表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブレイバーズ・メモリー(3)   作者: 橘 シン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

87/95

26-43


「失礼致します!レーヴ様、支部長をお連れしました」

「ありがとう。下がってちょうだい。あ、ドアを締めてね」

「はい」


 支部長だけが残される。

 

 支部長は、レーヴ様の前だからか、明らかに緊張しているように見えた。その顔は、以前会った時の傲慢さはなく、どこか怯えを帯びている。


「レーヴ様…急ぎのようとかで…」


 支部長には以前会った時のような威勢はない。


 レーヴ様の威厳に、完全に圧倒されているのが見て取れる。


「ええ。あなた、このお二人の覚えているかしら?」

「…はあ…誰です?こいらは?」


 支部長は、私たちをちらりと見て、すぐに視線を逸らした。その態度に、私の心にまた不快感が募る。


「覚えていない?」

「知りませんが」

  

 支部長はそう答えた。


「彼女達は、あなたに門前払いされたそうよ」


 レーヴ様の言葉に、支部長の顔色が一変した。


「門前払い?…あ!この前の!お前ら、何故ここにいる?レーヴ様、こいらはわけのわからん魔法あるからとレーヴ様に会いたいと…」


 支部長は、私たちを指差し、まくし立てるように話し始めた。


「治癒魔法ですね」

「そう!それです!こんな嘘をでっち上げて、レーヴ様にお目通りしようしている輩で、レーヴ様のお手を煩わせてはいけないと追い払ったのです!」


 支部長は、自分を正当化しようと必死だった。しかし、その言葉は、まるで火に油を注ぐかのようだった。レーヴ様は、支部長を鋭く睨んでいる。


「お黙りなさい」


 レーヴ様の声は、氷のように冷たかった。その一言で、支部長の言葉はピタリと止まる。


「え?」

「彼女達は、王国の魔法研究所から正式は依頼を受けて、ここに参ったのです。それを門前払いするとは、どういう事ですか?」

「王国の?…まさか…しかし…」


 

 支部長がどんどん青ざめていく。その額には、冷や汗が滲み出ていた。


「紹介状もあります。この書状を書いたのは、王国の魔法研究所所長本人です。わたしの古い友人もであります」

「…」


 支部長は、たじろぐだけだった。その口は、何かを言おうとして開いたり閉じたりを繰り返しているが、言葉は出てこない。


「治癒魔法という嘘を…」

「治癒魔法は過去に廃れましたが、今復活したのです。ナミ・カシマという魔法士によって」

「…」


  支部長は、完全に言葉を失っていた。その目は、恐怖と混乱で揺れている。



「ナミ。本当に申し訳ありません。彼に治癒魔法を見せてあげてくれませんか?」


 レーヴ様の声には、支部長への怒りとは対照的な、温かさが含まれていた。


「はい。承知いたしました」


 私は支部長の前に立つ。ソニアさんも。


「この前はどうも。雑な、対応をしていただきまして。大変、感謝していますぅ」


 ソニアさんはわざとらしく言う。


 支部長の顔が、さらに引きつるのが見て取れた。


「手をお出しさなさい」

「はい?」

「手を、お出しさなさい」

「さっさとしなさいよ」


 ソニアさんが、痺れを切らしたように言い、支部長の手を掴んだ。

 

「おい!何をするんだ!レーヴ様?」

 

 レーヴ様は人差し指を光らせている。


「ソニア。手を押さて」

「はい」


 レーヴ様は、指先に半透明の刃を作り出す。その刃は、まるで氷でできているかのように透き通っていた。

 

 そして、支部長に何も言わずに、その刃で彼の手のひらを切ってしまった。当然、支部長は驚きで目を見開く。


「うわああ!何をするのですか!?」


 私は、すぐに治癒魔法で処置をした。


「なに?…」


 支部長の傷は、すぐに塞がる。その光景に、支部長は呆然とした表情で自分の手を見つめている。


「これは…どうなって…傷が…」

「これが、治癒魔法です。あなたは、このような重要な魔法を門前払いしたのです。話も聞かずに」


 レーヴ様の声は、静かだが、その言葉には重い響きがあった。

 

「しかしながら…」

「言い訳は結構。あなたを支部長から解任します」

「そんな…」


 支部長の顔から、血の気が引いていく。


「追って指示あるまで自室待機を命じます」

「はい…」


 元支部長は、肩を落とし、まるで魂が抜けたかのように所長室を出ていった。その背中は、ひどく小さく見えた。



「あーすっきりした」


 支部長が去った後、ソニアさんがそう言いながら微笑んだ。その顔には、満足感が浮かんでいる。


「所員の非礼を詫びます」

「いえいえ…大丈夫ですから」

「本当に恥ずかしい事です」


 レーヴ様が悪いわけではない。


「弁明のしようもありません」

  

 申し訳なさそうに話す。



「とりあえず、これで治癒魔法に関して、一段落ついたって事よね?」

「そうですね」


 後はエレナ様次第ということになる。

 

 写本を貰えるかどうかは、エレナ様がレーヴ様に会うかどうかで決まる。

 

 私の心が、完全に落ち着くのはまだ先ようだ。


「レーヴ様、大変お世話になりました」

「何を言うのです。礼を言わなければいけないは、わたし達の方です。あなたが…いえ、あなた達が、治癒魔法を持ってきてくれなければ、治癒魔法は廃れたままだったでしょう」

「最初のきっかけは、エレナ様ですから…私は依頼を受けてこなしたにすぎません」

「ナミさん。あなたが、治癒魔法が使える魔法士として生まれた。これが事の始まり」

「それだと、時間がかかりすぎですよ…ここまでくるのに」

「時間がかかってもいいのです」


 私の言葉に、レーヴ様は首を横に振った。


「急がば回れという言葉もあります。回り道をして、多くを学ぶ事も大切です」

「はい」

「何を偉そうな事を言っているのでしょうね。わたしは」


 苦笑いを浮かべるレーヴ様。

  

 しかし、レーヴ様の言葉は重い。それは、彼女が多くの経験を積み、多くを学んできたからだと思う。

 

 違和感はないし、納得できる。

 

 エレナ様も、レーヴ様の言葉で成長してきたのかもしれない。



「ここからシュナイツまでは、どれくらいの日数がかかるのですか?」

「えーと…半月くらいでしょうか?」

「早くてね。天候に左右されます。船での移動が主ですから」

「そうですか…それは大変ですね」


 旅というのはこういうものだろう。

 

 シュナイツから研究所までは、苦労はしたものの、順調だったと言える。


 しかし、帰り道は、また別の困難が待ち受けているかもしれない。


 

 レーヴ様は、口元に手を置いて何かを考えている。


「リカシィからこちらにシファーレンに渡ったのでしたね」

「はい」

「それならば、リカシィまで送って差し上げましょう」

「送って?…あ、転移魔法で、ですか?」

「はい」


 レーヴ様なら、転移魔法なんて造作もない。でも…


「よろしいのですか?リカシィは王国領ですが…」

「行って帰ってくるだけですから。まあ問題はないでしょう」

「そうですか…ソニアさん、どうします?」

「願ったり叶ったりだけど…レーヴ様に送っていただくのは、気が引ける…かなって」


 私も同じ気持ちだった。いくらなんでも、そこまでお世話になるのは気が引ける。


「気にする必要はありません」


 レーヴ様は笑顔で言う。


 そして、声を潜めて…。


「わたしが行きたいの」

「はい?」

「所長になってから、外に出かける事がほとんどなくなってしまって…」

「あー、なるほど…」


 ため息を吐くレーヴ様。その表情には、多忙な日々への疲れと、少しの寂しさが滲み出ているようだった


「孤児院にもあまり行かれてないそうで…」

「そうなの。子ども達の成長を見るのが、楽しみなのに…手紙を出すくらいしかてきていない」


 所長として仕事が忙しいからだろう。その言葉に、私はレーヴ様の人間らしい一面を見た気がした。


「わかりました。そういう事でしたら、ぜひお願いします」

「ええ」

 

 リカシィまで送っていただく事に決まった。


 日数もだが、金銭的もかなりの節約になる。


 そして何より、レーヴ様が喜んでくれるなら、それが一番だ。お忍びだけれど…。



「では、いつ出発しますか?。わたしはいつでも構いませんよ」


 善は急げとも言うし、急いているわけではが、早いほうがいいかもしれない。


「今、よろし…」

「ナミさん、ちょっと待って」

 

 ソニアさんが私の肩をつかむ。


「ソニアさん?」

「レーヴ様。出発は明日以降でいいです」

「はい」

「今日、外出許可をいただけませんか?」

「どこか行きたい所があるんですか?」

「はい。個人的な用件なので、詳しくは言えないのですが…」


 個人的な用件?…まさか!。私の頭の中に、テオ君の顔が浮かんだ。


「ソニアさん!別にいいんですよ!あれは…」


 私は、慌ててソニアさんを止めようとした。


「でも、お礼を言いたいって」

「できればの話で、絶対言いたいわけではないんです」

「なんの話ですか?」

「実は…」


 ソニアさんがテオ君の事を話してしまう…。私の顔は、一気に熱くなった。


「あらあら、そういう事ですか…いいでしょう。許可します。事務官を一人つけますので、一緒に行ってきてください」

「ありがとうございます」

「ありがとうございます…」

「よかったね」

 

 よかったんだろうか?。


「礼は言える時に、言ったほうがいいわ。めったに会えないのなら、余計にね」

「はい…」


 レーヴ様はそう言ってくれたけど、どんな顔してテオ君に会えばいいのか、わからなくなってきた。


 私とソニアさん。そして事務官(女性)の三人で、城下町へ向かう。



Copyrightc2020-橘 シン


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ