26-7
「船長!」
「おう」
「わたし達に何かできる事は」
「ないんだな。これが」
「何もないんですか?ただ待つしかないと?」
「とりあえずはな…」
早く霧が晴れるように祈るしかない。
「座礁するかもしれないって」
「座礁ならまだいい」
船長は眉間に皺を寄せる。
「座礁以外に何かあるんです?」
「他の船に衝突される」
「あー…」
霧の中でお互いに見えなければ、そうなる。
「まあ、海は広いし。霧の中なら止まってるはずだから、衝突される可能性は低い。もう一つは…」
「もう一つ?」
「海賊だ」
「海賊…って海に賊がいるんですか?」
「いるんだよ。陸と同じさ」
船を襲い、荷物を奪っていく。
「船長。衝突防止の篝火の用意出来ましたぜ」
「まだ火はつけるなよ」
「へい!」
「どうしてつけないんです?」
「もし近くに賊がいたら、位置がバレるじゃねえか」
「あ…そうですよね」
「まあ、可能性は低いとはいえ衝突がないわけじゃないから、篝火をつけたい気もする」
何も出来ない歯がゆい時間が過ぎていく。
「悪いが二人とも、目を貸してくれ」
「手じゃないんですか?」
「今は、目だ。目視で警戒するしかない」
確かに、手じゃなく、目ね
「わかりました。ナミさんは右へ」
「はい」
「わたしは左にいくわ」
「何か見つけたら、大声で叫べ」
「はい」
わたしはナミさんと別れ左舷側へ向かう。
霧のせいでしっとりと冷たい。
陽の光は拡散し眩しく感じる。
「いつもこんな霧が出るの?」
「いつもじゃない」
「そう。それで、こうやって警戒しながら待つしかないの?」
「ああ。天候は、どうする事もできねえし」
そうだけど…。
「霧より賊のほうが怖いぜ」
そう言いながら船から身を乗り出し下を見る。
わたしも倣って下を見た。
左右を確認。
わたしは船のだいたい真ん中にいる。
船首も船尾も霧に霞んでよく見えない。
「もう…」
これで、どうしろと?。
目視に限界あるって…。
「…くだ!…」
船首から叫びに似た声が聞こえた。
「なに?」
「なんだよ…」
船首は霞んでいて、なにかなんやら…。
船首付近で騒ぎが大きくなってくる。
「賊だ!来てくれ!」
船乗りが一人、やってくる。
「やっぱ来たか!」
わたしのそばにいた船乗りとともに、船首方向へ駆けていく。
「ちょっと!ここにいなくていいわけ!」
「ソニアさんはそこにいてくれ!」
そう言いながら、霧に消えた。
「一人だけで、どうするのよ…」
ガコン!
「え?」
後ろで音がなる。
「なに?」
ガコン!
また。
音は船の中じゃない、外側…
ガコン!
「うわ!」
わたしのすぐそばで音なった。
音がしたそこには…。
「これって…」
手すりに何かが引っかかてる。
鉄製の鉤爪。
その向こう側を覗く…。.
「…あ…」
「…やっべ…」
鉤爪にはロープが結ばており、そのロープに結び目が等間隔につけれらていた。
それ使って誰かが登って来る。
「賊だ!左舷に賊が来た!」
「この野郎!」
わたしは、腰のショートソードを抜き、ロープを切る。
「バカ!やめろ!」
「やめるわけないでしょ!」
丈夫なロープだ。中々切れない、
ソードをノコギリのように左右に動かす。
「早く…切れてぇ!」
切る間に、ほかの所から賊が登って来てる。
賊達は白っぽい服装。
霧に紛れ込むためだろう。
ご丁寧に乗ってる手漕ぎ船まで白く塗装している。
「誰か!来てってば!」
「うわぁ!…」
やっと切れた。
「どっか行け!」
鉤爪を取り、手漕ぎ船へ投げ落とす。
「痛ってぇ…」
下から声が聞こえる。
「次!」
振り向くと、すでの賊に侵入されていた。
「女だからって手加減しねえぜ!」
両手に手斧を構え、突進してくる。
「あら、そう!じゃあ、やってみなさいよ!」
ショートソードを構え、備える、
賊は両手に手斧を持っているが、ここで怖気づいてはいけない。
落ち着いて対処すれば大丈夫。
「死ね!」
手斧を振り上げ、頭上から振り下ろしてきた。
大振りだ。余裕でかわせる。
後ろへ下がりながら間合いを見極める。
両手にある手斧を、交互に振り上げ、おろしてくる。
単調な攻撃。
「そこ!」
振り上げた右腕を見て、一気に間合いを詰め、右肩をショートソードを突き刺す。
「くそっ」
ショートソードをすぐに引き抜き、今度は右の太腿を一刺。
「てめぇ…」
賊の動きは止まる。
右腕と右ふとももから、血が流れてる。
「武器を捨てなさい」
「…」
殺しまでする必要ないと思っていた。
「悠長な事言ってんじゃね!」
賊の後ろから、船長が走って来る。
「船長…」
船長は、動かない賊の背中にナイフを刺し、通りすぎる。
そして、わたしも通りすぎて、すぐ後ろにいた賊を斬り伏せた。
「ぐはぁ…」
「バカ野郎!手ごころなんか不要だ!死にたいのか?」
「そういうわけじゃ…」
「あっちは、捨て身で来てるんだ。隙を見せたら、一瞬でやられるぞ!」
そう言って船長は、斬り伏せた賊を海に投げ落とす。
背中を刺された賊も意識はあったが、容赦なく投げ落とした。
「助けっ!…誰か…」
弱々しい声はすぐに聞こえなくなる。
「船首へ行くぞ」
「はい。船尾はいいんですか?」
「ああ。片付けた」
何でもないように船長は話す。
特に動揺もしていない。初めての襲撃じゃないんだ。
この落ち着くようは、一度や二度の経験じゃない。
「そうだ!…。船長!わたし、右舷に行きます!ナミさんが心配なので」
そう言いながら走り出す。
「わかった!」
船の真ん中は荷物が置かれており、右舷側に行くには、迂回しなければいけない。
船尾の方から荷物を迂回する。
「無事でいてよ…」
一緒に行動すべきだった。
わたしは彼女の護衛が役目なのに。
「ナミさん!」
右舷側は、賊と船乗り達が戦っていた。
ナミさんの後ろ姿が見える。
「ナミさん!」
「ソニアさん!」
彼女は、怪我をしてる様子はない。
魔法の杖を手にしていた。
「船の外からどんどん上がってくるんです!」
「まだ来るの?」
どんだけいるのよ…。
「ナミさんは、わたしから離れないで」
「はいっ」
賊のほうが数が多い。
船首でもこんな感じだろうか。
狭い甲板。
数に押されジリジリと船乗り達が後ろに、船尾側に下がってくる。
「ちょ、ちょっと!頑張ってよ!」
「数が多すぎるって!」
「こんな大掛かりなのは初めてだ…ちくしょう…」
「船長はどこ行ったんだよ!…」
「船首よ。ここで踏ん張れば、船首側から挟み打ちできるでしょ!」
「無理、言うなって!…」
弱音吐かないでよ…男でしょ…。
「どきなさい!わたしが!」
目の前の船乗りを引っ張り、自分が前へ出る。
「こいつ!」
相手もショートソードだ。
素早く突きを出してくる。
それを避けながら、剣先で弾き、隙を作る。
「やべぇ、しまったっ!」
相手の手首の内側を斬りつけた。
手首を押さえる賊の両目を、ショートソードを横に一斬!。
「うああああ!目が!」
目を押さえ悶え苦しむ賊を前蹴りで、後ろに飛ばす。
賊を巻き込み倒れた。
「やるじゃねえか!てめえが先だ!」
賊が一人、倒れた仲間を踏みつけて、迫りくる。
大柄の体で、厳つい顔。
お頭と呼ばれている。
「覚悟しろ!」
そう言って鉈を振り回す。
意外に振りが早い。
だけど、これくらいなら訓練で経験してる。
重そうな鉈。一撃喰らえば、ひとたまりもない。
「どうした!避けるだけが、精一杯か?」
「んなけないでしょ!」
大男の懐に飛び込む。
その勢いで、肘をみぞおちに打ち込んだ。
「どうだ!」
「…へへっ…」
「え?」
大男は何事もなかったかのように、笑いを漏らす。
「中々いい肘だったぜ」
マズイっと思った瞬間、大男に捕まってしまった。
Copyrightc2020-橘 シン




