表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブレイバーズ・メモリー(3)   作者: 橘 シン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/76

26-17


「ごめんなさい。さっき見たんだけど、文房具ばかりだったから…」

「いえ、いいんです。もう一回探して見ましょう」

「うん」


 抽斗の深さは浅いものばかりで、本を入れるような所ではない。


「メモみたいのはたくさんあるんだけど…」

「ありますね。でも魔法に関するものじゃない」

「うん。下書きや試し書きばかりよね」


 メモを一枚一枚見ながら机の上に置いていく。


「何か手がかりを…」


 ナミさんは、多少焦りがちにメモを見ていた。


 しかし…。


「結局、なしか…」

「はあ…」

 

 大きくため息を吐くナミさん。


 何も見つからないまま、机の抽斗は空になってしまう。


 

 カレンさんは何故、ナミさんを怒ったのか?。


 そんな疑問だけが残った。


 

「あれ?」


 わたしは、抽斗を元に戻そうしたが、中々元に戻らなくない。


「何か引っかかってません?」

「多分、そうだと思うんだけど…」


 二人で抽斗を引いたり押したり。


「そのままでいいって。あとはおれがやっとくから」

「うん…」


 そのままでいいっと言われれも、中途半端ではなんか気持ち悪い。


「もう少し強めに」

「はい。せーの!」


 二人で強めに押し込む。


 抽斗が収まった瞬間、何かコトリと落ちた。


「何か落ちませんでした?」

「うん。この下よ」


 机の下を覗く。


「これですね」

「きっとそれよ。さっきは見かけなかった」


 ナミさんが拾ったそれは、小さな木箱だった。


 手のひらよりも少し大きく、横に長い。.


 高さは指二本程度。


 それから紐で縛られている。


「何これ?おばあちゃん。知ってる?」

「知らないねぇ」

「お父さんは?」

「わからん」


 誰も知らない箱。


 


 私は紐を解き、箱をそっと開ける。


 箱の中には、水晶の原石数個と…。


「封筒?」

「ナミさん宛よ」

「え?」


 真ん中ではなく、左上の角に私の名前が小さく書かれていた。

  

「私宛?」


 カレンおばあちゃんから私への手紙。


 箱から封筒を取り出す。 


 なんでだろう。

 

 手紙を読むのが怖い。


 見えない所に隠すようにしてあったから。


「ナミさん?大丈夫?」

「ソニアさん…私、なんか怖いです」

「怖い?」

「わからないんですけど…カレンおばあちゃんが私宛にって…」


 私はちょっと手が震えていた。


 ソニアさんは、宝箱の蓋を締めて、埃を払う。


「落ち着いて。とりあえずここに」

「はい」


 私は宝箱に座る。


 ソニアさんも隣に座った。



「私は、家に戻ってるよ。あなたもだよ」

「おれも?気になるんだけど…」

「いいから来なさい」

「はい…」


 おばあさまとおじさまが物置を出てしまう。


「ソニアさんは、ここにいてください」

「もちろん、そばにいるわ。わたしだけでいい?おばあさまを呼び戻す?」

「いえ、大丈夫です」

 

 

 私は、封筒から手紙を取り出す。


「ナミさんにとって、重要な内容で間違いないと思う」

「はい…」

「ナミさんに優しかったカレンさんが残してくれた手紙。怖いものじゃないわ、きっと」

「そうでしょうか?…」

「あなたを思って書いたものだと思うから」

 

 ソニアさんは優しくそう話す。


「当たり前だけど、ナミさんには読まないって選択肢もある」

「読みます。気になるし…」


 先延ばしにする意味はない。


 いつかは読まないといけないんだから。


 私は意を決し手紙を開く。




 ナミへ。


 この手紙を読む時、あなたはいくつになっていることでしょう。


 十代か、年頃の女性なった頃か…もしかしたら、読まれる事がないかもしれません。


 むしろ、その方が良いでしょう。


 

 ここに書く内容は事実です。その事があなたを困惑させるでしょう。


 しかし、それはあなたを縛るものではありません。


 事実を知った上で、どうするかはあなたが決めなさい。 

 

 あなたの生きる道は、あなたが決めるもの。


 あなたが決めた事を否定する権利は誰にもありません。私でさえもです。


 

 まずは結論から言いましょう。


 ナミ。あなたは、魔法が使えます。  

 


「魔法が使えます…」

「それは、すでにわかってて…」

「そうなんですけど…私が魔法が使えると知ったのは数年前です。でも、カレンおばあちゃんはそれよりもずっと前に知っていた…」

「あ…」

 

 カレンおばあちゃんは、私が魔法を使える事を隠していた?。



 魔法が使えると知ったのは、あなたが生まれた時です。

 

 あなたが生まれた時、体が小さく、泣かなかったので非常に心配しました。


 私が呼ばれ、あなたを抱き上げると、大声で泣き出しました。

 

 周囲が安心する中、私はあなたの中に魔法力を感じたのです。


 あなたが泣き出したのは、魔法士同士の特異なものよるものでしょう。


 それはさておき。


 その魔法力は、私と同じ魔法力だったのです。



「治癒魔法が使える事もわかったんだ…」 

「そこまで分かっていてなぜ、カレンさんは教えてくれなかったのかしら?」 

「そうですよね」


 

 まさか、自分のひ孫に治癒魔法が発現する。


 私は、運命のいたずらに呪ったのです。


 一般的な魔法士ならば、こんなに悩む事はなかったでしょう。


 むしろ、喜ぶべき事。


 しかし、治癒魔法は特殊なのです。


 あなたが治癒魔法を使えると知り、訓練を始めても思ったように成果は出ないはずです。


 師となるべき者がいないのですから。


 私は老い先短い。


 他に師となる者はいません。


 誰も知らない治癒魔法をどう習えばいいのか迷うでしょう。



「カレンおばあちゃん。私、治癒魔法使えるよ。まだ初期のものだけど。なんとなく分かってきたんだ」


 カレンおばあちゃんから見たら、笑っちゃう程度のものかもしれないけど。



 治癒魔法は体系に謎な部分が多く、分かっているのは極一部です。


 私が研究して概要のみが判明しました。


 この程度の事しか分かっていないのです。


 この現状で、あなたが治癒魔法士として生きていく事は、茨の道となりましょう。


 ナミ。あなたには、私と同じ苦労はさせたくない。 

 

 私は魔法士としても、母としても中途半端な者に終わってしまった。

 

 若かった私は、何かに取り憑かれたように研究に没頭し、娘の成長を見ず、研究に明け暮れ、その成果はたった本一冊。


 私は何をしてきたのか。


 人生を無駄にしてまでやるべき研究だったのか。


 後悔だけが残ったのです。


 娘には謝っても許してくれないでしょう。


 

「カレンさん一人で研究していたみたいね」

「はい。いつどこで治癒魔法をしったのかわかりませんが、相当苦労したようです」

「後悔してる」

「私は無駄ではなかったと思います。カレンおばあちゃんが研究してくれたから、私が治癒魔法を使えてるんですから」 

「わたしも、無駄じゃないって思う。素晴らしい魔法よ」


 カレンおばあちゃんが後悔してしまった理由もよくわかる。


 おばあちゃんが結婚するまで帰って来なかったって言った。

 

 そのせいで、仲違いしたみたいだし。

 

 

 ナミには平凡に生きてほしい。


 苦労なんかせず、いい人を見つけて、恋をして、結婚して、子供を授かる。


 子に寄り添い、導き、育てていく。


 普通のごく普通の、人生を歩んでほしいと思う。


 そう思う反面、治癒魔法の研究を継いでほしいとも思っています。


 治癒魔法という存在を未来に残したい。


 身勝手過ぎる事だと自分が、よくわかっています。


 すでに書きましたが、あなたの道はあなたが決めるものです。


 否定する権利は誰にもありません。 


 あなたに判断を委ねてしまうかもしれない事を許してください。


 

「…」


 私は手紙を封筒に戻す。


「カレンおばあちゃんが怒っていた理由がわかりました」

「うん」

「私はカレンおばあちゃんの気持ちを知る事ができたので、手紙が見つかってよかったと思います」


 知らずにいたほうが良かったのかもしれない。


 でも、知る事で私の気持ちが決まりました。


「ソニアさん。都へ行きましょう」

「ええ」

「お付き合いしていただけますか?」

「当たり前でしょ。来るなって言ってもついていく」

「ありがとうございます」


 私達は固い握手をした。




Copyrightc2020-橘 シン


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ