26-30
「はい。どうそ。トウフハンバーグよ」
トウフハンバーグテイショクが目の前に運ばれる。
見た目にはごく普通のハンバーグと大差ない。
強いて言えば、心なしかいつもより少し大きめに見える。
「これがトウフハンバーグ…」
ハンバーグは食べた事が何度かあるが、トウフを混ぜ込んだものは初めてだった。
「ゴハンは、三杯目まで無料だからね」
「はい」
なんて太っ腹なお店!。
今回は、しないけど。
昼間にあのホットケーキを食べいなかったら、してたかも?。
テイショクというスタイルが今分かった。
野菜が添えられた豆腐ハンバーグが乗ったお皿と、
それにゴハンとオミソシル。
それから小さな器三つに何かが入ってる。
「なるほど。これがテイショクなのね」
「そうです。今回は、トウフハンバーグですけど、焼き魚だったりお肉料理だったり、おかずが変わるんです」
「へえ」
面白いわ。
メインのおかすだけを変えるだけで、何パターンも種類が作れるのね
「この小さな器に入ってるのはなにかしら?」
「どれです?」
「これ?」
わたしは器も持ち上げる。
中には、白く半透明なものが入っていた。
「これは…」
ナミさんがハシで少し摘まんで、味見する。
「これダイコンですね。ダイコンをすりろしたものです」
「これダイコンなの?これだけを食べるの?」
「これは、トウフハンバーグにのせて食べるんじゃないでしょうか」
「へえ」
わたしもちょっと食べてみたけど、ダイコンの味がするだけ。
「他のは?」
「豆を煮たものと、アサヅケでしょうね」
「アサヅケ?」
「野菜を塩漬けしたのものです。塩漬けですけど、長時間漬けものじゃないので、塩辛くないはずです」
「そう」
他の器は、後にして早速豆腐ハンバーグをいただく。
ナミさんがダイコンおろしを豆腐ハンバーグにのせる。
彼女はわたしの視線に気づき、ニッコリと微笑む。
わたしも微笑みを返した。
ナミさん倣い、ダイコンおろしを豆腐ハンバーグにのせた。
豆腐ハンバーグにはすでに何かソースらしきものがかけられている。
茶色の透明感あるトロリとしたもの。
それをハシ先ですくって舐めてみる。
あ、これショウユだ。
ヤキトリにかけられていたのと似てる。あれほど濃くはない。
なるほど。なんとなく味が想像できてきた。
では…。
「いただきます」
トウフハンバーグを一口食べる。
「あ、美味しい…」
じゅわっと口にの中に広がる肉汁とソース。
豆腐とお肉が半々かしら?。
お肉だけのものより、あっさりしてて、ふわふわとした食感。
ソースとの相性もいい。
「ゴハンが進んじゃう」
「はい。合いますよね」
お昼に来てたら、おかわりしてた。確実に。
「ダイコンおろしも合いますよ」
「ほんと?」
これだけは全然想像がつかないのよね。
次の一口は、ダイコンおろしともに。
…いいじゃない!。
ダイコンおろしと一緒だと、さっぱりした味に。でも、トウフハンバーグの美味しさは変わらず、むしろ引き立ててくれる。
それにシャキシャキ感が面白い。
煮豆とアサヅケも美味しい。
アサヅケなんて塩に短時間つけただけなのに。
「美味し過ぎ…これで、いくらだっけ?」
「40ルグです」
「安すぎる。儲かるのかしら?」
「一応食べていけてるよ」
応対してくれた中年女性がお茶を出してくれる。
「ありがとうございます。本当に大丈夫なんですか?」
「大丈夫だよ」
そういいながら、笑顔で頷く。
「ゴハンのおかわりはいいかい?」
「はい。一杯で十分です」
と言ったが、豆腐ハンバーグは四分の一ほど残っていた。
「あの、やっぱりおかわりします」
「あいよ」
「一杯じゃなくて、半分くらいで」
「はい。半分ね。そちらさんは?」
「私はいいです」
「そう。じゃあすぐに持ってくるから」
中年女性は店奥の厨房へ。
我慢できずにおかわりしてしまった…。
「ナミさんはおかわりしなくてよかったの?」
「私もうお腹いっぱいです」
「そう」
わたしはあきらかに食べ過ぎ。
真面目な話。ほんとに太っちゃうわ。
「おかみさん。これ、勘定ね」
「はーい」
男性客の一部が店を出ていく。
わたしは気にしないふりをしつつ、男性客達を警戒する。
見た目は普通。賊っぽい感じはしない。
中年女性と仲が良さそうだし。
常連客なのだろう。警戒する必要はないか。
「はい。おかわりね」
「ありがとうございます。さっき出ていった人達ってこの辺のにいる人達ですか?」
「そうだよ。あ、何?好みの男がいた?」
「いや、そういうじゃないです」
「そう?いい男がいたら、捕まえておかないと後悔するよ」
「あはは…」
笑って誤魔化す。
わたしはもう捕まえてあるから大丈夫。
大丈夫よね?…今更、心配になってきた。
ハンスは、わたしの事を呆れてないかしら。
テイショクを食べ終えた頃にはすっかり日が落ち、夜になっていた。
「そろそろ行きましょうか?」
「はい」
代金を支払って店を出る。
「ありがとうございました」
「美味しかったです」
「どうもね。また来て頂戴」
おかみさんは笑顔で見送ってくれた。
「また来てだって」
「通っちゃいますか?」
「そうしようかな?」
他のにも食べたい料理がたくさんあったしね。
宿屋へと足を向ける。
が、後ろからの気配に気づく。
男性が一人。
私たちをつけてきているようだ。
この辺はうす暗がりで、後ろの人物が何者なのか、表情までは読み取れない。
「誰かついて来てる」
「え?」
「見ないで」
わたしは反射的にナミさんの腕を掴む。
「勘違いじゃ…」
「かもね。裏通りを行く。それでわかるから」
「わかりました」
夜になったばかりで人が多いから巻くことはできるかもしれないけど、逆に人混みにまぎれて追ってくる可能性もある。
あえて、人混みから外れて、相手を確認できるほうが対処はしやすい。
脇道に入って裏通りを、宿屋方向進む。
「まだ、ついてくるわ」
「どうしましょうか…あまり大事には…」
「ええ」
わたし一人なら、今すぐにでも脅しにかかるんだけど、今回はナミさんの安全が最優先。
彼女を危険な目に遭わせるわけにはいかない。
宿屋まであと少し。
このままなら宿屋までついて来そうね。
宿屋や周囲に迷惑はかけたくないし、相手の真意を聞くか。
「あいつと話してみる」
「話す…大丈夫でしょうか?。話に応じてくれる人なら、いいんですけど」
「向こうが実力行使くるなら、こっちも実力で追い返す」
「…わかりました」
薄暗い裏通りから明るい表通りに素早く出て、建物の角で待ち伏せする。
わたしは、ナミさんをかばうように、自分の後ろに立たせた。
そして、ショートソードを抜いて、相手から見えないように、おしりのあたりに隠し持つ。
相手は見えないが、足音が近づいてくるのが分かった。
もう少し…ここ!。
ナミさんはそのままで、わたしだけが角から出て、剣を構える。
「あなた!わたし達になんか用?」
「…」
わたしより背が高い男性。
短髪。鋭い目つき。そこそこの体格。
「なんとか言いなさいよ!」
「用があるのは、おまえじゃない」
「わたしの連れ?」
ナミさんは戸惑ってる表情。
「どういう用件なわけ?」
「だから、お前じゃないって」
「わたしを通せばいいでしょ?何か不都合がある?」
男は舌打ちをした。
「めんどくせぇな」
ほんと、面倒くさいわ。
「そう思うのなら、さっさと立ち去りなさい。それとも仲間を待ってるのかしら?」
「仲間?」
「女二人なら楽に襲えると思ったんでしょ?そう簡単にはいかないわよ。後悔させてあげる」
「なんなんだよ…」
男はため息をはく。
「怪我したくなかったら、立ち去りなさい!」
わたしは一歩前へ出た。
「わかった!わかったから…」
男は焦り、両手をあげる。
「お前の連れが、知り合いによく似ていたから…」
「似てる?」
「ああ」
似てるからって後つける?。
「似てるって人の…」
「嘘…テオ君?」
え?。
ナミさんが、両手で口を隠し、驚きの表情で男を見ていた。
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