26-12
「あっ、わかります?」
「そりゃあね」
ナミさんとの話聞かれてたかな?。
「この黒い…ノリ?ってどういう物なんです?」
「そいつは海藻を薄い板上にして乾燥させたもんだよ。ほら、これが包む前のノリ」
端のほうを触る。
透けては見えないが、薄い。
紙?みたいな。
「へえ。これは、オニギリ専用ですか?」
「いいや。ノリだけで、食べたりするよ。ショウユで味付けたり…」
料理名がポンポン出てくるが、全然わからない。
「お待たせしました」
ナミさんがトレイに何か乗せて帰って来る。
「何話していたんです?」
「ノリについて聞いてたの」
「特に珍しいものじゃないんですけどね」
わたしにとっては未知の物だ。
ちょっと興味が湧いてきた。
「ノリを使ったオニギリ追加で。大きさ半分って出来ます?」
「いつもはしないけど、あんたのためにしてあげるよ」
「ありがとうございます」
そういえばゴハン自体が初めてだ。
店主は桶に入ったゴハンを手に乗せて、器用に丸く握っていく。
子どもの頃、泥遊びであんな事したっけ。
丸く握ったゴハンをノリで包んで完成。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
ナミさんが買ってきたのは、透明なスープ。
船で食べたものより具は少ない。
それと、鶏肉を焼いたもの。一口サイズに切った鶏肉が串に刺さっている。
「いただきます」
まずは、ノリに包んだオニギリから…。
ナミさんは、手づかみでオニギリにかぶりついている。
わたしもそれに倣った。
オニギリにかぶりつく。
「美味しい…」
ノリにくせなどはなく、むしろいい香り。
海で採れてたものだからだろうか、磯のような潮のような風味が口に広がる。
「よかったです」
「ええ。いい経験ができたわ」
土産話が増えた。
「こっちのスープは?」
「オスイモノです」
「オスイモノ?」
魚介類で取ったダシに塩をで味付けし、具を加えたもの。
「この、白い四角いものは何?」
「トウフです」
「トウフ?」
「大豆で作ったのものです」
「へえ」
これも大豆から。
ミソも大豆からよね。
「すごく蛋白なのね」
「はい。だから、色んな料理に使えるんですよ」
「なるほど」
オスイモノも美味しい。
すごくシンプルなのに、深い味わい。
ナミさんは、細い竹製の棒二本で器用に使い食べている。
ハシと呼ばれるものだ。
わたしは使い慣れていないので、スプーンとフォークを用意してもらった。
「この串焼きも美味しいわ」
「ですよね」
甘辛いタレがゴハンに合う。
ミソをつけた焼きオニギリも美味しい。
全部美味しい!。
「前回、来た時も食べればよかった…」
食わず嫌いで損をしてしまった。
「食べる機会はまだありますから。どんどん食べていきしょう」
「ええ。そうするわ」
お腹が満たされたところで、移動手段を確保しなければいけない。
荷馬車を借りる事にした。
費用がかかるが、この先の移動手段に困る事がない。
荷台に乗せてくれる商人を探す手間が省けるし、見つからずに焦る事もない。
時間と安心感を買ったわけだ。
「ちょうどいい荷馬車があってよかったですね」
「ええ」
荷物と人ふたりだけが乗れる大きさ。
日持ちする食料品を買い込み、すぐに出発した。
右手に海を見ながら、西へと進む。
道は比較的整備されているので、荷馬車の揺れは少ない。
とは言うものの、座り心地は良くない。
「仕方ないよね…」
「ええ」
荷馬車ってそういうものだし。
クッションになるものでも買えばよかったかな。
いや、出費は抑えたい。
鞄に着替えだけを入れ、お尻の下に敷いた。
これで凌ごう。
「夕方までに行ける集落ってある?」
「あるはずです。海で漁をするために、街道に近い所に住んでいるはずですから」
「そう」
海岸には、船が何隻も上げてあり、作業している人も見かける。
安心はできないから、早めに集落へ行こう。
ナイワッカから出発して七日。
やっと私の実家がある村のそばまで来る。
途中、強雨で丸二日も共同市場で足止めとなってしまった。
「この別れ道を左です」
「オーケー。左ね」
ソニアさんが手綱を引き、左へと曲がる。
「あとは村まで一本道なので」
「そう。雨さえなければね…」
「はい」
天候に関しては、私達にはどうする事もできない。
村までの道。
海岸から離れるように内陸に向かっている。
何にも変わってない。
ベッキーと村を出た時も今くらいの季節。
彼女の事だから、すぐに村に帰ると思っていた。
まさか王国に渡り、シュナイツまで行く事になろうとは、あの時は想像すらしてなかった。
道の両側は林。
キノコや山菜がたくさん採れる。
今、採っている人がいた。
昼頃、村に到着。
変わってないなぁ…。
自分が知っている景色に安心する。
帰って来るのはもっと後のはずだった。
今回は、カレンおばあちゃんが研究していたであろう治癒魔法の捜索が主で、里帰りが目的ではない。
長居することはないだろう。
昼食を作っている最中だろうか、周囲からいい匂い漂ってくる。
「こっちです」
荷台から降りて、ソニアさんを誘導する。
「良い村ね」
「普通ですよ」
「だから、良いのよ。大きな町より安心感があるもの」
「わかります。シュナイツが、王国の英雄であるシュナイダー様が開いた所って聞いて、すごい大きな町なんだろうと、勝手に想像してて…」
「小さすぎてびっくりしちゃった?」
「はい…いえ、なんというか…山の中にあってここと似ているなって、安堵したのを覚えています。ベッキーは、本当に英雄の領地か?って疑っていましたけど」
「ふふっ」
ベッキーには、そんな失礼な事は絶対に口にしないでって、注意しておいた。
私の実家は、村の中心からちょっと離れた林の中。
林の中といっても、鬱蒼した所じゃない。
見通しがきくように間伐してある。
「あそこです」
実家周辺も変わってない。
雑草は増えたかな?。
古い丸太小屋に近づく。
玄関のドアノブを掴む。
ちょっと緊張してきた。
両親は驚くはず。
どんな顔をすればいい?。
「いつも通り…いつも通りで…」
わたしは大きく息を吸ってから、ドアを開けた。
「だたいま~!」
いつもの玄関。
実家の匂い。
「はあぁ…」
何年ぶりだろう。
「ナミ?」
「お母さん…」
台所の入り口で、お母さんが呆然としている。
「だたいま、お母さん」
「ナミ!おかえり…」
お互いに近づいて抱き合う。
「ごめんなさい…」
「いいのよ。元気だった?」
「うん…」
無理を言って家を出たことに謝る。
「お父さんとおばあちゃんは?」
「いるわよ。あなた!おばあちゃん!ちょっと来て!」
奥からドカドカと足音が聞こえてきた。
これはお父さんの足音だ。
「なんだよ?」
「なんだよ?じゃないわよ。ナミが帰って来たの」
「え?ナミが?…」
「だたいま。お父さん」
「お前…バカ野郎…」
お父さんは泣き出す。
ボロボロと涙を流して。
「どんだけ、心配したと思ってんだ…」
「ごめんなさい」
お父さんの背中を擦った。
「手紙は遅いし…」
「お父さんは、手紙が来ないから何かあったに違いないって、言うの。返事ダシて、十日も経っていないのに」
「それだけ心配だったんだ」
「うん。わかってるから」
お父さんは必死に涙を止めようしている。
「ナミが帰って来たって?」
「おばあちゃん!」
「久し振りだねぇ。元気だったかい?」
「うん。おばあちゃんも元気そうで、安心したよ」
おばあちゃんは、頭や顔を撫でくれる。
大好きなおばあちゃんの温かい手…。
泣かないように我慢していたけど、涙が溢れてきた。
「大丈夫、大丈夫」
「うん…」
おばあちゃんが抱きしめてくれる。
「ありがとう、おばあちゃん…」
「いいんだよ…」
涙を拭き、深呼吸する。
「ベッキーは、どうしたの?一緒に帰って来たんでしょ?」
「外に誰かいるぞ。知らない奴だ」
「女性ね」
説明しないといけない事がいっぱい…。
「あのね…実は、だた単に帰って来たわけじゃないの。確かめたい事があって…」
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