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ブレイバーズ・メモリー(3)   作者: 橘 シン


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26-34


 治癒魔法が発動し、淡く光を放つ。


 院長先生は、男の子を胸に抱いて、傷口を見せないようにしていた。


「大丈夫ですからね」

「うん…」

 

 男の子は少し体を震わせていた。



「深そうな傷のようですが、大丈夫ですか?」

「大丈夫です。これより酷い傷を治した事があるので」

「そうですか。それなりの経験を積んでいるようですね」

「経験なのでしょうか…そうしなければ、友人が死んでしまうから…」


 したくした経験じゃない。


 あの時は、アーロン君を助けたくて必死だった。


「それを経験というのです。経験に勝るものはありません」

「はい」

「頭では分かっていても、いざ実践となるとできない者の方が多い」


 それは魔法士だけでなく、全ての人に言える。



「この子はどういう子なんですか?」

「この子ですか?…そうですね、子ども達のリーダー的な存在です」

「へえ」

「皆の手本となる子だと、思っていたんですが…約束を破るなんて…」


 院長先生は小さく息を吐く。


「先生の力になりたかったんだ」

 

 院長先生の腕の中から、そう声が聞こえた。


 私と院長先生は視線を合わす。


「先生は忙しいから、少しでもいいから手伝って助けたくて…」


 男の子は泣き声で話す。


「ありがとう。でも、もう少し大きくなってから、薪割りをして頂戴」


 院長先生は、そう言いながら男の子の頭を撫でる。


「うん…ごめんなさい」

「いいのよ。大丈夫」


 院長先生が優しい笑顔を見せた。


 よかった。無感情な人じゃなかったんだ。



「すみません!遅くなりました」

「大丈夫です」

「ど、どうですか?」

「もう止まってるはず」


 私はそっとハンカチを取る。


「ほんとだ…」

「代わりの当て布を」

「はい、どうぞ」


 当て布をして、またそっと押さえる。


「まだ痛いよね」

「痛くない」


 いや、まだ痛いはず。


 血を止めただけなんだから。


 私達に心配させまいと、耐えている。



「血は止まりましたが、これは一時的なもので放って置けばまた出血しまう」

「そうなんですか…」

「次は傷を塞ぎます」

「お待ちなさい」

「はい?」


 院長先生が、私を止める。


「治癒魔法も魔法力を消費するのではありませんか?」

「はい、もちろん」

「あなた自身の魔法力の消費が心配です」

「これくらいなら全然…」

「本当ですか?傷を塞いだはいいが、あなたが倒れては本末転倒ですよ」

「お気遣いいただき、ありがとうございます。ご心配には及びません」


 院長先生は、私をじっと見る。


 私も院長先生を見つめ返した。


「わかりました…お願いします」

「はい」


 男の子の傷を塞ぐため、魔法を発動させた。


「ちょっと、痛い…」

「もう少し我慢して」

「うん」


 力強い言葉。やっぱり男の子なんだね。


 弱いところは、できるだけ見せたくないんだ。



「傷が塞がっても、無理はさせないでください。また傷が開く可能性があります」

「わかりました」

「完全に塞がって痛みが取れるまで、当て布と包帯をしたほうがいいとおもいます」

「はい」


 一度、傷口を確認する。


「もう少しかな」

「ほんとに傷が治ってる。院長先生」

「ええ。こんなものがあったとは…自分の知識の浅さを実感しました」

「大げさですよ」


 魔法を再開。


「もう少しだからね」

「うん」


 男の子はもう泣いていなかった。


「傷跡って残ります?」

「残ると思いますが、縫ったものよりは目立たないかと」

「そうですか…よかった」


 職員は胸を撫で下ろす。



 もう一度傷口を確認。


 少し赤みはあるものの、傷は塞がっている。


「よし。これで大丈夫でしょう」

「本当にありがとうございます」

「はい。包帯をお願いします」

「はい。よかったね」

「うん…ありがとう…」

「いいえ」

  

 男の子は、泣いたせいで目が赤いが、しっかりとお礼の言葉を述べた。



「わたくしからもお礼を言わせてください。ありがとう」

「礼を言われるほどの事はしてません。たまたま、居合わせだけですので…」

「そんな事はありません。あなたは、自ら怪我人を見たいと言ってくれた。無視する事もできたにも関わらず」

「何もせずに後悔はしたくなかったので…」

「そういう気持ちが大切なのです。逆の立場だったら、できていたかわかりません」

「院長先生にだって、できていたはずです」

「私もそう思います」


 職員が、男の子の涙の跡を拭きながら話す。


「子ども達を守るためなんですから」

「そうですね…」


 院長先生は目尻に溜まった涙を拭いた。


「とりあえず、大事にならなくて、安心しました」



「ナミさん!助けて!」

 

 ソニアさんがこっちに走ってくる。その後ろには子ども達。


「ソニアさん。まだ追いかけっこしてたんですか?」

「はあ…したくて…はあ…してたわけじゃ…ふぅ…ないから…はあ…もう…」

 

 彼女は深呼吸して、息を整える。


「参ったわ…」

「盗賊なんて、言われてましけど?ふふっ」


 私はつい笑ってしまった。



「先生!そいつは盗賊だ!」

「だから…」

「剣を持ってるんだ」

「皆さん落ち着いてください!」


 院長先生がそう呼びかける。


「この方は、盗賊ではありません」

「剣持ってるのに?」

「身を守るためのものです」


 子ども達は納得いってない顔ばかり。


「剣など武器を使って、脅したり傷つけてお金を盗むのは、悪い事です。しかし、この方は違います。一度も剣を抜いていないでしょう?」

「抜いてない」

「脅したりしましたか?」

「してない」

「そうなら、盗賊ではありません」


 子ども達が静かになった。

 

 さすが、院長先生。


「やっと、疑いが晴れた?…」

「すみません…」

「いえいえ…」

 

 職員が頭を下げる。


「この人は盗賊じゃない!」


 怪我をした男の子が、私達の目前に出る。


「この人が、俺の怪我を直してくれた。その人の友達なら、絶対に盗賊なんかじゃない!」


 男の子が、包帯を巻いた腕を見せた。


「え?もう治ったの?」

「マジで?」

「魔法で治しくれたんだぜ?すげえだろ?」

「すげえ!」

 

 男の子の周りに子ども達が集まる。

 

 子ども達の興味が、怪我をした男の子に集まってしまう。


「怪我は、まだ治っていませんよ!無理をしてはいけません!」


 子ども達は怪我が治った事で盛り上がり、話を聞こうとしない。


「お勉強の時間ですから、中に入ってくださ-い!」


 職員達が集まり、子ども達を建物内に誘導する。


 最後尾にいた怪我をした男の子が、私に向かってきちんと頭を下げた。


「いい子ね」

「悪い子なんていませんよ」


 

「さてと、わたくしは研究所へ言って来ます」

「馬をご用意します」

「お願いします」


 職員が去っていく。


「あなた達は、ここまでどのようにしてきました?」

「歩いて来ました」

「そうですか。ここにある馬は限らています。わたくしは馬で先に行くので、あなた達は城の正門まで来てください」

「わかりました」

「申し訳ありません。取って返すになってしまいますが」

「いいえ。私達のほうこそ突然の訪問で、ご迷惑をかけてしまって…」


 私達が来なければ、いつも通りの日常だったろう。


「あなた達が来なければ、怪我人で大慌てだったでしょう。むしろ、幸運といえます」

「痛み入ります」

 

 

 職員が馬を引いてきた。


「院長先生。どうぞ」

「ありがとう」


 院長先生は馬に乗り込む。


「紹介状と曽祖母からの手紙を持って行ってください」

「紹介状はわかりますが、曽祖母さんからの手紙はよろしいのですか?」

「構いません。証拠としてお持ちください」

「わかりました」

「よろしくお願いします」

「では、城でお待ちしています」

「はい」


 院長先生は馬で駆け出した。


「私も、行きましょう」

「ええ」


 私は、子ども達と職員に見送られて、城へと向かった。



Copyrightc2020-橘 シン


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