26-31
「嘘…テオ君?」
え?。
「やっぱり、カシマだったか…」
「ナミさん、知り合い?」
「はい!知り合いです。同じ村の出身なんです」
同郷でもあると。
「何年ぶり?元気だった?今何してるの?」
彼女は、すごく嬉しそうな顔で、立て続けに質問をする。
「その前に、剣を収めてくれねえかな…」
「ごめんなさい。ソニアさん、大丈夫です。彼は悪い人じゃないです」
「ええ…わかったわ」
わたしは剣を鞘に収めた。
「ほんと久しぶりだよね」
「五年ぶりくらいか」
「うん!そう」
二人だけで、話が盛り上がっている。
わたしそっちのけで。
まあ、それはいいんだけど、ナミさんのテンションが高い。
ここまで、饒舌に話してるの初めて見た。
アーロンさんの時とは大違い。
あれ?もしかして…ナミさんは、彼の事を…。
「ナミさん」
「はい?」
「一応、紹介してもらえる?」
「あ、すみません」
「いいのよ」
彼女が苦笑いを浮かべて謝る。
「こちらはテオドール・デッケルス君。彼女はソニア・バンクスさんです」
「どうも」
「ああ。よろしくな」
軽く握手をする。
当たった手のひらが固い感じがした。
彼は、あまり感情を表に出す性格ではないみたい。
「立ち話でもいいが、座って話さないか?」
「うん、いいよ」
ナミさんが即答する。
「来てくれ。そんなに離れてない所にいい店がある」
テオドールさんは、手招きしつつ歩き出した。
「行きましょう」
「え?ええ…」
ナミさん、積極的ね。それにずっと笑顔。
ナミさんは、テオドールと呼ばずに、テオと短く呼ぶ。でも、テオドールさんは、ナミさんをカシマと呼んでいる。
不思議な関係ね。
ナミさんが一方的に好意を寄せてるのかしら?。
「ここの二階だ」
さっき通った裏通りにあるお店。
ドアを開けると、ドア鈴がなった。
食事よりお酒がメインみたいね。
棚に酒瓶が、ずらっと並んでる。
カウンター席とテーブル席があるけど、誰も座っていない。
「よお」
テオドールさんは、片手を上げて、店主らしき人物に挨拶する。
「おう」
店主もわたし達とそう変わらない年齢みたいね。
「珍しいな。一人じゃないなんて」
「店が潰れそうみたいだからな」
「そいつはありがたいねぇ」
わたし達は一番奥の丸いテーブル席に座る。
「好きなものを頼んでくれ。一杯目は俺がおごるよ。怖がらせたみたいだからな」
「別に怖くなんかなかったよ。そうですよね?ソニアさん」
「うん…まあ、わたし達は慣れてるから、いうほど怖くなかった」
それなりに怖かったんだけど、ナミさんはテオドールさんを気づかって言ってるんだし、話を合わせておこう。
「別にいいんだぜ。たいして高くないし」
「悪かったな安酒で」
店主がそういいながら、緑色の何かを出す。
「これサービスね。お金いらないから」
「どうも…」
テオドールさんが店主から耳打ちされてる。
「知らねえよ…」
「いいじゃねえかよ」
面倒くさそうに、ため息を吐くテオドールさん。
「たくっ…あんた達の名前を聞きたいとさ」
「わたしはソニア」
「ナミです」
「へえ」
「へえじゃないだろ。お前も名乗れよ」
「今言うって。俺マレクです。よろしく~」
そういいながらメニューを出す。
「何飲みます?」
「お酒はちょっと…」
「私も…」
「飲めないのか?」
「うん…私はね。ソニアさんは大丈夫ですよね」
「大丈夫だけど、今はやめとく」
町中で酔っぱらうのはマズイ。
何かあった時に対処できないから。
「ここじゃないほうがよかったか…」
「私達はいいから、テオ君は飲んでいいよ」
「ああ…」
「いつもやつでいいか?」
「ああ。一杯頼む」
マレクさんはカウンター裏へ。
わたしはさっき出された緑色の何かが気になっていた。
「ナミさん。これなに?」
「これはエダマメですよ」
「エダマメ…。あ、豆なのね」
「はい。こうやって…押し出して、中の豆を出して食べるんです」
「へえ」
一つ手に取り、教えてもらった通りに食べてみる。
「イケる!美味しいわ」
塩味で、豆のいい香り。そして、いい歯ごたえ。
「エダマメ食った事ないの?」
マレクさんがそういいながら、テオドールさんにグラスを出す。
「今日。初めて食べました」
「へえ。どこから来たの?」
「王国です」
「王国から?マジで?」
マレクさんは驚きつつ笑う。
「何しに?」
「お前、向こう行ってろ」
テオドールさんがマレクさんを押し返す。
「はいはい…わかったよ。俺、何か買ってくるから」
そう言って店を出て行ってしまった。
「いいんですか?」
「ああ、いいんだ。よくある」
「そうですか…」
テオドールさんが信用されてる証拠かしら?。
「で、何か用があってきたのか、観光か?」
「まあ色々…」
「観光ではない事は確かです」
わたし達がここにいるわけを話した。
「なるほど…。お前、魔法士になってたのか…」
「まだ全然…ベッキーの方が先行ってる」
「ベッキー?…あー、あいつか…」
テオドールさんが、眉間に皺を寄せる。
「覚えてる?」
「ああ、覚えてよ…勘違いしやがって」
「ふふっ。ベッキーは全然信じてくれなかったよね」
「何があったの?」
「木の実を取ってもらっただけなのにベッキーは、私がテオドール君からいじめられてるって勘違いして」
「その話はもういい」
まだ疑いが晴れてないらしい。
「王国にいるなら顔を合わす事はないからな」
彼は、迷惑な話だと言って、グラスに口をつける。
「テオ君は、今どうしてるの?」
「革職人やってる」
「そう。夢叶えたんだね」
「一応な」
テオドールさんは手に職をつけるのが目標で、ナミさんよりも先に村を出た。
手のひらが固い感じしたのは、そのせいかな?。
「ずっと都に?」
「ああ」
「ベッキーと来た事あるんだけど…」
「都は広い。相手の所在がわからなければ、会えないぜ」
「だよね」
「今回は、運が良かった」
「うん」
マレクさんが帰ってきた。
「はい、どうぞ」
彼がテーブルにお皿をおく。
お皿にはナッツやチーズ、ソーセージなどがのっていた。
「もしかして、わざわざ買いに行ってくれたんですか?」
「いや」
そう笑顔で言いながら、カウンターへ。
「私達のため、ですよね?」
「でしょうね」
「気にするな。よくあるって言ったろ」
「なるほど…」
この店では常識らしい。
「ここにはいつまでいるんだ?」
「いつまで…」
ナミさんは、わたしを見る。
「状況による」
「状況?」
「さっきも言ったけど、魔法研究所に用があるのよ」
「治癒魔法?だっけか?」
「うん。でも、連絡の取りようがないから…」
研究所の人に連絡が取れれば、あとはもう全て上手く行く。
「あそこの所長は、シンシア・レーヴって人だよな?」
「そう、そうだよ。テオ君、なんで知ってるの?知り合い?」
「いや、まさか」
「城内に出入りできるとか?」
「一度も入った事ねえよ」
「じゃあ、なんで知ってるの?」
テオドールさんは、お酒を一口飲む。
「あの人、孤児院と学校の責任者もやってないか?」
ナミさんは、何かを思い出しのか、口元をおさえる。
「孤児院…あっ!エレナ様は子どもの頃、レーヴ様の孤児院に引き取られたて…」
「いつかは忘れたが、革張りの椅子を修理してくれって注文が来てな。先輩と何度か、孤児院に出入りしたんだ」
そして、レーヴ様から直接報酬をいただいた。
「その時は、高名な魔法士だなんて知らなくて、後で知って驚いたよ。もらった報酬も提示額の倍を払ってくれたし…あ、すまん。話がずれたな」
ということは、そこの孤児院に行けば、レーヴ様に会える可能性が高い!。
わたしとナミさんは、立ち上がる。
「「それってどこ?」」
Copyrightc2020-橘 シン




