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ブレイバーズ・メモリー(3)   作者: 橘 シン


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46/77

26-2


 ソニアさんは、旅で怖い思いをしたという。


 でも、何でもなかったように話す。



 私は、ベッキーと一緒にシュナイツに来た。


 何事もなかったけど、怖くなかったかと訊かれたら、当然怖かった。


 

  ベッキーが、私を引っ張る形で行動していたと思う。


 小さい頃からそうだった。


 ベッキーの多少強引ともとれる性格で、あっちこっち行かされたっけ…。

 

 今思えば、危ない事をしていた。


 一歩間違えば、命の危険すらあった。 

 

 今こうして生きてるからいいんだけど…。


 

 今回、シフォーレンに行く理由は、治癒魔法を探すため。


 私が主導的な立場。

 

 ソニアさんは、あくまで付き添いで護衛という事だろう。


 特に護衛とは言ってなかったけど。

 なら、私がしっかりしなきゃ。


 私があれこれ迷っていたら、ソニアさんが困る。



「持ち物はできるだけ少ないほうがいいですよね?」

「ええ」


 彼女から必要な物を聞き、揃えた。



 次はシファーレンまでのルート決め。


「ここからリカシィまでは、馬ですよね。やっぱり」

「そうね。ナミさんは馬には乗れる?」

「いいえ…」

「そう」


 荷馬車に乗ってたから、馬の操作はできる。


 ちなみに、ベッキーは乗れる。



「二人乗りでリカシィまで行って、ギルドに預かってもらう」

「あーなるほど…」

「預けるのにお金がかかるけど」

「あー…」


 できるだけ出費は抑えて、シュナイツの負担にならないようにしたい。



「転移魔法でリカシィまで行くのはどうかしら?」

「転移魔法…エレナ様の?」

「ええ、もちろん」

「まだ未完成ですよ…。見ました?昨日の…」

「ええ。エレナ隊長とヴァネッサ隊長の脚が埋まってた」


 そう言ってソニアさんは笑う。


 笑い事じゃないんですが…。


 頭まで埋まったりとか、二階や三階のくらいの高さに転移したらと考えると恐ろしい。


「リカシィまで一気に行ければ、お金と日数をかなり省ける」

「そうでしょうけど…」


 エレナ様の事は信じてるけど…。


 でも、お金と日数を考えれば、背に腹は代えられないか。


「わかりました。エレナ様に相談してみましょう」


 私達はエレナ様の部屋へと向かう。


 

「エレナ様にリカシィまで転移魔法で送ってくれないかなと…」

「私は構わない。リスクがあるのは当然、わかっているでしょうね?」

「はい」


 ソニアさんも頷く。


「承知した」

「よろしくお願いします」


 エレナ様は引き受けてくれた。


「あなたには、無理難題を押し付けている。申し訳ない」

「エレナ様が謝る事はないです。治癒魔法が、非常に大事な魔法だとわかっています。ひいおばあちゃんも関わっていますし」

「ええ…」


 人事じゃないんだから。


「私にできる事なら何でもする」

「はい。ありがとうございます」


 エレナ様も、シファーレンに行きたいはず。

 

 だって、恩師がいるんだから。


 これまで、恩師であるシンシア・レーヴ様の事が講義中に何ども出てきた。

 

 レーヴ様の事をとても慕っていることがわかる話だった。


 そのレーヴ様がシファーレンにいる。


「エレナ様、あの…」

「何?」

「余計なお世話かもしれないんですが…もし、そのレーヴ様に会う事になるかもしれないので、言伝やお手紙があれば、お預かりしますけど…」

「…」


 エレナ様は一瞬、眉間に皺を寄せる。


 やっぱり、余計なお世話だったか…。


「すみません。出過ぎた言って…こ、これで失礼します!」

 

 私達は、部屋を出ていこうした。


「用意しておく…」

「え?」

 

 私は驚き振り返る。


 エレナ様の表情は特に変わってなかった。


「渡すなら、直接渡してほしい。必ず」

「直接ですね」

「ええ。人を介さずに」

「どうしてです?」


 ソニアさんが尋ねる。


「私はシファーレンで罪を犯している。罪人と繋がっていると、先生に嫌疑がかけられてはいけない」

「でも、もうかなり前の事ですよ。それでもですか?」

「ええ。もう昔の事で、大丈夫とは思うけど、一応」

「わかりました」

 

 注意しておこう。

 

「私達もエレナ様の名は出さないほうがいいでしょうか?」

「できるだけ出さないほうが無難だと思う。そう、あれを…」


 エレナ様はそう言いかけてから、机に向かう。


 その上にあった鞄の中に手を入れ、弄る。


「忘れるところだった…」


 そう言って取り出してもの。


「王都の魔法研究所の所長が、紹介状を書いてくれた」

「わざわざ…私達のためにですか?」

「よく書いてくれましたね」

 

 エレナ様の恩師と、こちらの所長は古くからの知り合いだという。


「私が、ヴァネッサやシュナイダー様と関係あるのも功を奏した。そのへんの魔法士なら、ハーシュ様に会う事すらできなかった」

「人脈がものをいったと」

「ええ。ありがたい事に。私自身の成果ではない」


 そうエレナ様はいうけど、エレナ様がヴァネッサ隊長に相談しなければ、今の状況はない。


 勇気が必要だったんじゃないかな。



「紹介状、お預かりします」


 無くしたら大変。気をつけないと。



「出発はいつ?」

「まだ、決めてなくて…ソニアさん、どうしましょうか?」

「準備は、今日中にできるし、行こうと思えば明日にでも」


 治癒魔法がなくなるわけじゃないけど、善は急げというし。


「明日、行きます」

「そう?」

「はい」

「わかった。ナミ、後でいいから、もう一度来て。写本の魔法を教える」

「はい。わかりました」


 写本の魔法は、少し難しかった。


 今は何でもないんですけどね。


 時間はなかったけど、少し練習しました。 



 次はウィル様に報告しないと。



「明日か…」

「なんか焦ってない?」

「そんな事はないです」


 私はリアン様に向かって首を横にふる。


「行くのは二人だから、そう決めたのなら口は出さないよ」


 ウィルがそう話す。


「それから旅費なんだけど…これを持って行ってくれ」

「これは?…」

 

 紙切れ一枚を渡される。


 金券と呼ばれるものらしい。


 なんか模様がいっぱい。


「リカシィのギルドに行って換金してもらうんだ。金券に書かれているお金が貰える」

「へえ…」


 金券には五万と書かれていた。


「ご、五万って、か、書かれてますけど!?」

「書かれれるわね」


 ソニアさんが冷静に金券を見る。


「うん。それくらい必要じゃない?」

「必要ですか?」

「必要だと思うよ。シファーレンの都まで行くかもしれないってエレナが言っていたから」

「ある程度は日雇いで稼げます。もっと少なくても大丈夫かと」

「そ、そう思います」


 ベッキーとやったことはある。あまりもらえなかったけど…。


 ソニアさんはそのへん詳しそう。


「あらかじめ持っていけば、日雇いする必要はないし、日雇い分の日数を節約できる」

「そうですけど…」


 その通りなんだけど、すごい負い目を感じる。


「余ったら返してくれればいい」

「もちろん、お返しします!」

「なら、持って行ってくれ」

「結構、大変な旅になるそうよ。頑張って頂戴」


 ウィル様とソニアさんは長期の旅は経験済み。


 その経験とエレナ様の情報から、大変だろうと予測していた。


「二人とも長旅は、初めてじゃないから大丈夫だと思うけど、何かあるかわからないからね。金銭に余裕があれば、他の事に気を回せる。僕の経験上の話だけど」

「わかります。なんとなく…」


 私は、シファーレンからシュナイツに来た以外の長旅はしていない。


 常にお金に困っていたのはよく覚えている。


 あるに越した事はないし、できるだけ使わなければいいだけ。


「ありがたく使わせていただきます」

「うん。頑張ってくれ」

「はい」


 金券は二重の革袋に入れられる。ウィル様とリアン様のサイン入りの証明書とともに。


 準備は着々と進んでいった。



Copyrightc2020-橘 シン


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