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ブレイバーズ・メモリー(3)   作者: 橘 シン


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26-3


「もう行っちゃうんだ…」

「うん。先延ばしにする理由はないし」

「そう…」


 あらかたの準備が整って、昼食時。


「気をつけてよね…」

「わかってる」


 ベッキーは少し心配そう


「ソニアさんと行くんでしょ?それなら大丈夫じゃない?」

「私もそう思います」

「あ、何か持ってく?」


 リサさんは、私物から旅に役立ちそうなものを貸してくれると言ってくれた。

 

「あまり持って行けないから…」


 彼女の好意はありがたいが、できるだけ荷物は減らしたいので、断った。


「女子は荷物が多くなりがちよね。櫛とか鏡とか」

「ですよね」


 そのへんのものはソニアさんと共同で使う事にしようと、相談済。


「面倒くせえな…女ってのは」

「ぼくらにはわからない感覚だよね」

「全くだ」


 エデルさんとウェインさんがそう話す。



「ねえ、ベッキー」

「ん?」

「良かったら、手紙預かるよ」

「え?あー…うん…ありがとう。けど、いい」

「いいの?」


 彼女はシュナイツに来てから、いやシファーレンを出て以降、親に手紙を送っていない。

 

 私は、送っている。ベッキーの近況も書いて。


 彼女の近況をを書いているのは秘密。

 それを知ったら怒るだろうなぁ。余計な事するなって。


 

 ベッキーには、お母さんがいない。


 子供の頃に亡くなって、お父さんだけ…。


 仲良かったんだけど、魔法士になるならないで、喧嘩になる。


 仲直りしないまま、家出同然でシファーレンを離れた。



「書いた方が良くない?」

「いいって…だいたい、何書いていいかわかなんし」


 そう言いながら、食べおわった食器を片付け始める。


 空になった鍋に食器を入れ、兵舎を出ていく。



「まあ、喧嘩中の親には出しづらいわよねぇ…」


 リサさんも、親とはわだかまりがあるみたい。

 

 それでも手紙は送っている。

 

「書いた方が良い事はわかってんだけどさ…。最初の一回目が勇気いるのよ」


 リサさんが、頷きながらそう話す。


「向こうからは来ないのかい?」

「来てません」

「こっちから出してないなら、送り先がわからないんじゃないか?」

「いや、ナミがいるだろう?」

「ああ、そうか…なのに来ないって事は、相当拗れてんな」

「ベッキーが戻ってきた」

「おう…」


 ちょっと慌て話題を変える。



「午後はどうするぅ?」

「どうって…魔法士隊は、午後って自主訓練なしだからなぁ…」

「限界突破したら、良いとエレナ隊長は言っていたね」

「いつになるやら…」


 リサさん達が話してる中、ベッキーは黙ったまま。

 

 いつもは会話に入るんだけど…。


「あたし、夜に見張りのシフト入ってるから仮眠する」

「うん」


 彼女はベッドへ向かった。



「ナミ、どこ行くの?」


 立ち上がった私に、リサさんが尋ねる。


「ベッキーが寝れるように外にいます。天気いいし」

「そういう事なら、わたしも外にいる」

 

 リサさんと外に出ると、エデルさんとウェインさんも出てきた。



「ナミとはしばらくお別れね」

「意外と、すぐに帰ってくるかもしれませんよ」

「どうしてぇ?」

「治癒魔法が見つからないなら、帰ってくるしかないですし…」

「ある可能性の方が高いんだろ?」

「はい。でも、行ってみないとわかりません」

「見つかるさ。前向きに考えたほうがいいよ」

「ですね」


 みんなから励ましの言葉をもらう。


 魔法士として、同じ道を行く仲間がいるのは嬉しい。


 私一人なら、諦めていたと思う。

 

 不安は消えないが、落ち着いて出発の朝を迎えられそう。


 

 この後、エレナ様から写本の魔法を教わって、練習していました。

 治癒魔法も一緒に。 


 練習に集中していたので、余計な事を考えずに済んだいい時間だった思います。

 

 私はどちらかというと、悪い方に考えがちなので、時間を潰せてよかった.




「ソニア。ちょっといい?」


 夕食後、自室で荷物の確認をしていた時だった。


 ヴァネッサ隊長が訪ねてくる。


「ヴァネッサ隊長?何か用でも?」


 彼女を部屋へ入れた。


「たいした用じゃないんだけどさ…」


 そう言いながら、ドアを閉めて体重を預けた。


「あんたは旅慣れしてるし、今更注意なんて聞き飽きてるだろうけど…」


 明日以降の話か…。


「そんな事はないです」

「うん…」


 ヴァネッサ隊長の歯切れがなんだか悪い。


「護衛任務って…いや、任務ってほどじゃないか…」

「付き添いという事ですけど、護衛であることは間違いないかと」

「うん…」


 ナミさんを一人で行かせるわけにはいかないという事で、わたしが抜擢された。



「一人なら何でもない状況でも、護衛対象がいるとできる事は限られてくるからね」

「はい」

「無理して歯向かうんじゃなくて、逃げる事も視野に入れるんだよ」


 わかってはいる。


 それは一人の時でも同じ。


 どう考えても不利な状況で、戦いに挑んだりはしない。


「はい。できるだけ安全策を取るつもりです」

「頼むよ。それから、ナミは魔法士って事を忘れないで」

「それはもちろん。彼女は、剣術も体術もできませんから…」

「そういう事じゃない」

「え?」


 違った。


 どういう事?。


「魔法で、戦闘を優位に立てる」

「そういう事ですか。でも、ナミさんは戦闘向きの魔法はそれほど…」

「使えないわけじゃない。脅したり牽制、陽動に使える」

「確かに…」


 さすがヴァネッサ隊長。

 

 わたしの頭の中には、この考えはなかった。


「戦闘向きの魔法じゃなくても、使えるのがあるかもしれない。よく話し合っておきな」

「はい」

「こんなもんかな…」


 彼女は腕を組み、顔を俯せて考える。


「あとさ…」

 

 顔を上げ、わたしを見る。


「あんたにだけ言っとく。ナミは言うんじゃないよ」

「はあ…なんでしょう?」

「嫌な予感がする」

「え?…」


 出た!。


 ヴァネッサ隊長の嫌な予感。


 今まで外れた事がない。嫌なもの。


「わたし達じゃなくて、シュナイツでは?また賊が襲撃してくるとか…」

「わかんない。わかんないから、気をつけて」

「わかりました」


 かなり用心したほうがよさそうね。


 ヴァネッサ隊長は、いつくか注意事項言ってから部屋を出て行った。


 シュナイツを出るのは一年以上ぶりだ。 


 今回は、今までとは違った旅になりそう。

 

 頭の中で色々想定しつつ、出発の朝を迎える。


 

 

 こんなに緊張して朝を迎えたのは初めて。


「ナミ」

「…」

「ナミ!」

「え?なんです?」

「大丈夫?」


 リサさんに呼ばれたのに気づかなった。


「すみません。色々考えちゃってて」

「まあ。考えちゃうわよねぇ」

「はい…」


 色々考えてはいたが、朝食だけは全部食べた。


 空腹は思考力が下がるらしいから。


 

 ベッキーとは挨拶を交わしただけで、一言も話していない。

 

 何か話なきゃって思うんだけど、何を言っていいのか…。

 



「おはよう」


 エレナ様とソニアさんがやって来る。


「おはようございます」

「準備が出来ていれば、そろそろ出発したい」

「出来てます」


 ソニアさんも準備が出来ていた。

 

 彼女の様子を見るに、緊張していないみたい。


 やっぱり慣れてるのかな。


 ちょっとかっこよく見えた。


 

 外にはウィル様やリアン様が、その他者達が結構集まっていた。


「一応、見送りって事になるでしょうか?」

「それ以外のなにものでもないわね」

「大げさすぎません?」

「そうね。なければないで、ちょっと寂しかったかも?」


 ソニアさんはそう言って、肩を竦める。



「気をつけて行ってこいよ」

「わかってる」


 ハンスさんがそう声をかけてきた。


 それを聞きつつ、広場の中央へ。


「ハンスさん。心配そうですね」

「いつも、あんな感じなの」

「そうなんですか」

「子供みたいでしょ?」


 ソニアさんが笑う。


 ハンスさんはソニアさんの彼氏。

 

 大好きな彼女の事を心配するの当然。



「行って参ります」

「気を付けて。無事に帰ってこれるよう祈っているよ」

「無理しちゃだめよ。命を最優先に」

「はい」


 ウィル様、リアン様と握手をする。


 その他兵士からも声をかけられた。


 随分と大事になってる。


 グレムさんから昼食までいただいて。


「わざわざすみません」

「朝食のあまりだ。期待はするな」

「そんな事…」


 私なんかより、ずっと料理がうまい。当たり前だけど。



 転移魔法のために、みんなが離れていく。



「では…リカシィに」

「はい。お願いします」

「いよいよか…」

 

 ソニアさんは、ちょっと笑顔。


 私は緊張で手に汗をかいてきた。


  

 エレナ様の杖の先端が光り、足元に魔法陣が広がる。



「待って!」

「ベッキー?」


 彼女が走ってこちらに来る。


 魔法が取りやめになった。



「どうしたの?」

「ごめん…これ…お願い」


 ベッキーから渡された物。


「手紙?」

「うん…ナミに頼まなくてもいいんだけど…」

「そんな事ないよ」


 私は嬉しかった。


 頼られた事と、ちゃんと親へ手紙をかいてくれた事に。



「ついででいいから」

「何言ってるの。ちゃんと届けるから。返事ももらってくるからね。必ず」

「返事はいいって…」

 

  彼女はちょっと嫌そうな顔をするけど、絶対に返事を貰ってくる。

  

「エレナ様。すみませんでした!」


  ベッキーは頭を下げて、すぐに離れていった。



「エレナ様。ベッキーの事、怒らないでください」

「わかっている。では、改めて」

「はい」


 足下に魔法陣が、再び広がる。


「転移開始」


 周囲が真っ白な閃光に包まれた。



Copyrightc2020-橘 シン


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