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ブレイバーズ・メモリー(3)   作者: 橘 シン


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26-45


 朝食を食べた後、試験場へ行く。


 廊下を歩く足音は、昨日までのそれとは少し違う。もう、ここを去るのだという、かすかな寂しさが混じっていた。


 試験場には すでにレーヴ様とディナトス様。それから主だった所員の方々が集まっていた。


 ナミさんは、一人ひとりと丁寧に挨拶を交わしている。その姿は、以前の自信なさげな彼女からは想像もつかないほど、凛としていた。


 

 この試験場からリカシィへ転移する。


 転移魔法について、ふと疑問に思ってレーヴ様に尋ねた。


「転移魔法ってすごく便利だと思うんですけど、何か制約があるのですか?」

「特に決まりはありません。が、できるだけ控えるように、と言ってあります」

「どうしてです?」

「転移魔法は周囲に何かしらの影響を与えてしまうのです」

「影響?…」

「最近の研究でわかった事なので、まだ詳細は判明していません。極々小さな現象なのですが、念の為に控えています」


 緊急時以外は使用しないらしい。


 今回は特別。



「すみません。お待たしました」


 挨拶を終えたナミさんが、ようやく私たちの元へやってくる。

 

 彼女の頬は、わずかに上気し、晴れやかな表情をしていた。


「元気でな」

「はい。ディナトス様もお体にはお気をつけてください」

「うむ。ありがとう」


 ディナトス様と握手をした。


 わたしは、知り合った事務官やメイド達に手を振る。


 みんなが笑顔で手を振り返してくれた。



「では、参りましょうか」

「はい」

「お願いします」


 レーヴ様が魔法を発動させた。

 

 次の瞬間、一瞬の閃光が視界を真っ白に染め上げた。強烈な光に目を閉じ、開ける。


 目が慣れてきて、周囲を確認すると、そこはもうリカシィ。


 港を見下ろす小高い丘。


 眼下には広大な港が広がり、行き交う船や人々のざわめきが聞こえてくる。


 潮風が頬を優しく撫でる。


 エレナ隊長もここに転移していた。



「ありがとうございます。レーヴ様」

「いいえ。わたしのほうこそ、礼を言わなければいけないわ。治癒魔法を教えてくれた事に」

「私は何もしてません。カレンおばあちゃんが導いてくれたのだと思います」


 わたしもそんな氣がする。


 そして、カレンさんはナミさんを見守っているんだ。



「シュナイツはどの方向になるかしら?」

「あちらです」


 ナミさんが北を指差す。


 その指先が示す方向には、青い空と広がる緑の丘陵が続いている。そして、雪をいただく山脈。


「あちらですか…」


 レーヴ様が、シュナイツがある北を眺める。


 その表情には、エレナ隊長の事を想うような、切なさが漂っていた。


「…」

「ご一緒に行ってみられますか?」


 ナミさんがそう提案したが、レーヴ様は寂しそうに首を横に振った。

 

「それは…できないわ」

「そう、ですよね…」

「そうしたい気持ちはあるのだけれど…それに…」

「それに?…」

「あそこまで行くのは、大変そうね。体力的に」


 レーヴ様は苦笑いを浮かべる。

 

 確かに大変だ。


 リカシィからはほぼ全部登りが続く。



「十日後の夕方に、ここで待っています」

「エレナ様をお連れすればいいんですね」

「本人が会いたいと思うならば」

「エレナ様は、絶対会ってくれます」

「そう願っているわ」


 レーヴ様はそう言ってから、わたしとナミさんから離れていく。


「では、十日後に」

「はい」


 わたしたちはレーヴ様に頭を下げた。


 次の瞬間、一瞬の閃光とともに、レーヴ様は姿を消した。



「帰りますか。シュナイツに」

「はい」


 そんなこんなでポロッサに到着。


 

「やっとここまで来たわね…」

「はい…」


 明日の早朝、ポロッサを出発すれば、夕方にはシュナイツに着くはずだ。そう思うと、疲労の中にも、ようやく帰れるという安堵がじんわりと湧いてきた。



 翌日の早朝、ポロッサを出発した。


 何度も通った道。


 軽く右に曲がる道を行く。

 

 道端には新緑の木々が、朝日を浴びてひときわ鮮やかに映っている。


「天気が良くて、気持ちいいです」

「うん」


 横を歩くナミさんが凛々しく見える。


 出発した当初は、自信なさげで、心配だった。


 心が折れた事もあったけど、持ち直し(テオドールさんのおかげかな)治癒魔法士として生きていく事を決心したようだ。


 これからが、大変らしい。


 どれくらい大変なのかは、わたしには当然わからない。


 でも、ナミさんなら、きっと大丈夫。


 わたしはそう信じている。



 昼食と休憩をして、再び歩き始める。


 しばらく歩いたところで、わたしはふと足を止めた。

 

「ソニアさん、どうしました?」

「誰かいる…」

「え?」


 道の先。

 

 どう見ても、カタギには見えない者達が、こちらを見ている。


 その視線は、私たちを品定めするような、不快なものだ

 

 四人か…。


 わたしはいつでも剣を抜けるように手を添えた。


「どうしましょうか?…」

「そうね…」


 四対一なら、分が悪いし逃げの一手なんだけど。


 今は、ナミさんがいる。


 彼女を庇いつつ、一点突破。


 シュナイツへ一目散。


 でも、体力が持たない。賊が追って来たら追いつかれる。


 戦うか…一対一なら、問題ないんだけど…ナミさんもいるし…。


「話し合いは…無理ですよね…」

「お金が目的なら、見逃してくれる可能性はなくはない」

 

 結構な額のお金は持ってる。


 お金渡して、「はいさようなら」、なんて都合よくいくわけがない。


 わたし達の殺ってから、物色すればいいんだから。


 

 一点突破しつつ、一人づつ対処するしかないか。


「ナミさん。閃光で賊の目を潰してもらえる?」

「閃光ですね。わかりました」


 彼女は魔法の杖を取り出す。


「できれば、動きを止める魔法もお願い」

「一人だけですよ。あの時みたいのは…」

「わかってる」


 あの時は、アーロンさんが切られて、ナミさんが怒り心頭で魔法を使い、海賊十数人の動きを止めた。


 いわゆる、火事場の馬鹿力。


 今回はそれは望めないだろう。



「ギリギリまで近づいて、わたしの合図で閃光。怯んだところで、走って突破する。そのまま走りつづけて。できる限り」

「はい…ソニアさんは?」

「状況を見ながら、賊を倒す」

「わかりました…」


 ナミさんは不安気だ。


 わたしは、彼女の右手を強く握った。


「行くわ」

「はい」


 私たちは、覚悟を決めて賊に向かって歩き出した。




 ナミとソニアが出発してそろそろ一ヶ月になろうしている。


 その間、ずっと悪い予感があった。


 漠然とした不安が、私の胸の奥に澱のように溜まっている。


 悪い予感の事は、ソニアにしか言ってない。あ


 他の隊員たちに、余計な心配をかけたくなかったからだ。


「隊長」

「…」

「ヴァネッサ隊長!」

「え?あーなに?」


 サムに呼ばれてたのに、気付かなかった。


「相手してくれませんか?」


 彼は模擬剣を差し出す。


 午後は、基本的に自主訓練で、剣術の相手はしない。


「ああ。いいよ」


 今みたく気が向いた時にしかやらない。


 サムが相手だと、気合いが乗らないんだだよね…。


 で、頼んできた本人がそっぽを向く。


「サム!あんたから頼んでおいて、よそ見してじゃないよ!」

「すみません…でも、あれなんすか?」

「は?」


 サムが北西方向を指差す。


 その指先を追って、私は空を見上げた。


「なんだ?…」

 

 光の細い筋が空に向かって伸びていた。


 光の筋は左右に揺れる。手を振ってるように…。


 あれは魔法だ。


 あたしの体をビリっと何か走る。


 悪い予感の正体が、これだったのかと、直感的に悟った。


「竜の準備をしな」

「え?」

「竜に鞍を付けろって言ってんだよ!早くしな!」

「はい!」 


 私の怒鳴り声に、サムは慌てて厩舎へ走っていく。

 

 他の隊員たちも、私の剣幕に驚き、一斉に厩舎へ向かい始めた。


「隊長、どうしんたです?」


 レスターは、訝しげに話しかけてくる。


「ナミとソニアだ…」

「え?」


 あたしは、魔法士隊の所に駆け出した。


「どきな!」

 

 剣兵隊隊員が自主訓練中を突っ切る。



「あんた達、千里眼は使えるかい?」

「千里眼ですか?」

「そうだよ!」

 

 魔法士隊は、ぼーっとしている。


「使えるの?使えないの?どっち!」

 

 のんびりした空気に、私の苛立ちが募る。


「わたし、使えます」


 リサがてを上げる。

 

「じゃあやって、今すぐ!」

「はい!でも、そんなに遠くまで見れませんよ」

「さっきの光の筋見たでしょ?」

「はい」

「あの辺りをみたいんだよ」

「わかりました」


 リサの手の中にシュナイツが映し出される。


「またですよ。光の筋が」


 あたしは振り返る。


「あれって魔法でしょ」

「それ以外のなにものではないかと…」


 エデルがそう答えた。



「嘘でしょ!?」


 リサが声を上げる。


 リサの千里眼が映し出した光景に、ナミとソニアが映っていた。それと賊も。


 二人は賊から暴行を受けているように見えた。


 あたしの全身に、怒りの震えが走った。

 

「どうされたのですか?」

「なになに?どしたノ?」


 ジルとミャンがやってくる。


「ナミとソニアが賊に襲わている。すぐそこで…」

「マジで?」

「わたくしが行ってきます!」


 ジルが駆け出す。戦闘用の矢と弓を持って。


「アタシも行ク!」


 ミャンも短槍を持ち駆け出す。


「レスター!」

「はい!」

「スチュアートとミレイをすぐに出せ!」

「二人をですか?」

「速さが欲しいんだよ!」

「了解」

「ジルとミャンを拾っていけって。あんたも準備しな!」

「装備は?」

「速さがほしいって言ってるでしょ!それくらい、あんたが判断しなよ!」


 あたしは部屋に戻り、胴鎧と剣を取りに部屋へ向かった。 

 

 

Copyrightc2020-橘 シン


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