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ブレイバーズ・メモリー(3)   作者: 橘 シン


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25-10



 私は、兄の自宅を出て、西の城門へと急いでいた。


 まさか兄が結婚していたとは…。

 

 手紙すら送らない兄に呆れる。


「彼女が兄の妻という事は…義理の姉という事になる」


 親族が増えた?。


 今度、話すと約束したが、何を話せばいいのやら…。


 悩み事が増えた。


 とりあえず、兄達の事は忘れよう。頭が持たない。



 西門付近。


 衛兵が数人いる。


 私は立ち止まり様子を伺う。


 ヴァネッサは、話しておくと言っていたが、大丈夫だろうか?。


 下手をすれば、拘束され牢屋行き。

 だが、ただ立っているわけにもいかない。


 意を決し衛兵に近づいた。


「すみません」

「なんだ?」

「お城にヴァネッサ・シェフィールド、という人物がいると思うので、取り次いでいただけませか?」

「ヴァネッサ・シェフィールド…」

 

 何故か衛兵が、みるみる青ざめていく。


「先輩!ヴァ、ヴァネッサ・シェフィールドさん…様の知り合いだって言ってます!」

「しっかりしろ…。失礼しました」


 先輩衛兵は頭を下げる。

   

「いいえ」

「所属とお名前を」

「シュナイツ領から来た魔法士、エレナ・フォートラン」

「エレナ・フォートラン様…」


 先輩衛兵は何か紙を見ている。


 その横で後輩が直立不動。


 私と目すら合わせない。


「連絡は来てます」

「そうですか」


 よかった。

 

「迎えを呼びますので、少々お待ちを。おい、サインを送れ」

「はい!」


 返事は良いが、サインを送る手振りがぎこちない。


 さほど待つ事なく迎えが現れる。


 

 迎えに来たのは、魔法士ではなかった。

 

「はじめまして。エレナ・フォートラン様。わたしはシィナ・アシェットと申します。事務官です」

「はい。どうも」

「ヴァネッサ隊長からお話は伺っています。こちらへ」


 案内されるまま通用口を通り中へ入る。



 大きな堀に橋を渡しある。そこ歩く。


 シファーレンにも城、宮殿はあるが、ここまが大きくはない。


「剣、ナイフ等の持ち込みはできません。お持ちでしたら、この先の預かり所で、必ず預けてください」

「はい。あの本と魔法の杖は?」

「本は大丈夫だと思いますが、確認をさせてください。杖は大丈夫です」

「わかりました」


 杖はあくまでも補助でしかない。なくても支障はない


 

 預かり所で本を見てもらう。


「大丈夫ですね」


 おそらく古代語が読めていない。


 読めていれば、これが超重要な魔法書である事がわかるはす。

 道士様から返却の頼まれた禁忌の魔法書も問題なし。



「こちらです」


 事務官の案内され、研究所へ。


「少し距離がありますが、ご了承ください」

「はい」


 城内は事務官、使用人、兵士がたくさん行き交っている。

 

 魔法士姿はほぼない。



「研究所には何名ほどの魔法士が所属していますか?」

「百名くらいだったかと。すみません、詳しい人数までは…」

「そうですか」


 シファーレンよりも少ない。やはりと言うべきか。

 

 シファーレンの研究所には、その倍はいる。



 迷路のような城内を歩く。


 迷ったら遭難しそう。



「ここです」


 二階建ての大きな建物。


 奥にさらに何かまだ建物がありそう。


 受付で名前を記入。許可証なるものをもらう。


 建物の中に入っていく。


 当たり前だが、行き交う者達はほぼ魔法士。


 私を何者かと見てくる。



 二階に上がり奥へ。


 ドアに、ファンネリア・ハーシュ所長 と書かれている。


 いよいよか…。


 汚れていないか、身なりを確認。


 着古した感が否めない。正装を作ったほうがいいかもと思った。



 事務官が少しドアを開け確認している。


「どうぞ」

「失礼します」

 

 私は所長室へと入って行った。 



 控え室を抜け奥へ。


 事務官の後を行く。


「ハーシュ所長」


 私は鞄を下ろす。


「エレナ・フォートラン様をお連れしました」

「ありがとう。どうぞ、中へ」

「失礼します」


 戸口で立ち止まり一礼。


「鞄は私が持ちますから」

 

 事務官が小声話す。


「ありがとう」


 

 ハーシュ様が立ち上がり、こちらに来る。ヴァネッサも一緒だ。


 私からも近づく。


 ほぼ部屋の中央で対面。


「は、はじめまして。エレナ・フォートランと申します」

「はじめまして、エレナ・フォートラン。ファンネリア・ハーシュです。ここの所長を努めさせております」


 柔らかな笑顔、やさしい雰囲気。

 なのに、威厳や貫禄も感じる。


 どことなくシンシア先生に似てる気がする。


 魔道士となるには、こんな雰囲気ではならないのか。

 ならば、私は到底成し得ないだろう。


 

 ハーシュ様が、右手を差し出す。

 私も右手を出し、握手する。


「なるほど。わかりました」


 ハーシュ様がそう話す。


 一瞬、何がわかったのか不思議に思ったが、すぐに思い当たった。


「二度の限界突破をしてというは本当のようですね」


 何でだろう。


 すでに知ってる話しぶりだ。


「あんたの事は、もう話してあるんだよ」

「そう」


 そうだったのか。


 ヴァネッサが耳元に顔を寄せる。


「不祥事の件も」

「え?」

「ごめん。話の流れでどうしても…」

「事実だから構わない」


 どうせ、話すつもりだったし。多少は気が楽だ。



「ファンネリア様。あたしはこのへんで失礼します」

「あら、もう?」

「隊長と交換訓練の相談をしないといけないので」

「そう。わかったわ」


 あたしも、もう少し話していたかった。


「エレナの事、頼みます」

「ええ」

「エレナ」

「はい?」

「あんたは大丈夫だと思うけど、失礼のないようにね」

「それは十分にわかっている」

「そう。じゃあ後で、迎えに来るから」


 ヴァネッサは丁寧に頭を下げ部屋を出ていく。


 

「こちらに座って」

「はい」


 ソファに案内される。


 鞄を持ち、ソファへ。


「昼食はお済みかしら?」

「はい」

「そう。なら、お茶のほうがいいわね」


 メイドが来て紅茶の入ったカップを出していく。



「ヴァネッサと一緒に行動していなかったようだけど、どこに寄って来たの?」

「はい。外町の古書店と兄の所に」

「古書店?」

「魔法に関する書物がないかと…」

「魔法…もしかして転移魔法?」

「はい」

「そう」

 

 ハーシュ様は、笑顔で頷く。


「ヴァネッサから聞いてます。転移魔法を完成させる事ができないと」

「その通りです。あと少しなんですが、どこをどうすればいいのか…」

「完成目前で足踏みする事は、珍しい事ではないでしょう?」

「はい」

「諦めてしまってはいけないわ。そこで終わってしまう」


 シンシア先生も同じような事を言っていた。



「最初に言っておきます」

 

 ハーシュ様の表情が真剣になる。


「転移魔法に関して、私から助言はしません」


 会って早々、突き放される。


「ヴァネッサから、あなたの経歴は聞いてます。とだけ言えばわかるかしら?」

「はい」


 転移魔法を知らないのは、私自信の責任。


 他人に頼るのは、持ってのほか。


 ここに来た理由の一つが消えた。


 

「古書店に魔法士がいなかったかしら?」

「はい。いました。インバス・ ノアール道士様が」

「やはり…」


 ハーシュ様がため息のようなものを吐く。


「若い魔法士と研究所に戻る、戻らないと言い争いに遭遇しました」

「そうですか…お断りしていました」

「そのようですね」


 ハーシュ様は、ノアール様が魔法をほぼ使えない事は知っており、それでも知識や経験を、後進に伝えてほしいと考えていた。



「本人が嫌だというなら仕方ありませんね」


 ハーシュ様の願いは届かないようだった。



Copyrightc2020-橘 シン


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