26-32
テオドールさんから情報を得た。
シンシア・レーヴ様が、責任者を務めている孤児院がある。
そこはかつて、エレナ隊長が引き取られた所。
情報を得た翌日早朝、テオドールさんと待ち合わせして孤児院へと向かう。
「テオ君、ごめんね」
「いいって」
孤児院は都南部の郊外にある。
テオドールさんは、都に慣れてないわたし達のために途中まで送ってくれた。
ナミさんとテオドールさんはその間、ずっと話をしていた。
話していたのは、ナミさんでテオドールが聞き役といった感じ。
同郷だからか、ナミさんは魔法士としての悩み事まで、打ち明けていてた。
「あの丘を越えると、集落がある。そこに孤児院あるんだ」
「丘を越えると都じゃないのね」
「いや、管轄は一応都なんだが、あまり住むやつはいない」
「やっぱり、利便性が悪いから?」
「そういう事だろうな」
丘ひとつといえども、面倒だよね。
さらに、丘から都中心部まで距離あるし。
「テオ君、もういいよ」
「そうか?」
「うん。ありがとう」
「ああ…」
テオドールさんは丘を見つめたまま動かない。
「じゃあ、俺は行くよ」
「うん…」
「がんばれよ」
「うん」
「自分を信じていれば、道は開ける」
「そうだね」
「俺も、最初は怒られてばっかりだった」
「今は違うんでしょ?」
「ああ。腐らずにやってきて、なんとか認められるようになったよ」
「テオ君は真面目だから」
「お前にだってできるさ」
「うん。私もがんばる。それじゃあ、ありがとう」
テオドールさんと握手をする。
彼が背を向けて去っていく。
「テオ君!」
ナミさんの声に、テオドールさんが振り向く。
「また、会えるよね?」
「ああ。マレクか、昨日のテイショク食べた店のおかみさんに聞けば、居場所
はわかるから」
「うん」
ナミさんが頷き、手をふる。
彼もそれに答えて、一度手を上げてから、遠ざかっていく。
「ナミさん」
「…」
「行きましょう」
「はい」
丘を少しずつ登っていく。
「いい人ね。テオドールさん」
「はい」
「見た目、ちょっと怖そうだけど」
わたしの言葉に、ナミさんは少し笑う。
「ほんとは優しいのに…ベッキーは第一印象が抜けなくて…」
「ナミさんは、そういうギャップに惹かれたの?」
「え?」
「昨日からずっと機嫌がいいから、彼の事好きなのかなって」
「…」
彼女の顔が赤くなるのが分かった。
「私…」
「ごめん…ちょっとからかってみたくなっただけで、気を悪くしたら…」
「好きなんです!好きだったんです。テオ君の事…」
ナミさんは立ち止まって叫ぶ。
「夢をもって、それに向かっていく彼が…でも、私には何もなくて…」
「そんな事ないでしょ?」
「今も昔と変わらないです。ベッキーの誘いに乗ったのは、テオ君のようになれるかなって思ったのも、あるんです」
「そう」
そういう事も考えていたのね。
「彼が村を出るって聞いた時、この気持ちを伝えようと思ったんです。でも、できなかった…」
「どうして?」
「彼が夢を語る姿が眩しくて…夢も何もなかった自分が情けなくて…」
彼女は肩を落とし、大きく息をはく。
「不相応だと?」
「はい…」
「今のあなたは違う」
わたしは、ナミさんの肩を掴む。
「今もたいして…」
「いいえ。今のあなたは、昔とは違うはずよ」
「ソニアさん…」
「あなたは、彼と同じように村を出て、魔法士なった」
「なりましたけど…」
「そして今、治癒魔法を探して奔走してる。違う?」
ナミさんが首を横に振る。
「治癒魔法を見つけて、ハイ終わり、じゃない。その後、やらないといけない事は、わかってるでしょ?」
「やらないといけない事…治癒魔法を研究して…」
「そう。分かってるなら、もっと堂々とすべきよ。彼と同じように夢を追ってるんだから」
「そう…そうですね」
「彼のほうが、あなたを眩しくて思う位、夢を追い続けるの」
「はい」
わたしが、彼女にこんな事を言う資格はないんだけど、少しでも前向きなってほしくて語ってしまった。
わたしは立ち止まったままのナミさんの手を引いて丘を登る。
「彼も、あなたに気があるんじゃない?」
「まさか。ないですよ」
「そうかしら?」
「そうですよ」
「ここまで案内してくれたのよ。たいして迷う道じゃなかった」
「それは…」
革職人がいつから仕事を始めるかわからないけど、もしその時間まで削って案内してくれたのしたら…。
「彼は優しいんです」
「だ、れ、に、優しいのかなぁ」
ナミさんと視線が合った途端、彼女は顔を真っ赤する。
「もう…ソニアさん…やめてください!」
「ごめん。でも、ナミさんの反応がわかりやすくて」
「今までいっっちばん!、ソニアさんの事嫌いになりました!」
彼女は、そう言うとわたしの手を振りほどき、早足で丘の登っていく。
だから、そういう反応がかわいいんだって。
丘を登りきり、後ろを振り返る。
眼下には、都の町並みが広がっていた。
城、宮殿、城下町、港。そして、海。
「きれい…」
絵心あったら、描きたい景色。
「ソニアさん。行きますよ」
「ええ」
今、用があるのは丘を越えた先の街。
「不便らしいけど、結構な人が住んでるんじゃない?」
「はい。意外に住んでますね」
「うん」
人通りも多い。
荷馬車も行き交ってるし、行商人の中継地みたいな所ないのかな。
丘の降りきり、町中を歩く。
町中には一通りのお店は揃ってるみたい。
普段の生活に関しては、不便はなさそう。
ギルドに寄って、孤児院の場所を聞く。
「ギルドの裏手なります」
「あら、そう?」
「行けばわかると思います。林の中ですが、道ができていますので」
「そうですか。ありがとうございます」
案内通り、林の中に道があり、孤児院まで続いていた。
孤児院に近づくにつれ、子ども達だろうか、ワイワイガヤガヤと声がする。
孤児院の敷地は柵で囲まれているもの、外敵から身を守るような物ではない。
子ども達の数名がわたし達に気づく。
わたしとナミさんは笑顔で手を振る。子ども達も振りかえしくれた。
孤児院の正面玄関に到着。
ドアに レーヴ孤児院 と書いてある。
レーヴ様の名があるという事は、テオドールさんの情報通り、レーヴ様が責任者で間違いないだろう。
「さてと…。ここは、どんな対応をしくれるのかしらね」
「支部より丁寧だといいんですけど…」
ほんと、そうありたいわ。
ドアをノックする。
「すみません!」
「失礼します!どなかかいらっしゃいませんか?」
子ども達がいるから、誰もいないという事はないだろう。
孤児院は平屋で、結構大きい。
床面積は、シュナイツの館以上あるかも。
もう一度ノックしようとした時、ドアが軋み音を立てて開く。
出てきたのは、白いエプロンをつけた女性。
わたし達よりも少し年上かな。
「何かご用でしょうか?」
「おはようございます。失礼ですか、こちらはシンシア・レーヴ様の孤児院で間違いないでしょか?」
ナミさんが恐る恐る尋ねる。
「はい。ここはレーヴ様の孤児院です」
よしよし。
「私達はセレスティア王国の国立魔法研究所の依頼で、シファーレンの国立魔法研究所とレーヴ様にご用があってきました」
「はあ」
「シファーレンの研究所は外部と連絡をしていないので、連絡できずに困っていまして。こちらはレーヴ様の孤児院という事とで、失礼だとは思いますが、直接ご挨拶したく参った者です」
「王国から…」
応対してくれた女性には驚きと戸惑いが見て取れた。
その女性の後ろに、誰かが見えた。
その人が近づいて来る。
近づくつれ、その人の服装が魔法士の物だった。
まさか、レーヴ様!?
Copyrightc2020-橘 シン




