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ブレイバーズ・メモリー(3)   作者: 橘 シン


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26-35


「院長先生、なんで転移魔法を使わなかったのかな?」

「確かに」

 

 城を行く途中、丘を登りながらソニアさんがそう話す。


「使えないとか?」

「さすがに、それはないと思います」

「そうよね」


 院長先生ほどの魔法士が、基本的な転移魔法を使えないなんて考えられない。


「もしかしたら、禁止されているのかも」

「近いから、とか?」

「はい。あと都周辺はだめとか」

「あー、それがしっくりくるかも」


 エレナ様は人気のない所を選んでるようだったし。


 何事にも一長一短がある。



 お城の正門につく頃には昼を過ぎていた。


「途中で何か買えばよかった…」

「お腹がすいてきましたよね」


 向こうは、私達を待っているかもしれないから、今から買いにはいけない。



「あ、院長先生が正門前にいます」

「ほんとだ」


 出迎えてくれるとは…。


「もう一人いますね。事務官でしょうか?」

「たぶん、そうよ」


 魔法士である院長先生とは服装が違う。



「お待たせしました」


 駆け寄ると、院長先生は穏やかな笑みを浮かべた。


「いいえ。それほど、待っていませんので大丈夫ですよ」


 

「こちらは研究所所属の事務官です」

「よろしくお願いします」

「いえ、こちらこそ」

 

 女性事務官と自己紹介しつつ、握手する。


「では、わたくしは孤児院に帰ります」


 院長先生の言葉に、私の思考が止まる。


「え?」

「後は事務官が案内します」

 

 私はてっきり、院長先生も一緒に研究所へ同行してくれるものだと思い込んでいた。


「わたくしの居場所はここではないので」

「そう、ですよね…」

「ナミさんの治癒魔法を直接見てるのに?」

 

 ソニアさんが、私の代わりに疑問をぶつけてくれた。心の中で、大きく頷く。


「証言してくださらないのですか?」

「すでにして来ました」

 

 後は、研究所の判断だと、院長先生は話した。


「わたくしがいようといまいと、さほど変わりはしません」

「…」


 ちょっと不安だな。未知の場所へ踏み込むことへの恐れが、じわりと胸に広がる。


「所内は、騒ぎになってます」

「えー!…」

「厳しい目を向けられるかもしれません」

「それならますます、院長先生に…」

「ですから、わたくしがいても変わりません。あなたが、騒ぎの中心なのですから」


 院長先生は、私の肩に手を置く。その手から伝わる温かさに、少しだけ心が落ち着く。


「大丈夫ですよ。あなたが、あの子の怪我を治した魔法を見せるだけいいのです」

「はい…」

「落ち着いて、できる事をすればそれでいいですから。それに一人ではないでしょう?」


 そう言って、ソニアさんを見る。


 ソニアさんは私の目を見て、にこりと微笑む。


「わたしじゃ、頼りないかしら」

「そんな事ないです!」


 慌てて否定する。ソニアさんがいてくれるだけで、どれだけ心強いか。


「ありがとう。なら、胸を張っていきしょう」

「はい」


 私は大きく頷く。


「では、よろしいですか?」

「はい」


 事務官が通用口から城内に中へ入っていく。


「院長先生、ありがとうございました」


 院長先生の頷きを確認した私は、深く一礼し城内に入った。  

 


 城内に入るとまた城壁が現れる。


 城壁は三層になっているみたい。


 出入り口が互い違いなっていて敵の侵入を遅らせる役割を果たしてるそうだ。

 

 詰め所で武器を含めた荷物を預ける。


 エレナ様からレーヴ様宛の手紙が入ってる封筒は事前に上着の内ポケットに忍ばせておいた。



 研究所は南にあって、城内の四分の一の広さをもっていた。


「四分の一…」

「すご…」


 

 城内を歩く私達を兵士や事務官が珍しいそうに見ている。


 そして、ついに研究所に到着。

 

 研究所前にはたくさんの魔法士達が集まっていた。まるで、私たちを待ち構えているかのように。


「中々豪勢な出迎えね」

「やめてほしいですけど…」


 威圧的すぎると思うのは、私の気が小さいからだろうか?。


 

 魔法士の集団から、初老のゆっくりと女性が進み出てくる。


「研究所の責任者を努めています。シンシア・レーヴです」

「あなたがレーヴ様…」


 私はすぐに片膝をつく。ソニアさんも私に倣う。


「お初にお目にかかります。ナミ・カシマと申します」

「ソニア・バンクスです」

「膝をつく必要はありません。お立ちなさい」

 

 そう言われたので立ち上がる。


 レーヴ様は白髪混じりの頭髪。


 優しくも、威厳に満ちた顔立ちをしていた。


 この人が、エレナ様の恩師…。


「ようこそ研究所へ」


 そう言って、右手を差し出す。


 私は深呼吸をして、覚悟を決めてから、握手をする。


「くぅ!!」

「ナミさん?」

「大丈夫ですか?」

「はい…」


 すごい!衝撃。


「レーヴ様の魔法力が強くてびっくしました…」

「そうですか?ふふ」


 レーヴ様は優しく微笑み、私の肩に手を置く。


「あなたから感じる魔法力、違いますね」

「わかりますか?」

「ええ。興味深いです」


 私の魔力の違いを、一瞬で感じ取るとは。さすが、エレナ様の恩師だ。


 ソニアさんとも握手して(ソニアさんは普通に握手)研究所の中へ。


「申し訳ありません。バンクスさんはこちらに」

「あ、はい」


 ソニアさんが事務官とともに離れていく。


「待ってください。彼女も一緒に」

「彼女は魔法士ではないので…」

「魔法士では、ありせんが、大切な友人です。私の身を案じ、ここまでついて来てくれました。彼女も同行することをお許しください」


 治癒魔法の件とは関係ないけど、最後まで一緒にいてほしかった。


「いいでしょう」

「ありがとうございます」

 

 許しを得て所内へ。


「一人だと心細くて…」


 つい、本音を漏らしてしまった。


「ナミさん。そんな事言っていたら、何もできないわよ」

「そうなんですけど…この件が終わるまでは、そばにいてください」

「今のナミさんを見たら、テオドールさんが幻滅しちゃうかも」

「卑怯ですよ。彼をだすのは…」


 私だって見せたくない。



 所内の誰もが私達に注目する。その視線は好奇心に満ちており、まるで珍しい動物を見るかのようだった。


 悪い事をしたわけじゃなのに、いたたまれない。



 案内されたのは所長室だった。重厚な扉を開けると、広々とした空間が広がる。


「先に話をしたいの」

「はい」

「誰かお茶を頂戴」

「あの、お構いなく」

「お客様なのですから、礼をつくしなければいけません」

「はい…」


 恐縮してしまう…。


 所長室のソファに座る。


 レーヴ様は机で書類をまとめていた。


 メイドがお茶とお茶請け出してくれる。


「どうぞ」

「ありがとうございます」

  

 私はお茶を一口。


「このお茶、おいしい。なんとなく甘くて」

「はい。こんなの飲んだ事ないです。高級品ですよ」


 さすが所長。


 これが普通なのかな。


「ナミさん。この四角い何?」

「これヨウカンです」

「ヨウカン?」

「アズキで作るんです。甘くて美味しいですよ」


 ソニアさんは、ヨウカンを少し切って口に運ぶ。


「美味しい。甘ったるい物じゃないのね」

「お茶と合いますよ」

「どれどれ…ほんとだ。これも高級品?」

「おそらく。城下町にも売ってると思いますけど、城内で特別に作ったものかもしれません」


 お腹が空いてるせいか、特に美味しく感じる。



「ごめんなさい。お待たせしました」

「いえ」


「さて、何から話せばいいかしら…そうね。まずは孤児院の男の子を治療してくれて、ありがとう」


 レーヴ様の言葉に、私は慌てて首を振った。


「いえいえ!レーブ様に礼を言われるほどの事はしていません」

「そんな事はないわ」

「たまたま居合わせだけですから…」


 運が良かったっていえばいいのかな?。



「あの、私はレーヴ様宛の手紙を預かっていまして…」

「わたくしに?」

「はい。もしよければそちらを先に」

「わかりました」


 どこでエレナ様からの手紙を渡そうか迷っていた。

 

 今しか渡すチャンスはないかもしれない。


 私は内ポケットから封筒を出し、レーヴ様に渡す。


「…」


 レーヴ様が封筒を見つめる。


「エレナからね?」


 封筒には宛名のみで、エレナ様の名前はない。


「わかりますか?」

「わかるわ。小さい頃から見ていましたからね。あの子からの手紙や論文を」


 なるほど。


 レーヴ様は封筒から手紙を出し、読み初めた。



Copyrightc2020-橘 シン


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