ」
スチュアートさんが僕を呼ぶ。
彼を見るとサインを送ってきた。
注意を引き付けるから、ナミさんに魔法で賊の動き止めろ。
この状況で?。
ナミさんが魔法を使えるとは思えない。
でも、それくらいしか方法はなさそうだった。
僕はスチュアートさんに頷く。
「聞いてくれ。その子を離せば、命までは取らない。どうだ?」
「嘘をつくな…殺す気だろ!…」
「自分は竜騎士だ。嘘はつかない。金もやろう」
スチュアートさんが、積極的に話しかけて注意を引いている。
ぼくはナミさんに小さく手を振る。
気づくか…気づいてくれ!…。
彼女と目が合った!。
すぐにサインを送った。が、ナミさんは小さく首を横にふる。
やはり無理だ。怯え切ってる。
もう一度、サインを送った。
ナミさんは、恐怖に耐えきれず、目を閉じてしまった。
「もうすぐ、応援がくる。そうなったら、おしまいだぞ」
「殺るならさっさとやれよ!そうしたらこいつも道連れだ!」
賊が自棄をおこし始めた。
これはまずいぞ…。
「ナミ!しっかりしろッテ!」
ミャン隊長がナミさんに話しかける。
「諦めちゃだめダ!エレナが待ってるんダヨ!」
ナミさんが目を開いた。
「ベッキーも!みんな待ってるんダ!」
ミャン隊長の言葉に、ナミさんの目に生気が戻るのがわかった。
そして、ナミさんの右手の指先が光り出す。
「やっタ…」
「な!?体が…動かねぇ…」
賊が自信の異変に気付いた。
「なに、しやがった?…」
賊が剣を地面に落とす。
僕達は、その瞬間を逃さず、一斉に飛びかかった。
Copyrightc2020-橘 シン




