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ブレイバーズ・メモリー(3)   作者: 橘 シン


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26-32


 テオドールさんから情報を得た。


 シンシア・レーヴ様が、責任者を務めている孤児院がある。


 そこはかつて、エレナ隊長が引き取られた所。



 情報を得た翌日早朝、テオドールさんと待ち合わせして孤児院へと向かう。


「テオ君、ごめんね」

「いいって」


 孤児院は都南部の郊外にある。


 テオドールさんは、都に慣れてないわたし達のために途中まで送ってくれた。


 ナミさんとテオドールさんはその間、ずっと話をしていた。


 話していたのは、ナミさんでテオドールが聞き役といった感じ。


 同郷だからか、ナミさんは魔法士としての悩み事まで、打ち明けていてた。

 


「あの丘を越えると、集落がある。そこに孤児院あるんだ」

「丘を越えると都じゃないのね」

「いや、管轄は一応都なんだが、あまり住むやつはいない」

「やっぱり、利便性が悪いから?」

「そういう事だろうな」

 

 丘ひとつといえども、面倒だよね。


 さらに、丘から都中心部まで距離あるし。


「テオ君、もういいよ」

「そうか?」

「うん。ありがとう」

「ああ…」


 テオドールさんは丘を見つめたまま動かない。


「じゃあ、俺は行くよ」

「うん…」

「がんばれよ」

「うん」

「自分を信じていれば、道は開ける」

「そうだね」

「俺も、最初は怒られてばっかりだった」

「今は違うんでしょ?」

「ああ。腐らずにやってきて、なんとか認められるようになったよ」

「テオ君は真面目だから」

「お前にだってできるさ」

「うん。私もがんばる。それじゃあ、ありがとう」


 テオドールさんと握手をする。


 彼が背を向けて去っていく。


「テオ君!」


 ナミさんの声に、テオドールさんが振り向く。


「また、会えるよね?」

「ああ。マレクか、昨日のテイショク食べた店のおかみさんに聞けば、居場所

はわかるから」

「うん」


 ナミさんが頷き、手をふる。


 彼もそれに答えて、一度手を上げてから、遠ざかっていく。



「ナミさん」

「…」

「行きましょう」

「はい」


 丘を少しずつ登っていく。


「いい人ね。テオドールさん」

「はい」

「見た目、ちょっと怖そうだけど」


 わたしの言葉に、ナミさんは少し笑う。


「ほんとは優しいのに…ベッキーは第一印象が抜けなくて…」

「ナミさんは、そういうギャップに惹かれたの?」

「え?」

「昨日からずっと機嫌がいいから、彼の事好きなのかなって」

「…」


 彼女の顔が赤くなるのが分かった。


「私…」

「ごめん…ちょっとからかってみたくなっただけで、気を悪くしたら…」

「好きなんです!好きだったんです。テオ君の事…」


 ナミさんは立ち止まって叫ぶ。


「夢をもって、それに向かっていく彼が…でも、私には何もなくて…」

「そんな事ないでしょ?」

「今も昔と変わらないです。ベッキーの誘いに乗ったのは、テオ君のようになれるかなって思ったのも、あるんです」

「そう」


 そういう事も考えていたのね。


「彼が村を出るって聞いた時、この気持ちを伝えようと思ったんです。でも、できなかった…」

「どうして?」

「彼が夢を語る姿が眩しくて…夢も何もなかった自分が情けなくて…」


 彼女は肩を落とし、大きく息をはく。


「不相応だと?」

「はい…」

「今のあなたは違う」


 わたしは、ナミさんの肩を掴む。


「今もたいして…」

「いいえ。今のあなたは、昔とは違うはずよ」

「ソニアさん…」

「あなたは、彼と同じように村を出て、魔法士なった」

「なりましたけど…」

「そして今、治癒魔法を探して奔走してる。違う?」


 ナミさんが首を横に振る。


「治癒魔法を見つけて、ハイ終わり、じゃない。その後、やらないといけない事は、わかってるでしょ?」

「やらないといけない事…治癒魔法を研究して…」

「そう。分かってるなら、もっと堂々とすべきよ。彼と同じように夢を追ってるんだから」

「そう…そうですね」

「彼のほうが、あなたを眩しくて思う位、夢を追い続けるの」

「はい」

 

 わたしが、彼女にこんな事を言う資格はないんだけど、少しでも前向きなってほしくて語ってしまった。


 

 わたしは立ち止まったままのナミさんの手を引いて丘を登る。


「彼も、あなたに気があるんじゃない?」

「まさか。ないですよ」

「そうかしら?」

「そうですよ」

「ここまで案内してくれたのよ。たいして迷う道じゃなかった」

「それは…」


 革職人がいつから仕事を始めるかわからないけど、もしその時間まで削って案内してくれたのしたら…。


「彼は優しいんです」

「だ、れ、に、優しいのかなぁ」


 ナミさんと視線が合った途端、彼女は顔を真っ赤する。


「もう…ソニアさん…やめてください!」

「ごめん。でも、ナミさんの反応がわかりやすくて」

「今までいっっちばん!、ソニアさんの事嫌いになりました!」


 彼女は、そう言うとわたしの手を振りほどき、早足で丘の登っていく。


 だから、そういう反応がかわいいんだって。



 丘を登りきり、後ろを振り返る。


 眼下には、都の町並みが広がっていた。


 城、宮殿、城下町、港。そして、海。


「きれい…」


 絵心あったら、描きたい景色。



「ソニアさん。行きますよ」

「ええ」


 今、用があるのは丘を越えた先の街。


「不便らしいけど、結構な人が住んでるんじゃない?」

「はい。意外に住んでますね」

「うん」


 人通りも多い。


 荷馬車も行き交ってるし、行商人の中継地みたいな所ないのかな。


 丘の降りきり、町中を歩く。


 町中には一通りのお店は揃ってるみたい。


 普段の生活に関しては、不便はなさそう。


 

 ギルドに寄って、孤児院の場所を聞く。


「ギルドの裏手なります」

「あら、そう?」

「行けばわかると思います。林の中ですが、道ができていますので」

「そうですか。ありがとうございます」


 案内通り、林の中に道があり、孤児院まで続いていた。


 孤児院に近づくにつれ、子ども達だろうか、ワイワイガヤガヤと声がする。


 孤児院の敷地は柵で囲まれているもの、外敵から身を守るような物ではない。


 子ども達の数名がわたし達に気づく。


 わたしとナミさんは笑顔で手を振る。子ども達も振りかえしくれた。


 

 孤児院の正面玄関に到着。


 ドアに レーヴ孤児院 と書いてある。


 レーヴ様の名があるという事は、テオドールさんの情報通り、レーヴ様が責任者で間違いないだろう。



「さてと…。ここは、どんな対応をしくれるのかしらね」

「支部より丁寧だといいんですけど…」


 ほんと、そうありたいわ。

 

 ドアをノックする。


「すみません!」

「失礼します!どなかかいらっしゃいませんか?」


 子ども達がいるから、誰もいないという事はないだろう。


 

 孤児院は平屋で、結構大きい。


 床面積は、シュナイツの館以上あるかも。



 もう一度ノックしようとした時、ドアが軋み音を立てて開く。


 出てきたのは、白いエプロンをつけた女性。


 わたし達よりも少し年上かな。


「何かご用でしょうか?」

「おはようございます。失礼ですか、こちらはシンシア・レーヴ様の孤児院で間違いないでしょか?」


 ナミさんが恐る恐る尋ねる。


「はい。ここはレーヴ様の孤児院です」


 よしよし。


「私達はセレスティア王国の国立魔法研究所の依頼で、シファーレンの国立魔法研究所とレーヴ様にご用があってきました」

「はあ」

「シファーレンの研究所は外部と連絡をしていないので、連絡できずに困っていまして。こちらはレーヴ様の孤児院という事とで、失礼だとは思いますが、直接ご挨拶したく参った者です」

「王国から…」


 応対してくれた女性には驚きと戸惑いが見て取れた。


 その女性の後ろに、誰かが見えた。


 その人が近づいて来る。


 近づくつれ、その人の服装が魔法士の物だった。


 まさか、レーヴ様!?



Copyrightc2020-橘 シン


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