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ブレイバーズ・メモリー(3)   作者: 橘 シン


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26-24


 夕食に満足した翌日。

 

 屋台で朝食を買い、食べながらシファーレンの国立魔法研究所を目指す。


 研究所の本体は城内にあり、入れないのは確実。


 わたし達が行こうとしてるのは、城外の支部だ。


「郊外にあるんです」

「中心部から北にあるのよね?」

「はい」


 歩いて行けば半日かかるらしい。


「昼食を買っておいたほうがいいかしら」

「行く途中に、何かしらありましたから、大丈夫だと思います」

「そう」


 わたしは初めて支部に行くけど、ナミさんは二回目なる。


「いい印象は、ないんですよ…」

「門前払いじゃ、仕方がない」

「はい…」

「でも、今度は王国の研究所の紹介状があるし、大丈夫じゃない?」

「だといいんですけど…」


 ナミさんは楽観視していないようだった。


 

 昼食は小さな食事処に行く。

 

 ウドンと言うものを食べる。

 

 ショウユでつくったスープに浸された状態で、出てくる。

 

 店の奥のカウンターで受け取ったんだけど、店員から何か乗せるかい?と聞かれる。


 なんの事かわからなかったわたし達は断り空いてる席に座った。

 

 パスタよりも歯ごたえのある食感だけど、色は真っ白だった。


「随分シンプルなものね」

「お好みで具を追加するみたいですね…」

「へえ」


 失礼だけど、他のお客さんの器を見る。

 

 確かに、何かがウドンに乗っていた。


「あんた達、この店始めてか?」

「はい」

 

 近くにいた男性客が話かけてきた。


「そのままでもうまいけど、何か乗せたほうが飽きないぜ」

「そうですか…」


 何か乗せるのが普通らしい。

 

「ナミさん、わかる?」

「わかりません。実家でたまにウドン作りますけど、こんな感じですよ」


 と、話す。  


 男性は常連のようだし、聞いたほうが早い。


「おすすめってあります?」

「おすすめか…」

 

 男性は少し考えたあと、ちょっと来な、と言って店の奥にあるカウンターへ。

 

 カウンターには整然と何か並んでいる。これか…。


 別の料理だろうと思って、横目で見つつ離れたのだった。



「女将さーん」

「はーい」

 

 男性がカウンターの奥に向かって叫ぶ。


 バンダナを巻いた中年女性が出てきた。


 さっきの店員だった。


「この二人、ここ初めてなんだってよ」

「そうだったの」

「はい」

「おすすめの具あるかって」

「おすすめね…イカかな。豊漁で安いから」

「ああ。いいんじゃねえかな」


 イカは昨日食べたけど、それっぽいが見当たらない。


 ていうか、同じような色合いのものが並んでいる。


 淡い黄色ものが。 


 テンプラというものらしい。


「じゃあそれで」

「あいよ」

 

 女将さんがカウンターからイカを取り、わたしとナミさんの器に入れる。


「後はオアゲとちょっと割高になるけど、エビね」

「ああ、いいねえ」

「それも」

「はい、ありかとね」


 オアゲとエビが器に入れられた。


「エビをこちらの方にも」

「おれに?」

「はい。教えてくださったので」

「いいのかい?礼をするほどでもないよ。エビ一本の価値もない」

「ひでえ言い方だなぁ…」

 

 男性が肩を落とし、女将さんが笑う。


「まあいいさ。はい」

「ありがてえけど複雑だぜ…」

「あんたも礼を言いなさいよ」

「わかってるって。ありがとよ。恩に着る」


 男性はなんども頭を下げてから席へ戻って行った。


 追加の代金を支払って、わたし達も席に戻る。


 

「え、美味しい」

「サクサクしてますね」

「うん」


 イカに何かつけて、油で揚げたもの。


「私、テンプラは知っていたんですけど、初め食べました」


 衣をつけて揚げるのが、テンプラというらしい。

 

「ナミさんの実家じゃ作った事ないのね」

「油を多く使うはずなので、食べた事ないです。そこそこ高級品かもしれませんよ」

「へえ」


 衣がスープを吸ってサクサク感はなくなっちゃうんだけど、スープを吸った衣も美味しい。


「エビも美味しいし、オアゲも濃い味付けになっていて、これも美味しい」

「ソニアさん、ため息ばかりですよ」

「だって、美味しいんだもん」


 なんで王国にないのかしら。

 

 絶対、流行るわ。間違いない。



「じゃあ俺、先行くから。ありがとさん」

「こちらこそ、ありがとうございまた」


 色々教えてくれた男性客が去っていった。


 

「はあー、美味しかった…」

 

 スープまで飲んじゃった。


 冗談ではなく、ほんとに太って帰ってしまうかもしれない。


「ごちそうさまでした~」

「はーい。また着てね」


 店を出て、研究所支部へ。



 支部は、大通りから脇道に入って、ずっと奥。

 

 袋小路の行き止まりが、支部の入口だった。


「随分、人気(ひとけ)のない所にあるのね」

「そうなんですよ。変ですよね」

「意味がわからないわ。魔法研究所って国立でしょ?」

「そうです」


 支部だから?。


 そもそも支部って何をしてるのか。


 

 頑丈そうなドア。


 意を決しドアを叩く。


「すみません!」


 返事は返ってこない。


「留守…じゃないわよね?」

「それはないと思いますけど…」


 居留守使われた?。


「すみません!!」


 ドアを強めに叩いた。


すると、ドアの一部が開く。覗き窓だ。


「なんだ?」


 厳しい眼光。それに野太い声。


「あっ…わ、私達、王国から来ました。シンシア・レーヴ様に、お、お目通り願いたく…」

「下賤の者に道士様が合うわけないだろ」


 そう言い放ち、覗き窓をピシャリと閉める。

 

「ちょっと、最後まで話聞きなさいよ!」


 なんなのよ…。


「話だけでも聞いてください!」


 ドアを思いっきり叩く。


「お願いします!」

「うるさいんだよ!」

「話だけでいいんです。お時間は取らせませんので、お願いします」

「…わかったよ。手短に話せ」

「はい」


 ナミさんは、王国から治癒魔法を探しに来た事。

 自分が、カレン・カシマのひ孫である事。

 治癒魔法を使える事。

 カレン氏が書いた研究書を探している事。

 王国の魔法研究所の紹介状ある事。


 を早口で話した。

 

「そういうわけでして、レーヴ様かどなたかわかる方に話だけでも聞いてもらえませんでしょうか?…」

「治癒魔法とかいったな?研究所にそれなりに長くいるが、そんな魔法聞いた事はない」

「本当です。実際に…」

「そうやって道士様にお目通りしようをする輩が多いんだ。国王陛下が変わってレーヴ様は、研究所の所長になられた。所長なったら、国政の事も相談される。おまえら如きにいちいち付き合ってられないんだよ。さっさと帰れ!」


 覗き窓が閉めらてしまう。



「ふざけんじゃないわよ!」

「ソニアさん…」

「ここ来るまで、どんだけ苦労したと思ってのわけ?」

「もういいですって…」


 ナミさんがわたしを制止する。


 わたしは、どうしても納得いかなかった。


「海賊にもあって死にかけもしたのに、この仕打ちはないでしょ!」

「ソニアさん!もうやめたほうがいいです」

「下っ端のじゃなくて、ここの責任者を出しなさい!責任者を」

「私が責任者だ!」


 ドアの向こうから怒鳴り声。



「そこの二人!いい加減にしろ!」


 今度は後ろから声。

 

 振り向くと革鎧と剣を装備した集団が迫ってくる。


 支部を守っている兵士か。


「抵抗するようなら、拘束しても構わん」

「はあ!?拘束?」

「二度と近づけるな!」

「はっ!了解であります!」


 もうなんなの…。


 何もしていないのに、なんで拘束されないとけいけないのよ!。



「さっさと立ち去れ!言うことを聞かないなら、牢屋行きだぞ!」

「なんで牢屋に入らないといけないわけ?こっちの事情も聞くべきでしょ!」

「ソニアさん。ここは一旦、引きましょう」

「でも…」


 突然の訪問だったのは否定しようもないが、こちらの言い分も聞かず、この仕打ちなない。


 わたしは腰のショートソードに手をかけた。


「ダメです!剣なんか抜いたら、問答無用で牢屋行きですよ」


 ナミさんは、わたしの手を押さえて後ろから小声で話す。


「むしろ牢屋入ったほうが、研究所に近づけるかも」

「いやいや、逆に遠ざかりますよ。本当に話を聞かれなくなっちゃいます」


 確かにそう。


 わたしは剣から手を離す。


「わかったわ…」

「すみません。失礼しました…」


 わたし達は兵士達から睨まれながら、支部前を立ち去った。




Copyrightc2020-橘  シン


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