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ブレイバーズ・メモリー(3)   作者: 橘 シン


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26-42


「原書は、当研究所で管理させていただきます」


 やっぱりそうなりますよね。


 それが一番妥当な…いや当然の判断だろう。


「という事は、写しをいただけるのでしょうか?」

「はい。写しをお渡しします」


 よかった…。


 心の中で、大きく息を吐き出した。これで、エレナ様から託された任務を全うできる。

 

 安堵感に包まれ、肩の力が抜けるのを感じた。


「しかし、条件があります」

「え?条件ですか?」


 これは予想外。


 ソニアさんが、何か言いたそうな表情で、ぐっと唇を噛んでいるのが見えた。


「条件とはなんでしょうか?」

「この条件は、至極個人的なもので、所員の中には異を唱える者もいましたが、研究所に迷惑がかからないよう配慮する事で許可をいただきました」

「はあ…」


 なんだろう?


 わけがわからず、私はただ、レーヴ様の次の言葉を待った。


「エレナと話をしたいの」

「え?あの…」


 ここでエレナ様の名前が出るとは思ってなかった。


 私はディナトス様や所員の方々を見る。


 特に嫌そうな表情をしている者はいない。


 エレナ様がここで、事件を起こしたから、十年も経っていない。


 所員の中には、エレナ様を知っている者が必ずいるはずだけど、いいのかな?



「他意はないの」


 レーヴ様は、穏やかな声でそう言った。


「他意はないと、おしゃいますが、エレナ様はここでその…重罪を犯しています。所長であるレーヴ様が重罪人と会うのは…いかがなものかと…」

「そういう懸念があるのは承知しています。でも、それは過去の事。彼女は猛省し、あなたや他の者達を導いている」

「そう、ですが…」


 所員の中に異を唱える人がいるっていうし、わざわざ会う必要があるだろうか。


「お手紙では…」


 私の言葉に、レーヴ様は首を横に振った。

 

「手紙では、わかる事とわからない事があります。相手の顔を見て話す。これに勝るものはありません。一目見ただけ、会えなかっった時間を取り戻せる」


 私は何も言えなかった。


 レーヴ様の瞳の奥には、エレナ様への深い愛情と、長年の空白を埋めたいという切なる願いが宿っているように見えた。


 レーヴ様は、ほんとにエレナ様の事を気にかけてたんだなってそれくらいしか、私にはわからない。



「わしは全然構わんと思うぞ」


 ディナトス様が、静かにそう言った。


「問題はエレナが会ってくれるかどうかだな」

「もちろん、エレナ様は会ってくれます!会わない選択肢はないかと」


 私は、思わず声を上げてしまった。

 

 エレナ様がレーヴ様に会わないなんて、絶対ありえない。


「そうかしら?」

「ソニアさん?」

「エレナ隊長は、かなり気を使ってたし、恩師であるレーヴ様ご本人が会いたいと言っても、拒否する可能性もあるわ」

「まさか…」


 ありえ…なくはないか…いや…。


 私の心の中で、エレナ様の複雑な性格が頭をよぎる。確かに、彼女は自分の過去に深く囚われている部分があるし…。


「レーヴ様もエレナ隊長の性格を知ってるから、写本譲渡に条件にしたのではないですか?」

「ええ」


 レーヴ様は一切否定しなかった。


 その表情は、どこか寂しげで、しかし強い決意を秘めているように見えた。


 わかっていて、条件にしたのか…。


「そうでもしなければ、あの子とは一生会えない気がして…」

「レーヴ様…」


 そこまでして、エレナ様に会いたいと、レーヴ様は願っている。


「一生会えない、なんてことはないと思うがな。お前は性格が悪すぎる。治癒魔法を人質するとはな」


 ディナトス様が、呆れたように話す。

 

 人質…言い得て妙である。


 確かに、治癒魔法の写本を条件にするというのは、かなり強引なやり方だろう。


「先生はご存知でしょう。私は、さほどいい性格ではありません」

「ああ。わかっとるよ」


 ディナトス様は小さく息をはく。


「皆のもの、ここに居ても時間の無駄じゃぞ。あとは所長に、任せて仕事に戻ったほうがいい」


 そう言ってディナトス様は所長室を出ていった。


 所員達はお互いに顔を見合わせる。


「構いませんよ。あとは決定事項を伝えるだけですから」


 レーヴ様が、そう言うと所員達は、一礼し所長室を出ていった。


 部屋の中は、私たちとレーヴ様、そしてソニアさんの三人だけになる。



「決定事項とは?」

「治癒魔法に関して、王国の魔法研究所と共同で研究するにしました」

「そうですか」


 共同研究。それは、治癒魔法が正式に認められ、研究が進められるということだ。


 私の心に、小さな喜びが湧き上がる。


 カレンおばあちゃんも喜んでいるはず。


「これも、エレナ次第ですけど」

「これもですか!?」

 

 酷すぎるます、レーヴ様…。


 エレナ様が、レーヴ様に会わないとなったら、写本は貰えず、治癒魔法は門外不出となる。

 

 それは、カレンおばあちゃんの願いを叶えられないということだ。


「意外に強引な方だったのですね」


 ソニアさんが、呆れたようにそう言う。


「意外ではありません。知り合いならば、驚く事はないですし、納得するでしょう」


 そう笑顔で話す。

 

 これは、触れてはいけない話題だ。


 レーヴ様は、お優しい方だと思っていたが、こういう方が怒らせると一番怖い。


 ちょっとだけ、背筋に、ひやりとしたものが走った。



「ほ、他に決定事項はありますか?」

「ええ」

「なんでしょうか?」

「ナミ。あなたを当研究所に招聘いたします」

「招聘って、私が?」


 これは完全に予想外だった。


 治癒魔法が使えるからなんだろうけど…。


 いわゆるヘッドハンティングだ。


 話として聞いていたけど、まさか自分が当事者になるとは…。


「当然、断る権利はあるんですよね?」


 ソニアさんは、嫌悪感むき出しで尋ねる。その声には、怒りが込められていた。


「過去に門前払いにしておいて、今度は研究所に誘う。完全な手のひら返しですよ」

「ソニアさん、言い過ぎです。過去の事は仕方がないじゃないですか。治癒魔法が使えるなんて知らなかったんですから」

「門前払いは、一度じゃないのよ?今回もされた」

「どういう事ですか?」


 レーヴ様が、私達に門前払いついて尋ねた。その表情には、明らかな困惑が浮かんでいる。


 私達が門前払いされた事を知らなかったようだ。


「あなた達は、今回初めてここに来たのではないのですか?」

「わたしは初めてですけど、ナミさんは、二度目です」

「一度目は三、四年前でしょうか…魔法が使える同郷の友人と来ました」

「それで?」

「城外の支部へ行ったんですけど、聞き入れるくれず、今回も…対応してくれた方は同じ方だったように感じました」

「そうですか…」


 そう言ったレーヴ様の眉間に皺が寄る。


「いけませんね…まずは話を聞くべきで、判断はそれからでも遅くはない…しかも二度も…」


 レーヴ様の表情がどんどん厳しくなっていく。


「支部はここから、少し北に行った所ですね?」

「はい」

「わかりました。誰か!手の空いて者はいますか!」


 レーヴ様が、大きな声で呼びかけると、事務官数名がすぐに駆けつける。


「何か御用でしょうか?」

「支部の責任者をここに連れて来なさい!。今すぐに!」

「はい!」


 事務官は慌て去っていく。


 

 レーヴ様は大きく息をはく。


「ナミ、ソニア。申し訳ありません」


 私達に向かって謝罪する。


「レーヴ様が悪いわけでは…」

「いいえ、研究所に関わる全てにおいて、所長であるわたしに責任がある」

「それは、そうでしょうが…」

「招聘の件は忘れてください」

「え?」

「門前払いを二度もして招聘など…非常に恥ずかしい話です」


 招聘の話はお流れになる。


 ソニアさんは、笑顔で頷く。


「支部いた魔法士が、どんな言い訳をするのか、楽しみだわ…ふふ」


 彼女はほくそ笑む。



「レーヴ様」

「なにかしら?」

「王国の研究所と共同研究するとのことですが、私は参加しなくてよろしいのでしょうか?」

「参加してもらうのが、最良と思います。しかし、門前払いの件もありますし…それは追々参加していただければ、それでよいです」

「そうですか…」


 エレナ様がレーヴ様に会わないとなれば、カレンおばあちゃんの研究書は貰えない。


 という事は、私がシファーレンの研究所に来て、カレンおばあちゃんの研究書を読み解かなればいけなる。


 そもそも読み解けるのだろうか?


「レーヴ様。今、カレンおばあちゃんの研究書を見ても構いませんか?」

「ええ。どうぞ」

「ありがとうございます」



 さっそく、研究書を開く。


「やっぱり…」

「ナミさん。何が、やっぱりなの?」


 そばにいたソニアさんが訊いてくる。


「知らない単語がたくさんあります」


 ページをめくるごとに、見慣れない単語が目に飛び込んでくる。


「わたしにはほとんど読めない…これが古代語?」

「はい」

 

 これは苦労しそうだ。


 私の知っている古代語だけでは、この研究書を完全に理解することはできないだろう。


 わからない単語を一つ一つ調べて理解しないといけない。

 

 私自身の知識が、圧倒的に不足していることを痛感した。


「やっぱり、私が研究所に来たほうがいいのかもしれません…」

「シュナイツでできないの?」

「できなくはありせんが…」


 まさに茨の道…。

 

 どうしよう…。



 カレンおばあちゃんの研究書を読み進めていると、所長室に誰かやって来る。


「来たわね…見ものだわ…」


 ソニアさんが、にやりと口角を上げた。

 

 支部の責任者が到着したようだった。



Copyrightc2020-橘 シン


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