26-15
「終わったよ」
「ありがとう…」
ナミさんは立ち上がる。
「これは、あくまで応急処置だかね。無理したら、傷が元に戻るかもしれない」
「ああ、わかったよ」
彼女はおじさまの顔を見ない。
「私、もう寝る。おやすみなさい」
「うん…」
ナミさんは屋根裏へと上がって行った。
「夢でも見てるのか、おれは?」
「そんなわけないでしょ、って言いたいけど…」
おじさまもおばさまも、今起きた事に頭がついていっていない。
「すげえじゃねえか、ナミちゃん」
「ああ、そうだな…」
おじさまは神妙な顔つきだ。
「今、ナミさんが使った魔法は、治癒魔法としては初期ものだそうです」
「初期ってことは、まだ上のすごいのがあるのか?」
「はい。あると信じて、わたし達は来たのです」
ここで、カレン・カシマ氏の研究書や治癒魔法に関する手掛かりがなければ、都に行く事を伝えた。
「そうか。ばあちゃんが魔法士だったてのが信じられないんだが…」
「状況証拠から、魔法士であることは確実だと思っています。わたし達は」
違ったら、ここまで来た意味がない。
「明日、カレン・カシマさんの部屋だったという物置を見せてください」
「ああ。自由に見てくれ。おれも手伝うよ」
「あなたは、休んでいなさい」
おばさまが嗜める。
「何もするなって?」
「ナミと約束したでしょ」
「ああ…はい…」
おじさまは不満げだ。
大怪我ではないが、大事を取って休んでもらった方がいいだろう。
わたしも屋根裏に行こうしたら、止められた。
「ソニアさん」
「はい?」
「王国じゃ、さっきのみたいな魔法を使う人がたくさんいるのか?」
「いいえ。今現在、治癒魔法を使えるのは、ナミさんだけです」
「ナミだけ?…本当に?」
「はい。治癒魔法に関しては、研究者が極僅かで、カレンさんが最後の研究者ではないかと」
「そうか…」
おじさまは事の重大さがわかってきたようだった。
「治癒魔法が復活し、研究されて広まれば、人々にとって有益なものになるではないかと思います」
「もちろんだ。有益すぎる」
「なら、ナミちゃんを引き止めなんてことはしちゃだめだな」
ベッキーさんお父さんがおじさまの肩を叩く。
「どうやったら、ナミちゃんを引き止めるられるかって相談は、聞かなった事にするぜ?」
「うん…すまん」
「いいって。じゃあな」
ベッキーさんのお父さんは帰って行った。
「明日は忙しくなりそうだねぇ」
「ですね。さあ、明日に備えて寝ましょう。ね?ソニアさん」
「はい。では、お先に。おやすみなさい」
「おやすみ」
「おい。おれはどうすればいいんだよ」
「はあ?」
「ベッドまで肩貸してくれ」
「知らないわよ。片足で飛んで行けいいでしょ」
「え…」
「ナミさん」
「ソニアさん…」
「大丈夫?」
「ええ…まあ」
ベッド脇に座っていた隣にソニアさんが座る。
「おじさまの怪我、大した事なくてよかったわ」
「はい」
怪我自体は、自業自得。
父を庇う必要は全くない。
「治癒魔法の事、現状について話してきた。驚いていたし、事の重大さがわかったみたい」
「遅いです。今なって…私の話、全然聞いてなかったって事ですよね」
「まあ、そう言わずに」
ソニアさんは、悪態をつく私の肩に腕を回す。
「あなたの事を大事に思ってる証拠よ」
「それは、わかりますけど…」
「わかっているなら、もう悪く言うのやめましょ。わだかまりがあるまま、別れるのは嫌じゃない?」
「…」
わだかまりか…。
ベッキーがそういう状態で、おじさんと別れた。
私もなかったわけじゃないけど…。
喧嘩別れは、やっぱり嫌だ。
「ソニアさんは、大人ですね」
「そんな事…」
「私なんかより、家族をわかってる」
「わたってるんじゃなくて、羨ましいの。わたしにはできない事だから」
そうだった…ソニアさんには…。
「ごめんなさい。私、ソニアさんの事、考えずに…」
「いいのよ」
「でも!…」
もう私最低…。
「さあ寝ましょ」
「はい」
ソニアさんは、床に毛布を重ねてシーツを敷いた寝床。
そこに寝そべった。
「ランプ消します」
「うん」
ランプを消すと真っ暗。
子供の頃の話。
屋根裏を自分の部屋にしていいと言われた時、すごく嬉しかった。けど、夜は真っ暗になるから怖くて、嫌だった。
ベッキーは一人で寝ていたから、私も一人で寝ないと恥ずかしいよ、と言われて…。
お父さんが、私が慣れるまで一緒に寝てくれていたっけ。
同じベッドではなく、今ソニアさんが寝てる同じ場所に。
「ソニアさん」
「なに?」
「仲直りできると思いますか?」
「大丈夫よ。おじさまは、ナミさんの事好きだから、大事だから引き止めようとしただけ」
「はい」
「さっき、ナミさんが重要な使命を背負っているってわかったから、今度は応援してくれるはず…はずじゃなくて絶対」
ソニアさんは確信があるかのように話す。
「あなたを引き止める事はしない。また別れてしまうのは辛いでしょうけど…」
「はい…」
私もできる事はなら、ここにいたい。
「おじさまの応援に応える」
「それが、私の仕事」
「そうね」
頑張ろう。
何としても成果を持ち帰るんだ。
翌日。
お父さんはすでにテーブルについていた。
「おはようございます」
「やあ。おはよう」
ソニアさんが先にお父さんに話しかける。
「眠れたかな?」
「はい、もちろん」
二人は普通に会話している。
私も挨拶をしようと思っていたが、声が出ない。
お父さんも私に気づいているが、周りに視線を走らせている。
お互いにタイミングを計りかねていた。
台所からお母さんが出てきたので、台所へ向かおうとしたんだけど…。
「ソニアさん。手伝ってくれる?」
「はい」
お母さんがソニアさんを連れて行ってしまった。
その時、お母さんが私に意味深に微笑む。
お父さんと話せって事だよね。
わかってるよ…。
私は大きく息を吸う。
「お父さん、おはよう」
「おはよう」
お父さんの前が、私のいつもの席。そこに座る.
「足の怪我、どう?」
「大丈夫た。ちょっと痛むが、血は出てないから」
「そう」
悪化していないなら大丈夫だろう。
「お前のおかげだよ。ありがとう…」
「うん…小さな怪我だったし」
「それでもさ」
後で確認させてもらった。
赤く傷跡が残っている程度で、確かに血は出ていない。
食事中の会話は、普通にできていたと思う。多分。
ソニアさんが間を取り持ってくれたのが、大きいかも。
彼女がいなかったら、もっとぎこちない会話だった。
朝食後、さっそく物置(旧カレンおばあちゃんの部屋)を捜索する。
物置は庭を挟んで向かいにある。
「ここね」
「はい」
古くなっており、軒先には蜘蛛の巣もはっている。
屋根瓦もいくつか落ちていた。
「こんなにボロボロだった?」
「人が住んでいないと、早く痛むものなんだよ」
おばあちゃんがそう話す。
「始めようか?」
「はい」
私は、ドアノブを掴み引くが、動かない。
「あれ?動かないんだけど…」
「そのドア、歪んでるみたいでな。ちょっと持ち上げて引いてみろ」
「うん」
お父さんの言う通り持ち上げて引くと…開いた。
中には農具や壊れた椅子、家具などが雑多に置かれていた。
「うわ…」
「あらら…」
足の踏み場もない。
「いらないなら薪すればいいのに…」
「直せば使えるかなって」
「今までここにあるって事は、直す気がないって事でしょ?」
「いや…うん、まあ…あはは…」
物を大事するのはいいんだけど…単なる荷物になってら意味がない。
「カレンさんが使っていたものってどれかしら?」
「一番奥です。あそこ、本棚が見えません?」
「あー、あれね」
「あの隣に机があったはずなんです」
私は記憶をたよりに、部屋を創造する。
「私用品が入っていた木箱があったと思います」
「木箱…それらしいものは見えてる所にはないわ」
「それも多分一番奥かな…」
木箱の事で思い出した事がある。
カレンおばあちゃんは木箱の事を、宝箱って言っていた。
私は、金銀財宝があると思って開けたんだけど…。
「何が入っていたの?」
「わかりません。金銀財宝でない事は確かです」
金銀財宝だったら喜んでいたし、きっと覚えてるはず。
「とりあえず、手前の不用品を出しましょう」
「不用品って言っちゃうんだ…」
「はい」
私達は、どう見ても使わないであろう物を、外へ運び出していった。
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