表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブレイバーズ・メモリー(3)   作者: 橘 シン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/77

26-9


 私は、アーロン君の傷の上に手をかざし、出血を止める魔法を発動させる。


 魔法陣を見なくても、発動できる。できるように練習した。


 たぶん初歩の魔法だから。これくらいはできないといけないと思って。


 写本の魔法は無理だったけど。



「アーロン君、頑張って…」


 彼の傷は見るも無惨。目を背けたくなる。


 出血はまだ止まっていない。


 血溜まりの中に彼は寝ている。



「何やってんだ?」

「出血を止めてます…」

「止めるって?」

「黙っててよ!ナミさんが、集中できないでしょ!」

「あ、はい…」


 ソニアさんが治癒魔法について、説明しくれた。


「そんな魔法があるのかよ…信じらんねえ」

「マジもんだぜ!血が止まってきた!」


 私は一度魔法を止め、息を整える。


「はあ…はあ…」

「大丈夫?」

「はい…」

「後は、傷を縫えばいいんじゃない?」

「いいえ…傷を塞ぐまでやります…」

「けど…」


 ソニアさんが心配してくれるのは、ありがたい。

 けど、やめたくなかった。


 アーロン君を助けたいって気持ちもあるけど、自分が今どの程度の治癒魔法が使えるのが確かめたかったから。



「誰か、水持って来い!」

「水、ですか?」

「飲み水だ!彼女を見てわかんないのか!」

「はい!」


 船乗りが走り去る。


「手が空いてる奴は賊の死体を片付けろ!」

「降参してる奴らはどうします?」

「降ろせ。まだ手漕ぎ船が残ってたはずだ」

「はい!」


 船乗り達が離れ、私とソニアさん、船長さんだけになった。



「こいつは助かる」

「本当ですか?」

「致命傷になるような傷じゃない。まあ、処置を間違えたら、わからんがな」


 そう言って、アーロン君の首に指を当てる。


「脈がしっかりある」

「そうですか…」

 

 望みは十分にある。大丈夫.…そう自分に言い聞かせた。


 私は、再び魔法を発動させた。


 今度は、傷口を塞ぐ魔法。

 

 しかし、ここまで大きな傷は初めて。


「無理、かもしれない…」

「ナミさん。血を止めただけも十分よ。あとは当て布をして、包帯のきつくすればよくない?」

「はい…」


 そうだとしても、できるだけ傷は塞ぎたかった。


 

 周囲が明るくなる。


「やっと霧が晴れたか…」

「みたいですね」


 帆が上がり、船が前進し始めた。



「ソニアさん…」

「何?どうかした?」


 シニアさんの声が遠くなる…。


「ナミさん!?ナミさん、しっかり…」


 私は、耐えきれず気を失った。

  

 


 気を失ったナミさんは、船倉へと運ぶ。


 アーロンさんも板に乗せられ、船倉へ。


 

「大丈夫だよな?」

「大丈夫です。魔法を使い過ぎただけですので、時間が経てば気がつきます」


 と、聞いてはいたが、実際に目の当たりにすると、生きた心地がしない。


「そうか…」


 船長は大きく息を吐く。


「アーロンさんの方はどうです?」

「大丈夫じゃねえかな。血が滲んで来てないし…」

「そうですか」


 運ぶ時にはかなり気をつかった。


 傷口がまた広がってしまうのではないかと。



 ナミさんとアーロンさんは、何が起きても対処できるよう見える所に、並んで寝せてある。



「夕食を頼む」

「あー、はい」


 忘れてた。

 

 何を作るんだったっけ?。


「俺が手伝ってやるよ」

「船長が、ですが?」

「ああ。なんか問題でもあるか?」

「ないですけど…」


 手伝ってくれるのありがたいけど…。

 

「お前、俺が料理できないと思ってるだろ?」

「出来るんですか!?」

「この野郎…。評判いいんだぞ!なあ?」


 通りかかった船乗りに話しかける。


「え?なんです?」

「俺の料理、うまいよな?」

「ああ、うまいっすよ…」

「ほら」


 なんだか無理矢理言わせた感じだった。


 まあいいか。

 

 一人で作るよりはいい。


「…わかりました。お願いします」

「おう」


 で、何を作ろうかと考えていたら…。


「釣り糸を仕掛けておいたんだ」


 いつの間に。


 見てくると言って、船長が甲板へ出ていく。


 わたしは、窯の用意。


 ナミさんがいないので、火打ち石で火を付ける。


 火打ち石は久し振りに使う。若干手間取った。


 大鍋に水を入れ、火にかける。


「ほんと、何作ろう…」


 ついさっきまで賊と戦っていた。


 危うく命を失うところだったし…これが、ヴァネッサ隊長の嫌な予感かしら?。

 

 そうなら、もう安全かも。



「魚、かかってたぜ!」


 船長が喜んで帰って来る。


 手にしてる魚は四匹。


「へえ…」

「テンション低いな」

「わたし、魚は苦手で…」

「そうなのか?」

「はい…」


 生臭くて…。


「よおし。それじゃ、うまいやつを作ってやろう」


 船長は、テンションが高い。


 

 手際よく魚を捌いていく船長。


 鱗を取り、内蔵も取って海水で洗う。


「こいつをぶつ切りにして、鍋に入れる」

「だけじゃないですよね?」

「もちろんだ。野菜その他は適当に切って一緒に煮込む」

「野菜はわたしが切ります」


 船長に言われた通りに切って、鍋に投入。


 鍋がグツグツと音を立て、煮込まれていく。



「味付けは?」

「ちょっと待っててくれ。アクを取っとけよ」

「はい」


 船長はまたどこかへ行ってしまう。


「これに、塩と胡椒でいいんじゃない?」


 待て、言われたので入れないが、用意はしておく。


 後は、主食が必要ね。


 小麦粉を使った無発酵パンかな。

 

 アクセントにゴマを入れてみよう。



「待たせた」


 船長は、陶器製で蓋付きの壺をもってきた。


「なんですか、それ?」

「これか?」


 蓋を開け見せてくる。


 中身は…。


「なんてもの持って来てるんですか!」


 壺に中には、茶色い何か入っていた。


「は?」

「それって、排泄物でしょ!」

「バカ野郎!んなわけあるか!」

「そうにしか見えない!近づかないください」


 それ以外に何があるのか!。


「これは、大豆と塩で作ったミソってやつだ。調味料だよ」

「嘘です!」

「知らないんだな?だったら確かめてから、文句を言え」

「嫌ですよ!…」

 

 わたしと船長は睨み合う。



「何やってんすか?」


 船乗りが通りかかった。


「船長があんな物を…」

「あんな物?」

「これだよ」

「あー、ミソじゃないすか?」

「こいつ、排泄物だって、抜かしやがった」

「排泄…はははっ」


 船乗りは笑い出す。


「ソニアさん、大丈夫っすよ」

「いやいや…」


 船長はヘラで、ミソというのを取り出した。


「ほら、確かめてみろ」

「もう…」


 わたしは恐る恐るヘラを取る。

 そして、鼻を近づけた。


「変な匂いはしないだろ?」

「…しないですね」


 しないけど…排泄物のイメージが頭から離れない。


「これで、味付けする」

「ほんとに入れるですか?…」

「後は俺がするから、黙ってろ」


 船長はミソを深い器に入れ、鍋からスープをすくい、ミソが入った器に入れる。

 ミソをスープを混ぜて溶かす。

 溶かしたものを鍋に入れてしまった。


「あー…」


 満足気に鍋を混ぜる船長。


「味はどうかな?…いいねえ」


 わたしは、絶対美味しくないと思っていた。  


「ほら。お前も味を見ろ」

「えー…」

「俺を信じろよ」

「信じたくないです」

「わかったよ…信じなくいいから、味を見ろって」


 わたしは恐る恐る、ミソが溶かされたスープに口をつける。


「ん?…あれ…美味しい…」

「だろ?」

「なんで?」

「なんでって…」

 

 初めての味。


 独特の風味と香り。


 塩加減もいい。


 魚の生臭さもないし。


「すみませんでした…」


 素直に謝った。


 先入観とは怖いものだ。


「まあ、いいって」


 船長は怒ったりはしかなかった。


「怒らないんですね」

「怒ってどうする。知らなかっただけだろ」

「はい…」

「それより、何か他に作るのか?用意してあるみたいだが」

「はい。パンを焼こうかなと」

「そうか。そいつが焼けたら夕食だな」

「そうですね」


 少し遅い夕食になってしまった。



Copyrightc2020-橘 シン


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ