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ブレイバーズ・メモリー(3)   作者: 橘 シン


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25-16


「ヴァネッサが来ました。時間のようです」

「もう?もう少しお話したかったわ…」


 ハーシュ様は残念そうにため息を吐く。

 

 普段は、研究よりも所長としての仕事ばかりで楽しくないらしい。


 今日は特に予定は入っておらず、暇だったという。



「エレナ、そろそろ…」

「ええ」


 私は立ち上がる。



「ヴァネッサ。もう少し居れないの?」

「すみません…」

「昔話ができるのは、あなたぐらいよ」

「ヒルダ様がいるでしょう?」

「嫌よ」

 

 ヴァネッサが言ったヒルダ様とは、ハーシュ様のご親友らしい。


「交換訓練でまたこっちに来ますから、その時に」

「絶対よ」

「はい」


 ハーシュ様は時々、失礼ながら子供のような発言をする。


「エレナが、転移魔法を完成させてくれたら、頻度はもっと上がるかもしれません」

「そうね。可及的速やかに完成させてほしいわ」

「…善処します」


 二人からの圧力がすごい…。



 私は鞄を背負う。


「あんたは、何をもらったの?」

「私は何も上げてないわ」


 二人は不思議そうな顔をする。


「鞄の中身は、ノアール様にいただいたものです」

「ノアール?」

「古書店の店主…いえ、店主じゃなくて店主の祖父」

「そう…」

 

 ヴァネッサは、よく分からないといった表情だが、ハーシュ様は口を押さえていた。


「まさか…あまり公言できないものね?」

「お察しの通りです」

「私は聞かなかった事にします。くれぐれも取り扱いに注意してください」

「はい。私しか開けないように魔法を施しありますので、ご安心を」

「そうですか…」


 例え、中を見たとしても、簡単に扱える魔法ではない。

 

 強力な魔法は、多大な魔法力を必要とする。


 限界突破を二度した私でも、手に余るものだ。使う気はないが。


 この本は、禁忌魔法を扱うためものではなく、禁忌魔法の分析を研究したもの。

 用途が違うの。


「ヤバいものなんだね」

「ええ。非常にヤバい」

「あたしも忘れるよ」


 その方が利口である。



「それじゃあ。ファンネリア様、失礼します」

「色々とご教示いただきありがとうございました」

「あなたの目的に叶ったものではないでしょうけど…」

「そんな事は決してありません。ハーシュ様とお話しをしただけでも、非常に有意義なものでした」

「なら、良かったわ」


 ハーシュ様は笑顔で頷く。


 転移魔法については、根本からやり直ししなければいけないのかもしれない。


「二人とも元気で」

「ハーシュ様もお体にはお気をつけてください」

「ええ。ありがとう」


 ハーシュ様とは所長室まで別れた。


 

 私を案内してくれら事務官が、また城門まで誘導する。


「これ返す事になってんだけど…」


 ヴァネッサは、首から下げたいる木札を見せた。


「警備部でもらったものですね。なら警備部へよってか、城門です」

「あんたから返せないの?」

「返却のサインをしないといけないので」

「そう」


 遠回りになるがしかたない。


 警備部によってから城門へ。



「世話になったね」

「ありがとう」

「いえいえ。礼を言われる事はしてません。仕事ですから」


 彼女はなんでもないように話す。


 彼女の仕事は問題はなかった。


「ロマリーによろしく」

「はい。伝えておきます」


 城門の通用口で、彼女と別れる。



「シェフィールド様!」

「あ?」


 衛兵が突然、叫ぶように近づいてきた。あの衛兵は…。


 ヴァネッサはあからさまに顔を顰める。


「先ほどは失礼しました!」

「もういいから…」 

「心を入れ替えて、頑張ります!」

「はいはい…頑張りな。じゃあね」


 彼女は、兵士の言葉に意に介さず足早に城門から離れた。



「あの衛兵と何かあった?」

「別に…。シュナイツから来た竜騎士だって、言ったら笑って…」

「あなたを知らなかった?」

「だからって笑うことないでしょ?」


 全くと、ヴァネッサはため息を吐く。


「さっさと帰ろう。空が赤くなり始めたし」

「もう一つ寄るべき所がある」

「まだあるの?」

「私じゃない。あなた」

「あたし?あたしはもう寄る所はないよ」


 やはり忘れていた。


「マリーダさんの所に行くべき」

「あー」

「私は行った」

「ああ、そう…でも、もう時間が…」

「あなたも来てると教えたら、何はともあれ友人に会うべきと、怒っていた」

「遊びに来たわけじゃないんだけど…」


 確かに遊び来たわけでない。

 が、忙しくて切羽詰まっているわけでもない。


「来なかったら、もう手紙は送らない、と」

「え?」

 

 ヴァネッサは、腕を組み唸る。


「顔を出しておいたほうがいいか…友人は大事にしとくべきだよね」


 と、いう事でマリーダさんの店による事になった。



「マリーダ!いる?」


 店の中に客がいたが、お構いなしに入っていく。


「ヴァネッサ…」

「おひさ。近くまで来たから、顔を見に来たよ」

「近くまでね…」

「という事にしといて。悪気はないんだから」

「今回は許しましょ」


 マリーダさんは特に怒りはしなかった。


 お互いに近況を話す。


「新しい制服。メイド達が喜んでたよ」

「そう?よかった」


 

 まだ客がいるのと、時間がない事から短時間の滞在となった。


「今度はいつ会えるかしらね」

「それはエレナしだい」


 そうやって圧力をかけるのはやめてほしい。


「大変ね。あなたも」

「ええ、まあ…」


 しかたない。こればかりは。



「ウィルとリアンによろしくね」

「ああ。それじゃあ、悪いけどこの辺で」

「ええ。体に気をつけて。エレナも」

「はい。では…」


 マリーダさんの店を出る。


 

 城下町を出て、転移魔法を使うために、出来るだけ人気がない場所を探す。


「転移魔法は、結局進展なし?」

「ええ」

「古書店は?」

「何もなかった」

「そう…」


 研究は続ける。


 あともう少し。

 

 必ず完成させる。多分…。



「それよりも、重要な情報を手に入れた」

「重要?」

「ええ。ナミの成長が遅い原因が判明した」

「本当かい?」


 かなり重要な案件である。


「まだ確定ではないが、ナミは治癒魔法が使える可能性が高い」

「治癒魔法?」


 ヴァネッサに治癒魔法について説明する。


「ナミがね…本人はわからなかったの?」

「本人は、治癒魔法のちの字も知らない。そもそも治癒魔法を知ってる魔法士じたいが皆無に等しい」


 早く帰って確認しなければ。

 


「この当たりで」

「あいよ」


 転移魔法を準備する。


「今度はどうなるかな?」

「どうなってもいいように心構えをよろしく」

「それ、あんたもだよ」

「わかっている…。では、転移開始」


 

 今度は…。


「どうすんのこれ…」


 膝から下が地面に埋まっていた。


「問題ない…」

「いや、あるでしょ?」


 この程度なら、魔法で簡単に抜け出せる。


「隊長…。大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃないって」


 魔法で地面から抜け出す。


「申し訳ない…」

「いや。話のネタにできるから」

「ネタ…」

「転移魔法が完成したら笑い話にできるでしょ?」

「…納得いかない」


 馬鹿にしているのか、励ましているのか。


「夕食がてらに報告だね」


 もうそんな時間になっていたとは。


 

 多目的室にいつもの仲間が集まり、夕食となる。


「お疲れ様。二人とも」

「あたしはどうってことなかったけど、大変だったのはエレナじゃない?」

「ええ。色々と…」


 今日の経緯を報告する。



「転移魔法の情報は得られなかったのか…」

「何で教えてくれないわけ?」


 リアン様はご立腹。


「という事は…進展なしか。どうするんだ?」


 ライアがそう訊いてきた。

 

 どうもこうもない。

 

 研究を続けるしかない。


「転移魔法については、研究は続けるものの、完成はいつになるかわかりません。申し訳ありません…」

「謝る必要はないよ。元々期限は決めていなかった。転移魔法が便利な物だけど、ないと生きていけないわけじゃない。君のペースで構わないから」

「はい。ありがとうございます」


 ウィル様は優しい。


 急かすような事は絶対にしない。


 それに甘んじてはいけない。


 早く完成させないと。



 禁忌魔法については話さなかった。

 

 公言する事ではないし、話が広がり不安を与える恐れがある。



「ナミが魔法士としての成長が遅い原因に見当がつきました」

「本当?」


 ウィル様達に治癒魔法を説明する。


「治癒魔法を使うには、治癒魔法に特化した魔法力が必要と」

「はい」

「そいつは、早く確認したほうがいいよ」

「ええ。夕食後、すぐにナミを呼ぶ」


 ナミが治癒魔法使えるとなれば、やらなければいけない事がある。


 

 シファーレンへの派遣である。



Copyrightc2020-橘 シン

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