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ブレイバーズ・メモリー(3)   作者: 橘 シン


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26-33


「どうしました?」

「あ、院長先生」


 院長?。

 

 いきなりレーヴ様?。


 ほんとに!?


 私は一気に緊張してきて、鳥肌がたった。



 魔法士特有の服を着た中年女性が顔を出す。


「こちらの方々、魔法研究所とレーヴ様にご用があるとの事で…」

「研究所に?」

「はい。王国から来たそうです」

「王国から?」

  

 女性魔法士が私とソニアを見る。


「初めまして。ナミ・カシマと申します。彼女はソニア・バンクスさんです」

「初めまして」


 魔法士は小さく会釈する。


「失礼ですが、あなたがレーヴ様でしょうか?」

「いいえ。違います」

「え?先ほど院長と…」

「わたくしはレーヴ様に代わりに、孤児院の監理をしてる者です。あくまで代行です」

「そうですか…」


 レーヴ様じゃなかった…。


「ナミさん。紹介状、紹介状を見せて」


 ソニアさんが耳打ちしてくれた。


 そうだった。


「王国の研究所から紹介状をもらっているんです」


 鞄の中から紹介状を出し、魔法士に渡す。


「拝見させていただきます」


 魔法士は紹介状を両手で受け取り、中を確かめる。


 ここまでは、極普通の対応をしてくれている。



「なるほど…」

「こんな事を頼む立場ではないのは、重々承知しておりますが、研究所との連絡の仲介をしていただけないでしょうか?」


 院長さんは、少し考え混む。


「あなた方が、王国の研究所の正規の職員なら考えますが、そうではないのでしょう?」

「はい…で、ですが、紹介状が…」

「紹介状が本物である証拠は?」

「証拠…」


 証拠なんて…。


「ちょっと、すみません」


 ソニアさんが割って入ってくる。


「紹介状は本物です。本物でなければ、王国からわざわざここまで来ません」

「王国から来たかどうかも、わたくしにはわからない」

「でしょうね。でしたら、その紹介状をこっちの研究所へ持っていって精査していただいて結構です」


 ソニアさんは物怖じせずに話す。


「偽物だと判断したのなら、拘束して牢屋に放り込んでも構いません」

「ソニアさん…」


 彼女は胸をはり毅然とした態度。


「放り込んでも構いませんが、わたし達は重要な魔法ついての捜索で来ているのをお忘れなく」

「重要は魔法?紹介状には何も書いていませんが?何なのですか?」

「ナミさん」

「はい」


 ソニアさんは、私を前に出す。


「私達は治癒魔法について捜索を依頼されているんです」

「治癒魔法?」


 院長さんは、眉間に皺を寄せる。


「そんな魔法は聞いた事がありません」


 私は治癒魔法の事と、曾祖母が魔法士である事を説明した。


「カレン・カシマ?それも聞いた事がありませんね」


 院長さんは首を横に振る。


「嘘を並べても、本物にはなりませんよ」

「何言ってんの…嘘じゃないって!」


 院長さんの言葉に、ソニアさんが声を荒げるが、私はそれを止める。


「ソニアさん。落ち着いてください」

「でも…」

「任せてください」


 私は、鞄から小さな折りたたみナイフを出した。


「証拠があれば、仲介していただけますか?」

「ええ」

「わかりました」

 

 一度手のひらを院長さんに見せてから、取り出したナイフの刃をだし、迷わずに手のひらを切る。


「んんっ!!」

「ナミさん!切るんだったら、わたしの手を…」

「いいんです…」


 自分の手を切るのは、初めてじゃない。


 実は、治癒魔法の練習のためにこっそり切っていた。


 

 手のひらから、一滴また一滴を血が流れ落ちる。


「見ていてください」

 

 私はナイフを捨て、自分の手のひらに治癒魔法を施す。


 手のひらを見せ、魔法によって血が止まった事を確認させてから、傷を治す魔法を施した。


「これでいかがですか?」

「…」


 院長さんは表情を崩さなかったが、女性職員は口に手を当てて驚いていた。


 院長さんは、私の手を掴み観察する。


 彼女は、残っていた血を指で取り、匂いを嗅ぐ。


「手品の類ではなさそうですね」


 その言葉に、ソニアさんが何が言いたそうだった。


「…いいでしょう。今すぐ、研究所に…」

「院長先生!」


 院長さんの後ろ、孤児院の中から子ども達が走ってやって来る。


 何か焦ったようす。泣いてる子もいる。


「どうしました?」

「薪割りしてた男の子が手を切っちゃった!」

「いっぱい血が出てる!…」

「まあ!」

「あれは先生達がやるから、やっちゃダメっていったしょう!」


 女性職員が怒りながら、急いで走りさる。


「中で待っていてください。すぐに準備を…」 

「手を切った子をみていいですか?心配です」

「そうですね…ぜひ」

「はい」


 院長さんは案内され、怪我をして子の元へ急ぐ。



「手のひら返しもいいとこね」

「ソニアさん、聞こえますよ」

「聞こえるつもりで、言ったんだけど?」

 

 彼女は、悪びれる様子もない。


「だってそうでしょ?」

「そうですけど…」


「申し訳ありませんでした」


 前を歩く、院長さんがそう言う。


「今さら…」

 

 私はソニアさんの腕を掴み、首を横に振る。



「言葉ではなく、自らの目で見て、観察する事が証左となるのです」

「はい」


 院長さんの言葉に、ソニアさんは大きくため息をはく。


「魔法士として、長く研究しているとどうしても、そのように考えてしますのです」

「ああ、そうですか」

 

 ソニアさんは、わざとらしく話す。


「治癒魔法を見ても驚かなったのは、どうしてですか?」

「驚いてますよ。そう見えないでしょうけど」

「見えませんね」

「こんなわたくしだから、孤児院を任されたのでしょう」


 なんだろう。


 誰かに似てる気がする。


「昔のエレナ隊長みたいね」


 ソニアさんが、そう耳打ちしてくる。


 そうだ、エレナ様だ。


 エレナ様も、出会った当初はあんな感じで落ち着いていて、あまり感情を表に出さなかった。



「こちらです」


 孤児院の真ん中をつっきり、裏に出る。


 裏手には物置小屋があり、そばに薪を積んであった。


 そこに子ども達が集まっていた。その中心から、大声で泣いてる声する。


「皆さん。大丈夫ですから、ちょっと通してください」

「ごめんね。怪我を診に来たの」

「怪我してない子はこっちに来て!」


 ソニアさんが笑顔で子ども達を誘導する。


「新しい先生?」

「違うよ。ちょっと用があってよっただけ」

「この人、剣持ってる!」

「盗賊だ!」

「え?いや、違うから!」

「囲め!」

「だから、違うって!」


 彼女は走って逃げ出す。それを子ども達が追っていった。


 ソニアさん、頑張って!。



「うあああああん!」


 怪我した男の子は大声で、泣き叫ぶ。


「大丈夫!大丈夫だから」


 女性職員が傷口をハンカチの様なもので押さえていた。


「男の子でしょ?男の子は涙を見せないものよ」


 そうは言うが、子どもにとっては大事(おおごと)


 男の子は、唇を噛み締めて泣くを我慢する。


「傷口を見せてもらえますか?」

「はい…」


 職員が、ハンカチをそっと外す。

 

 途端に、血が溢れでる。


「うああああ!やだぁ!」


 また泣き始める男の子。


 それを構わずに傷を観察する。


「刃が斜めに入ったみたい…」

「みたいですね」


 結構、大きな傷だった。


「私が押さえます。代わりの当て布と包帯があれば、持って来て下さい」

「わかりました」

「わたくしが、持ってきます」

「いえ。院長先生は、ここにいて彼の気をそらしてください」

「え?…ええ、わかりました」


 私は、ハンカチで傷を押さえたまま治癒魔法を発動させた。

 


Copyrightc2020-橘 シン


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