25-19
発光している魔法陣
「え?」
ナミの手元を覗き込む。
「いける!いけるよ」
「レベッカ静かに」
「はい…」
ナミはレベッカの言葉に動揺することなく、魔法力を注いていた。
少しづつ発光が強くなっていく。
「ナミ。魔法陣をヴァネッサの手の平に近づけて」
「はい」
彼女は魔法陣を、手の平の傷に近づける。
すると、ヴァネッサの出血量が減っていく。
はっきりとわかるくらいに。
「すご…」
皆がその様子に息を飲む。
「ヴァネッサ、あなたに異変や違和感はある?」
「なんとなくむず痒いかな」
「そう。痛みは?」
「今のところない。っていうかすごいね」
「ええ」
治癒魔法によって、ヴァネッサの出血は完全に止まる。
ナミは治癒魔法が使える。それが確定した。
「止まったよ」
ヴァネッサが手の平を全員に見せる。
当然ながら、傷口は残っている。
「ふう…」
ナミが大きく息をはく。
「大丈夫?」
「大丈夫です」
彼女は笑顔で答える。
そこには不安気なナミはいなかった。
「魔法力はどの程度使った?」
「そうですね…十分の一くらいなかと、もう少し少ないかも…」
「意外に消費する」
初めての魔法だからそれくらいでも不思議ではない。
そもそもナミの魔法力の量自体が少ない。
「あ、また出てきた…」
ヴァネッサの傷口から血がにじみ出ている。
しかし、血の出方が少ない。
「え?失敗?」
「いいえ、違う。この魔法はあくまでも一時的なものと推察する」
「あたしもそう思うよ。こんな簡単に止まるなんて、便利すぎでしょ」
そう言って笑う。
「何かしらの、デメリットはある」
「世の中そううまくはいかいないことだね。ともかく…ナミ、やったね」
「はい!」
ナミは少し涙を浮かべる。
「傷口を塞ぐ方もやってみて」
「はい」
「できなかったら、今日はもいいから」
「大丈夫です。やってみせます」
ナミは自信を持って頷く。
彼女は早速、魔法陣を作り魔法力を注ぐ。
その動作に自信が見てとれた。
先程よりも魔法の発動が早い。
「なんとなくわかってきたと思います」
「コツを掴んだ?」
「コツかどうかわからないんですけど、気持ちの入れようなのかなと」
「そう」
「やっぱ、あたしの言ったとおりじゃん!」
エデルが何か言いそうなるが、ため息を吐くだけでやめた。
ナミが魔法陣を、ヴァネッサの傷に当てる。
「傷が塞がったいく…」
「これが治癒魔法…」
私は言葉出なかった。
止血より衝撃的。
「ヴァネッサ。違和感は?」
「ちょっと痛いね」
「我慢できないくらい?」
「いや、我慢できる痛さだよ。まあ、傷は縫う事もあるし、この程度の痛みなら、全然平気」
「それ、隊長だけだと思います」
竜騎士になる前から、切った縫ったを繰り返してきた彼女だからこそ言える。
ヴァネッサの傷が完全に消えた。
「痛みはまだちょっと残っているけど、完全に塞がってる」
「ちょっと見せてください」
全員がヴァネッサの左手を覗き込む。
「マジすご…」
「傷跡が薄っすら残っている?」
「ああ。だが、問題にならねえよ。十分過ぎる」
ヴァネッサも自分の手を見つめたり、触ったりする。
「不思議なもんだね…。こんなに早く治るなんてさ…」
何か夢を見てるような気分。
「デメリットは、痛みがあるくらいでしょうか?」
ソニアがそう訊いてくる。
「分からない。今のところ、それくらいしか確認できない」
「今知ったばかりだしね」
「ええ」
そう今知ったばかり。
ここがスタートである。
「ナミ」
「はい」
「あなたは治癒魔法が使える」
「はい」
彼女はしっかりと頷く。
「この治癒魔法は、先程も説明したけど扱える者は非常に少ない。今確認できるのは、あなたとあなたのひいおばあさんだけ」
「カレンおばあちゃんはもういないし、現状私だけですよね」
「ええ」
大々的な調査をすれば、ナミ以外にも見つかると思う。
が、今すべき事ではない。
「私は王立の研究所から依頼を受けてきた」
「依頼?」
「あなたが治癒魔法を扱え、カレン・カシマ氏の身内ならば、治癒魔法について調査をせよと」
「調査ですか…」
「ナミ。あなたに、その調査を頼みたい」
「え?…ええ!?」
ナミだけでなく、ヴァネッサ以外の全員が驚く。
「ちょ、調査と言っても、どうすればいいのか。いや、そもそも私じゃなくて、エレナ様がすべきでは?」
「できればそうしたい。しかし、治癒魔法についての資料がある可能性は、シファーレン」
「シファーレン…あ…なるほど…」
私はシファーレンには行けない。
となると、ナミを行かせるしかない。
「カレン・カシマ氏は魔法の研究書を残しているはず。あなたの実家に、ひいおばあさんの遺品はない?その中に、本や書類の類は?」
「カレンおばあちゃんのですか…」
ナミは考え込む。
「分かりません…。カレンおばあちゃんが死んだのは、私が五才くらいの時でしたし…捨てたか、燃やした可能性も…」
「そう…」
魔法に詳しい者でなければ、不要品と考えて当然である。
「ねえ。ナミ」
「なに?」
レベッカがナミに話しかけた。
「カレンおばあちゃんの部屋さ、残ってなかった?」
「あー。部屋じゃなくて、離れだよ。でも、物置部屋になってる」
「物置…」
「元々はカレンおばあちゃんのだったんです。取り壊すは勿体ないからって物置に…」
使われない離れを有効活用するならそうするか…。
「その離れにある、ひいばあさんの私物はどうしたの?」
ヴァネッサがそう尋ねる。
「そのままだったと思います」
「私物の種類は?」
「えっと…机とか、服が入っていたタンスとか」
「本棚は?」
「本棚ですか…あったかな…」
「入った事あるんでしょ?」
「ありますけど、物置部屋なった後ですし、物で溢れて…」
「そう」
今はもう、単なる物置小屋。
「後は、シファーレンの王立研究所になる」
「もしかして…そこにも私が?」
「ええ。行ってきてほしい」
「無理ですよ。レベッカと行って、門前払いにされたんですよ」
「カレン・カシマ氏のひ孫と分かれば話を聞いてくれる」
「まさか…」
確実に興味を示すはず。
それにシンシア先生が、放っておくはずがない。
「それで、カレン・カシマさんの魔法書をもらってこいってかい?」
「いいえ。貰う必要はない」
「貰うわずにどうすんの?見るだけ?覚えてくるのは、さすがに無理でしょ」
「写本の魔法を教えてもらってきた。それで写本する」
「許可が出ればの話ね」
「ええ」
ここまで話。
ナミがカレン・カシマ氏のひ孫で、治癒魔法が使える以外に、確定情報は何一つない。
「廃れてしまった治癒魔法が、復活する。ナミ、あなたがその鍵」
「私が…」
「あなたにしかできない。あなた以外に適任者はいない」
無理難題を言っているのは、自覚している。
行けるものなら、私自身が行っている。行くな、と言われても。
「まあ、とりあえずはナミが治癒魔法を使える。これがわかったでも成果になるんじゃない?」
「それは、まあ…」
「今日のところはこれで解散」
ヴァネッサがそう話す。
「まだ、終わっていない」
「明日以降でいいでしょ?カレン・カシマの研究書があるかどうはわからないんだし」
「わからないから、ナミを調査に…」
「本人は今日知ったばかりなんだよ。それだけも大変なんじゃないの?それに加えて、いきなり研究書を探して来いって酷じゃない?」
「そうだけれど…」
「あんたは、魔法の事となると、突っ走る癖があるよ」
「…」
そんなつもりは…。いや、かもしれない。
身勝手極まりない行動で、国外追放になった。
ここは引くべきだろう。
「ヴァネッサ。あなたの言う通り。自分勝手過ぎた」
「夢中になって周りが見えない事って、誰にでもあるよ」
「ええ…」
話はここで終わり、隊員全員を兵舎へと帰す。
「さてと…」
ヴァネッサは椅子に座る。
「ナミには重荷かな?」
「だけど…」
「あの子一人に任せるのは大変だよ」
確かに責任重大だ。
「では、どうすれば」
「付き添いをつけたたら?」
「付き添い?」
彼女はそう言って、ソニアを見る。
「ソニア?」
「わたしですか?」
「あんたも行きたくない?」
「そんな事はないですけど…」
ソニアは言い淀む。
「どうしたの?」
「いえ、別に…」
「シュナイツを出たくて、うずうずしてたんじゃない?」
「言い方に棘、ありません?」
「隠したつもりだったんだけどねぇ」
「あはは…」
ヴァネッサの言葉に、ソニアが苦笑いを浮かべる。
「禊ぎが済んだと思うよ」
「そうですか…」
「しょっちゅうシュナイツを空けてたあんたが、こんなに長くいるし」
「我慢してたわけじゃないです」
「そう?」
「目的がなくなったので」
「目的ね…」
ソニアは自分の父親を探しすために、出掛けた。
だが、それは判明し行く理由がない。
「わたしは構いませんけど、シファーレンならレベッカでもいいのでは?故郷ですし、土地勘もある」
「レベッカでもいいんだけど…落ち着きなさそうだしねぇ」
確かに感情的になる部分はある。
「レベッカはここで訓練させたい。治癒魔法の件には無関係だから。ソニアは構わないと言っているから、彼女に任せたい」
「そうだね…護衛役も兼ねて…」
ヴァネッサの表情が優れない。
「あたし、なんか嫌な予感がするんだよね…」
「あなたが、嫌な予感などと言うから、あのような事態に…」
「それまだ言うの?予見したんだから、むしろ感謝されるでしょ?」
「行けせたあんたに、責任があるんじゃない?」
「ええ。わかっている」
「元を辿れば、あんたが転移魔法を知らなかったから、こうなったわけだし」
「否定はしないが、それを言うなら知らなかったから、治癒魔法に出会えた」
「お二人とも、もういいじゃないですか。私はたいした事なかったので」
「ナミは優しいねぇ。エレナを庇う必要ないのに…」
「ええ。あなたようなガサツな性格ではないから」
「言ってくれるねぇ。今日は随分とつかかってくるじゃないの?」
「なんなら、一戦交えてもいいよ」
「な、何言っているんですか?一戦交える意味が…私の怪我はたいした事なかったんですよ?」
「笑止。魔法には勝てない」
「はん!そうかい?やってみなくちゃわかんでしょ。あんたの魔法を近くで見てきたからね。手の内は知ってるよ」
「そう。では、外へ…」
「あいよ」
「ヴァネッサ隊長もエレナ様もやめてください!ソニアさんも止めてないと!」
「大丈夫。ほどほどのところで、誰かが止めに入る」
「そうでしょうけど…」
「次はわたし達二人がメインの話だし、ちょうどよかったでしょ?さあ、始めしょう」
「…」
エピソード25 終わり
Copyrightc2020-橘 シン




