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ブレイバーズ・メモリー(3)   作者: 橘 シン


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26-8


「ソニアさん!」

「うぐっ!…」


 ソニアさんが捕まってしまった…、


 私は、呆然と立ちすくむ。



「おら!こいつを殺されたくなかったら、武器をすてろ!」


 大男の言葉に船乗り達は迷いながら、次々と武器を捨てていく。


「バカ!わたしはいいから、やりなさいよ!」

「黙ってろ」


 首を締め上げられるソニアさん。


「くそっ…」


 彼女はショートソードを闇雲に振り回す。


「おっと危ねえ…おい、こいつの剣を取り上げろ」

「は、はい」  

「いい加減諦めるろ!首をへし折るぞ!」


 ソニアさんは必死に抵抗するが、さらに締め上げられる


「ぐっ…くっ」


 彼女は持ちあげられ、足が甲板から離れた。


  

 どうにかしなければ。

 そう思うが、何をすればいいのか、わからない…。


 攻撃魔法が使えれば、何かやりようがあったと思います。

 攻撃魔法ではなくても、使えるものがあった。


 でも、あの時の私は、何も思い浮かばなくて…。

 文字通り、頭が真っ白に…。

 

 

 苦しそうなソニアさんを見て、なんとかしなければと、気ばかりが焦る。 


「ソニアさん…」


 周りの船乗り達は、もう諦めたのか動かない。



「あれ?…あの人は…」


 ソニアさんの剣を持ってる賊に見覚えがあった。


「まさか…どうして?」

 

 知り合いに似てる人が賊の中にいる。

 


「この船、丸ごといただく!全員、今すぐ降りろ!」

「くそぉ…」 

「おいっさっさとしねえか!」


 そう安々と降りれるわけがない。


 愛着があると思うし。



 それより、あの人…間違えない。


 アーロン君だ。


 比較的長身で、メガネをかけてる。


 賊には似合わない優しげな顔。


 

 彼と同じ学校に通っていた。


 

 学校は近隣の村が共同で運営されている。


 彼とは違う村だけど、よく話す間柄だった。


 

 なんで?賊なんかやってるの?…。

 

 

 私の中に、戸惑いと怒り似た感情が湧き上がってくる。



「てめえら、話聞いてんのか?」

「アーロン君!アーロン君でしょ?」

「あ?なんだ?」


 大男の言葉を無視してアーロン君に話しかける。


「私の事、知ってるでしょ?ナミ・カシマよ」

「ナミさん、前に出ちゃ危ないっすよ」


 船乗りの忠告を無視して前に出た。


「カシマさん?」


 アーロン君が戸惑いの表情で呟く


「そうだよ」


 周囲は、不思議に静まりかえる。


「何やってるの?」 

「何って…」

「何で、海賊なんかやってるの!そんな事する人じゃなかったでしょ」


 彼は優しい性格で、下級生の面倒見も良かった。

 慕われもしていた。



「アーロン。てめえの知り合いか?」

「え?いや…違います…」


 アーロン君は、私から目を背ける。


 そんな…何で…。



「アーロン君は、私の友達です!…」

「だとよ。アーロン、お前のダチなら言ってやれ。殺されたくなかったら、さっさと船を…」

「アーロン君は賊なんてやる人じゃないんです!どうして彼を巻き込んだんですか!」

「巻き込む?おれが無理矢理引き込んだみたいな話しぶりだなぁ」

「それ以外に何があるんです!」

「ナミさん、だめぇ…」


 ソニアさんが声を漏らす。



「ふふっ…ハハハ!」


 大男が笑い出し、賊達も笑い出した。


「こいつは、自分から海賊になりないってやって来たんだよ!」

「嘘…嘘よ!アーロン君、嘘よね?」

「…」


 彼は否定しない。


「小さな手漕ぎ船で一人。中々できる事じゃねえ。おれは、一発で気にいったぜ」


 何故、と言葉が頭の中に、こだまする。何度も。


 優しかったアーロン君が、賊になって悪さをする。

 わたしにはどうしても想像できなかった。

 

 でも…今、目の前に彼がいて…。


 何が彼をそうさせたのか…。


「アーロンは頭良くてな。いい作戦を思いつく。それで、相当稼がせてもらったぜ。なあ?」


 高笑いする賊達。



「アーロン!」

「はい」

「あいつを、その剣で斬れ」

「え?」

「お前の覚悟を見せろ」

「でも…」

「できるよなぁ?」


 大男にそう言われるが、剣を持つ手が震えている。


「誰も動くなよ。こいつの命はないからな!アーロン!早くしろ!」

「アーロン君…やめて…お願い…」


 アーロン君がゆっくりと近づいてくる。


「人を殺すなんて、あなたにはできない。そうでしょ?」

「…」


 そう絶対にできない。


 今、彼の手が震え、唇も震えている。


「あなたに何があったのか、どうしてこんな事になったのか。私は聞かない。話さなくていいから…お願いだから、やめて…ね?」

「カシマさん…」


 アーロン君はぐっと目を瞑った。


 そして、剣を捨てる。


「すみません…出来ません、お頭…」

「やっぱりな。悪になりきれねぇ…そう奴はいらねぇんだよ!」


 大男が鉈を大きく振りかぶった。


「アーロン君、危ない!」

「え?」


 彼が大男を振り返った瞬間、鉈で切られる。


「ぐああ!」

「アーロン君!」


 倒れた彼の胸あたりから血が流れていた。


「はあっ…はあっ…」


 アーロン君が…アーロン君が…。


 目の前の出来事に頭がついていかない。


 胸の鼓動が早くなっていく。



「めんどくせぇ!全員皆殺しだぁ!」

「やめて…」

「かかれぇ!」


 私の中の何かが弾けた。


「やめろぉ!」


 両手を前に出し、魔法を発動させる。


「なんだ!ああ?…ん?どうしたんだ?…体が動かねぇぞ」

「お頭…俺も…」

「なんだよ、これ…」

「てめえ…何をした?」



 

 ナミさんが感情を爆発させ、何か魔法を使ったみたい。


 死なない程度に首を締めれていたわたしは、腰の後ろにあるナイフを取り出そうとしていた時だった。

 

 賊達が一斉に動きを止める。


「どうなって…いるんだ…」


 これは、わたしがウィル様を襲った時、エレナ隊長が使った魔法だ。


 あの時は体が一切動かせなかった。初めての感覚。



「ナミさん…」


 ナミさんは、彼女らしからぬ怒りの形相で、両手を前に出したまま。


 彼女の指先から、とても小さな光の筋がいくつも伸びていた。


 この場にいる賊全員の動きを止めているんだ…。


 ここまでの魔法力が、ナミさんにはあったなんて…。


 でも、長くは続かないはず。


「今よ…」


 声が出せない。


 船乗り達は何やってんのよ…。


 状況が全然わかってない。チャンスなのに…。



「ナミさん!」


 なんとか出した声に、彼女は気づく。


 わたしは、大男の腕を指差す。


 ナミさんが小さく頷いた。


 少しづつ、首の締め付けが緩んでいく。


「なんだと…どうなっているんだ、体が勝手に…」


 わたしは大男の腕の中から逃れる。


「はあ…はあ…。マジで、許さないわよ!」

 

 ナイフを腰から引き抜き、両太腿を刺す。


「ぐっああ…くそがぁ」

「くそはあんたよ!今よ!みんな!賊は動けないわ」

 

 わたしは自分の剣を拾う。


 船乗り達が、やっと賊に立ち向かう。



「魔法か?…この程度の事で、おれを止められると1思うなよ!」

「嘘でしょ…」


 大男は、ナミさんの魔法を力ずくで、振りほどく。


「よくもやってくれたな!」


 ナミさんの方へ向かう大男の前に、わたしは立ち、剣を構える。


「ナミさん!逃げて!」

「私は逃げない…アーロン君のために…」


 彼女はそう言うと、その場にへたり込む。


「ナミさん!しっかりして!」


 肩を揺する。


「ソニアさんこそ、逃げて…」

「バカ言わないで!」


 こんな所で逃げたら、エレナ隊長やベッキーさんに顔向けができない。



「二人まとめて、地獄へ送ってやる!」


 大男が鉈を大きく振りかぶった。

 

 わたしはナミさんに覆い被さる。



「…あ…あ…」


 

 大男が襲って来ない。


 わたしは大男を振り返る。


 大男のこめかみに矢が刺さっていた。

 


「地獄へ行くのは、お前だ」


 船中央の荷物の上に、船長が弓を構えていた。


「悪い。遅くなった…」

「遅すぎますよ!え?…は?ちょっと!」


 大男が、わたし達の方へ倒れ込んでくる。


「重いぃ…」


 わたし一人じゃ支えきれない…。


「誰か!」

「おっと…」

「ソニアさん、大丈夫ですかい?」

「ええ…」

「こいつを海に捨てろ!」


 大男は海に捨てられた。



「ナミさん!」

「はい…」

「大丈夫?」

「大丈夫です…」

 

 良かった…。

 怪我はなさそうだ。


 彼女は疲れた表情のまま、肩で息をする。



「こいつはどうする?」

「死んでんのか?」

「まだ息してるぜ」


 ナミさんがアーロンと言っていた人が倒れたままだった。



「はっ!アーロン君!」


 ナミさんは四つん這いで、アーロンに近づく。


「やめて!誰も触らないで!アーロン君!…」


 彼は息をしてるものの、肩口から胸を斜めに、ざっくりと切られていた。


「もうダメかもしれねえ」

「嫌よ…。絶対に助けて見せる」


 ナミさんはそう言うと、彼の胸の上に両手をかざした。



Copyrightc2020-橘 シン


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