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ブレイバーズ・メモリー(3)   作者: 橘 シン


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26-16


「こんなに不用品があるとは思いませんでした…」


 ナミさんがそう呟く。


「元々カレンさん部屋とはいえ、今現在は物置だからね」

「はい…」


 農具はいいとして、一人では持ち上げられないチェストなどは厄介だ。


「あ、もう…また汚れちゃった…」


 ナミさんは袖についた誇りを払い落とす。


 

 作業をするにあたって、エプロンを借りた。


 エプロンで覆われる所は良いとして、それ以外は汚れてしまう。


「それは覚悟なさい」


 おばさまは笑っていた。



 使い古しのスカーフを借り、頭と口、鼻を覆う。


「ベッキーが見たら、大笑いするだろうなぁ」

「首から上は盗賊みたいだものね」


 そうしなければ、埃まみれになってしまう。


 

 大きな物置ではないが、細々としてものも多く、中々奥に行けない。


「窓を破ってもいいぞ」

「窓?」


 入口から見て、左手に南向きの窓があるそうだ。

 

 今は板で塞がれている。


「破っちゃっていいんですか?」

「ああ。破っていい」

 

 おじさまがそう言う。


「空いた窓からどんどん放り投げろ」


 そう言うけど…。


「どうする?」

「お父さんが、いいって言ってるなら…その方が早そうですし」


 という事で、窓を破る事になる。



「窓には、近づかないでくださいね!」

「ああ、大丈夫だ。その斧、重いからな。気を付けてくれよ.」

「はい。任せてください。ナミさんも一旦外に」

「はい」


 わたしは斧を振り上げ、窓をぶち破った。


「はああっ!」

 

 すごい音ともに板が割れる。


「すげえな…ソニアさん…」

「え?そうですか?」

「ああ、なんか手慣れてる感じがする」

「慣れてはいませんけど…シュナイツは体力勝負みたいな所なんで」

「へえ…」


 

 空いた窓から不用品を、外に放り投げる。


「えい!」

「よっと!」


 窓は比較的大きめ。


 南向きなので、物置部屋の中が明るくなる。


「あれ?ちょっと楽しくなってきた?」

「そうかも…ふふ」


 二人で、物を投げまくる。


 そんな事を昼前までやっていた。



「だいぶ広くなりましたね」

「ええ」


 その分、外が散らかってけど。


 目的である本棚と机が確認できるようになった。


「これでいいんじゃない?」

「はい。一旦、休憩しましょう」

「うん。おなかが空いてきちゃった」

「わたしもです」


 物置を出るとたくさん人が集まっていた。


「何事?」

「さあ?」


 注目されてるのはわたし達。


「ナミ。お前の事が村中に伝わったらしい」

「え?」


 ベッキーのお父さんとおばさまが、ナミさんの事を話したらしい。


「見に来るほどの事?」

「魔法で怪我を治したって聞いたら来るだろう?」

「治したっていっても、あれと応急的な止血しかできないんだよ。変に期待されても困る…」 

「確かにそうだな。追い返して来る」

「お父さん、優しくね」

「ああ。わかってるよ」


 おじさまが村人の方へ向かう。


「わたしも行ってくる。ナミさんは家に入っていて」 

「ソニアさんまで行く必要ないですよ」

「事情を話さないで、ただ帰れって言っても納得しないかもしれない」

「でも…」

「大丈夫。任せて」


 ナミさんを家に向かわせ、わたしは村人の方へ。

 

 とりあえずは、納得してもらえた。


 病気を治してもらえると勘違いした者がて…やはりというか…。

 残念そうに帰っていったが、何もできないのは事実。


 納得してもらうしかなかった。



「病気が治ったなんて言ってないのに…」

「噂っては、尾ひれがつくもなんだよ」


 そういう事なんだろう。

 

 悪い噂ではないのが、幸いかな。



「期待されるほどの事は、まだ全然できてないんだけど…」

「わかってる。ナミさんはこれからが、勝負なんだから」

「はい」


 

 昼食後、捜索の再開。


 まずは本棚。


 並んでいる本は、医学や薬に関するものだけだった。


「魔法に関する本がない」

「机にもないわ」


 さすがに、これは予想外だった。


 魔法に関するがあるものと考えていたから。


 一冊もないとは…。


「宝箱はどう?」

「まだ見てないです」


 ナミさんは宝箱の上にあるものをどかし、中を見る。


「どう?」

「それらしい本はないです…」

「そう…」


 彼女はしゃがんで宝箱の中を見つめたまま動かない。


 ため息を吐くナミさん。


 彼女を見てると、心が折れそうなる。



「…」


 おじさまが戸口から、ナミさんを見ていた。


 わたしと目が合うと、気まずそうに苦笑いを浮べる。



「地下室があったりしません?」

「いや、ないよ」


 おじさまは首を横に振る。



「なあ、ナミ…もう一回探して見ようぜ。おれも手伝うから」

「…」


 ナミさんは無言で立ち上がった。


 そして、宝箱を蹴る。


「お、おい…」

「ナミさん?」



「カレンおばあちゃんのバカ!」


 ナミさんが珍しく悪態をつく。


「大事なものはちゃんと残しておいてよ!」


 そう言いたくなる気持ちはわかる。


「落ち着いて、ナミさん」

「そうだぞ。蹴ったって出てこない」

「わかってる!」

「だったら…」

「…」


 彼女は目頭をおさえる。


「もう…」

「ナミさん」


 わたしは、彼女の肩に手をのせる。が、かけるべき言葉がみつからない。

 


「見つかったかい?」


 おばあさまが杖をつきながら部屋に入ってきた。


「久しぶりだねぇ。この部屋に入るのは」

「おばあちゃん…」

「どうしたの?」

「何もなかった…」

「そう」


 おばあさまは、ナミさんの背中を優しく擦る。


「何もないはずはないと、思うんだけどね」


 そう。何もないはずはない。



「ここで研究をしていたんですよね?」

「私は見ていなくてね」

「え?見ていない?」

「そもそも、ここには入らないようにと、言われて…入ったのは、片手で数えられるほどだよ」

「そうなんですか」


 見てはいけないものはないように見えるけど。



「あまり自分の事を話す人じゃなかった。私も興味がなかったし。魔法士だなんて一言も…」


 カレンさんは、娘であるおばあさまを身ごもった直後、この村に夫ともに都から来たらしい。


 ということは研究所を辞めて、ここに来た?。


「私を生んですぐに都の戻った。私と父を置き去りにしてね」


 そう話すおばあさまの眉間にシワがよっている。


「私が結婚するまで、一度も帰って来なかった。手紙のやり取りはあったけど…」


 親子仲は良くなかったようだ。


 まあ、そうだろう。


 言い方は悪いが、娘を放ったらかして、魔法の研究していたのだから。


「父は、重要な研究しているとわかったいたのでしょうね。母さんを悪く言うなと…でも、私は許せなくてね。父の大変さを知っていたから」


 カレンさんは、娘の結婚を機に、村に戻り今に至る。


「暗い話になってごめんね」

「いえ、別に…」


 カレンさんにとって、治癒魔法は家族を犠牲してまで研究する価値があるものだったという事だろう。



「こっちに来ても、机で何かを書いていたけどね」

「机にはそれらしいものは何も…」

「そう」

 

 

 ナミさんは黙って、おばあさまの話を聞いていた。


「そういえば、ナミは懐いていたね」

「うん。家族が畑仕事行ってる時は、ずっとカレンおばあちゃんのそばにいた」

「そうだったね」

「童話を聞かせてくたり、編み物を教えてくたり」


 彼女は、部屋を見回しながら、懐かしそうに話す。


「カレンおばあちゃんといるのは優しかったけど、一度怒られた事があったなぁ」

「怒られた?」

「はい。机の抽斗を開けようしただけなんですけど…」

「引き出し?…」 


 抽斗は見たが、ペンやインク、白紙だけだったような。


「大事な物が入っていたのかもね」


 大事な物…。


 わたしとナミさんは、視線を交わす。そして、机を探し始めた




Copyrightc2020-橘 シン


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