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ブレイバーズ・メモリー(3)   作者: 橘 シン


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26-15


「終わったよ」

「ありがとう…」


 ナミさんは立ち上がる。


「これは、あくまで応急処置だかね。無理したら、傷が元に戻るかもしれない」

「ああ、わかったよ」


 彼女はおじさまの顔を見ない。


「私、もう寝る。おやすみなさい」

「うん…」


 ナミさんは屋根裏へと上がって行った。



「夢でも見てるのか、おれは?」

「そんなわけないでしょ、って言いたいけど…」


 おじさまもおばさまも、今起きた事に頭がついていっていない。


「すげえじゃねえか、ナミちゃん」

「ああ、そうだな…」

 

 おじさまは神妙な顔つきだ。


「今、ナミさんが使った魔法は、治癒魔法としては初期ものだそうです」

「初期ってことは、まだ上のすごいのがあるのか?」

「はい。あると信じて、わたし達は来たのです」


 ここで、カレン・カシマ氏の研究書や治癒魔法に関する手掛かりがなければ、都に行く事を伝えた。


「そうか。ばあちゃんが魔法士だったてのが信じられないんだが…」

「状況証拠から、魔法士であることは確実だと思っています。わたし達は」


 違ったら、ここまで来た意味がない。


「明日、カレン・カシマさんの部屋だったという物置を見せてください」

「ああ。自由に見てくれ。おれも手伝うよ」

「あなたは、休んでいなさい」


 おばさまが嗜める。


「何もするなって?」

「ナミと約束したでしょ」

「ああ…はい…」


 おじさまは不満げだ。


 大怪我ではないが、大事を取って休んでもらった方がいいだろう。



 わたしも屋根裏に行こうしたら、止められた。


「ソニアさん」

「はい?」

「王国じゃ、さっきのみたいな魔法を使う人がたくさんいるのか?」

「いいえ。今現在、治癒魔法を使えるのは、ナミさんだけです」

「ナミだけ?…本当に?」

「はい。治癒魔法に関しては、研究者が極僅かで、カレンさんが最後の研究者ではないかと」

「そうか…」


 おじさまは事の重大さがわかってきたようだった。


「治癒魔法が復活し、研究されて広まれば、人々にとって有益なものになるではないかと思います」

「もちろんだ。有益すぎる」

「なら、ナミちゃんを引き止めなんてことはしちゃだめだな」 


 ベッキーさんお父さんがおじさまの肩を叩く。


「どうやったら、ナミちゃんを引き止めるられるかって相談は、聞かなった事にするぜ?」

「うん…すまん」

「いいって。じゃあな」


 ベッキーさんのお父さんは帰って行った。



「明日は忙しくなりそうだねぇ」

「ですね。さあ、明日に備えて寝ましょう。ね?ソニアさん」

「はい。では、お先に。おやすみなさい」

「おやすみ」



「おい。おれはどうすればいいんだよ」

「はあ?」

「ベッドまで肩貸してくれ」

「知らないわよ。片足で飛んで行けいいでしょ」

「え…」



 

「ナミさん」

「ソニアさん…」

「大丈夫?」

「ええ…まあ」


 ベッド脇に座っていた隣にソニアさんが座る。


「おじさまの怪我、大した事なくてよかったわ」

「はい」

 

 怪我自体は、自業自得。

 父を庇う必要は全くない。



「治癒魔法の事、現状について話してきた。驚いていたし、事の重大さがわかったみたい」

「遅いです。今なって…私の話、全然聞いてなかったって事ですよね」

「まあ、そう言わずに」


 ソニアさんは、悪態をつく私の肩に腕を回す。


「あなたの事を大事に思ってる証拠よ」

「それは、わかりますけど…」

「わかっているなら、もう悪く言うのやめましょ。わだかまりがあるまま、別れるのは嫌じゃない?」

「…」


 わだかまりか…。


 ベッキーがそういう状態で、おじさんと別れた。

 

 私もなかったわけじゃないけど…。


 喧嘩別れは、やっぱり嫌だ。



「ソニアさんは、大人ですね」

「そんな事…」

「私なんかより、家族をわかってる」

「わたってるんじゃなくて、羨ましいの。わたしにはできない事だから」


 そうだった…ソニアさんには…。


「ごめんなさい。私、ソニアさんの事、考えずに…」

「いいのよ」

「でも!…」


 もう私最低…。


「さあ寝ましょ」

「はい」


 ソニアさんは、床に毛布を重ねてシーツを敷いた寝床。

 そこに寝そべった。


「ランプ消します」

「うん」


 ランプを消すと真っ暗。


 

 子供の頃の話。

 

 屋根裏を自分の部屋にしていいと言われた時、すごく嬉しかった。けど、夜は真っ暗になるから怖くて、嫌だった。

 

 ベッキーは一人で寝ていたから、私も一人で寝ないと恥ずかしいよ、と言われて…。


 お父さんが、私が慣れるまで一緒に寝てくれていたっけ。

 

 同じベッドではなく、今ソニアさんが寝てる同じ場所に。



「ソニアさん」

「なに?」

「仲直りできると思いますか?」

「大丈夫よ。おじさまは、ナミさんの事好きだから、大事だから引き止めようとしただけ」

「はい」

「さっき、ナミさんが重要な使命を背負っているってわかったから、今度は応援してくれるはず…はずじゃなくて絶対」


 ソニアさんは確信があるかのように話す。


「あなたを引き止める事はしない。また別れてしまうのは辛いでしょうけど…」

「はい…」


 私もできる事はなら、ここにいたい。


「おじさまの応援に応える」

「それが、私の仕事」

「そうね」


 頑張ろう。


 何としても成果を持ち帰るんだ。



 翌日。


 お父さんはすでにテーブルについていた。


「おはようございます」

「やあ。おはよう」


 ソニアさんが先にお父さんに話しかける。


「眠れたかな?」

「はい、もちろん」


 二人は普通に会話している。


 私も挨拶をしようと思っていたが、声が出ない。


 お父さんも私に気づいているが、周りに視線を走らせている。

 

 お互いにタイミングを計りかねていた。


 

 台所からお母さんが出てきたので、台所へ向かおうとしたんだけど…。


「ソニアさん。手伝ってくれる?」

「はい」


 お母さんがソニアさんを連れて行ってしまった。


 その時、お母さんが私に意味深に微笑む。


 お父さんと話せって事だよね。

 わかってるよ…。

 

 私は大きく息を吸う。


「お父さん、おはよう」

「おはよう」


 お父さんの前が、私のいつもの席。そこに座る.

 

「足の怪我、どう?」

「大丈夫た。ちょっと痛むが、血は出てないから」

「そう」

  

 悪化していないなら大丈夫だろう。


「お前のおかげだよ。ありがとう…」

「うん…小さな怪我だったし」

「それでもさ」  


 後で確認させてもらった。


 赤く傷跡が残っている程度で、確かに血は出ていない。


 食事中の会話は、普通にできていたと思う。多分。


 ソニアさんが間を取り持ってくれたのが、大きいかも。


 彼女がいなかったら、もっとぎこちない会話だった。



 朝食後、さっそく物置(旧カレンおばあちゃんの部屋)を捜索する。


 物置は庭を挟んで向かいにある。


「ここね」

「はい」

  

 古くなっており、軒先には蜘蛛の巣もはっている。


 屋根瓦もいくつか落ちていた。


「こんなにボロボロだった?」

「人が住んでいないと、早く痛むものなんだよ」


 おばあちゃんがそう話す。


「始めようか?」

「はい」


 私は、ドアノブを掴み引くが、動かない。


「あれ?動かないんだけど…」

「そのドア、歪んでるみたいでな。ちょっと持ち上げて引いてみろ」

「うん」


 お父さんの言う通り持ち上げて引くと…開いた。


 

 中には農具や壊れた椅子、家具などが雑多に置かれていた。


「うわ…」

「あらら…」


 足の踏み場もない。


「いらないなら薪すればいいのに…」

「直せば使えるかなって」

「今までここにあるって事は、直す気がないって事でしょ?」

「いや…うん、まあ…あはは…」


 物を大事するのはいいんだけど…単なる荷物になってら意味がない。



「カレンさんが使っていたものってどれかしら?」

「一番奥です。あそこ、本棚が見えません?」

「あー、あれね」

「あの隣に机があったはずなんです」


 私は記憶をたよりに、部屋を創造する。


「私用品が入っていた木箱があったと思います」

「木箱…それらしいものは見えてる所にはないわ」

「それも多分一番奥かな…」

 

 

 木箱の事で思い出した事がある。


 カレンおばあちゃんは木箱の事を、宝箱って言っていた。


 私は、金銀財宝があると思って開けたんだけど…。


「何が入っていたの?」

「わかりません。金銀財宝でない事は確かです」


 金銀財宝だったら喜んでいたし、きっと覚えてるはず。


 

「とりあえず、手前の不用品を出しましょう」

「不用品って言っちゃうんだ…」

「はい」


 私達は、どう見ても使わないであろう物を、外へ運び出していった。



 

Copyrightc2020-橘 シン


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