25-7
騎士長の所へ向かう途中。
「城内を自由に歩ける許可、もらえません?」
「交換訓練の話なら、歩き回る必要はなくないか?」
「他も会いたい人がいるですよ」
「誰だ?」
「ファンネリア様と…できれば、クローディア様も」
「普通に会おうとするなよ」
隊長は呆れる。
「色々と事情あるの」
「わかったよ…それも騎士長に頼め。お前自身でな」
「はいはい。で、今の騎士長って誰?」
「今の騎士長はな…」
「会ってからのお楽しみということで」
ロキが割って入る。
「今言ったっていいだろ?」
「いやいや。今の騎士長とヴァネッサ隊長は…昔」
「昔…」
「忘れちゃいましたか?」
ロキが隊長に耳打ちした。
「誰なの?」
「あー、あったな、そんな事」
「ね?」
「だから、誰なの?」
「確かに、会ってからのお楽しみだわ」
そう言って、隊長とロキが意味深な笑顔を見せる。
一体、誰なの。
あたしは面識あるみたいな話しぶりだし。
結局、教えてくれなくて騎士長室に到着。
騎士長付事務官が応対する。
「騎士長はおられるますか?」
「はい」
「お時間は取らせまんので、面会願いたい」
「わかりました。少々、お待ちください」
事務官は、隊長と話している間、あたしをチラチラ見てた。
「さて…感動のご対面となるか」
「血の雨が振るか!」
「あんたたちね。あたしで遊ぶんじゃない」
事務官が帰ってきた。
「どうぞ。お入りください」
許可が出て、中へとおされる。
「失礼します!」
三人並んで、敬礼する。
「は?」
「フヒヒ…」
「あれは、二番隊の隊長でしょ?」
向こうもあたしを見て、口を開けたまま驚いてる。
深き森でウィルに話した賊の強盗、放火事件。
あの時、切り込み役を巡って言い争った。
あれは、あれで終わった話で、その後は特に何もない…遺恨はないはず。
騎士長は、若干わざとらしく咳払いをし、手招きする。
無駄とも言える騎士長室を歩き机の前へ。
近づく間、騎士長はずっとあたしを見ていた。
「ロキ、あんた先行きなよ」
「どっちでもいいでしょ」
「あたしは、正規の竜騎士じゃないんだから」
「知らない仲じゃないし、気にしすぎでは?」
「気にしなさすぎなんだよ、あんた」
「いい加減にしろ!おれの評価に関わる」
「はい」
机の前で、もう一度敬礼。
「お忙しいところ申し訳ありません」
「別に忙しくないから、構わん」
「はい」
「で、何の用だ?珍しいやつが一人混じってるが」
そう言って、椅子も背もたれに体重を預けた。
「ヴァネッサ」
隊長に呼ばれ、前に出る。
「お久しぶりです。ヴァネッサ・シェフィールドです」
「ああ、久しぶりだな。何年ぶりだ…」
「さあ…」
隊長に注意されたが、実際分かんない。
「ふっ…」
騎士長は小さく笑るだけ。
「まあいい。で、用件は?」
「はい」
あたしは交換訓練の依頼をする。
「…というわけなんですが」
「うむ、なるほど…」
と言って、腕を組み考え始めた。
あたしたちは待つしかない。
詳細を話している時、あまりいい反応じゃなかった。
だめか、こりゃ…。
「どうかお願いします」
あたしは一歩下がり、頭を下げる。
「ヴァネッサ隊長…」
「お前…」
頭を下げるだけで、交換訓練ができるなら安いもんだ。
「頭を上げろ」
「…」
あたしは上げなかった。
「まだ何も言ってないぞ。とりあえず頭を上げろ。話ができないだろう」
そう言われて、あたしは頭を上げた。
「いいんじゃないか」
「え?いいんですか?」
あっさり了承される。
「断る理由は、今の所ない」
「ありがとうございます」
「スケジュールはこっちに合わせてもらいたい。いいか?」
「はい。わかりました。シュナイツはいつでもいいです」
「わかった。後は一番隊と話しあえ。いいな」
「はい」
隊長が敬礼する。
「最終的に精査して許可を出す」
「予算とかは?…」
「当然一番隊から出す」
「ですよね~」
「できるだけ節約してくれ」
「はい…」
王国もお金がないのかね。
「用件が終わったんなら…」
「もう一つだけ」
「なんだ?」
「城内を自由に歩ける許可をください」
「何故だ?これで終わりだろ?」
「いえ。会いたい人がいまして…友達とか…」
ロマリーには迷惑なっちゃうと思うけど、ごめん!。
さすがに、ファンネリア様やクローディア様の名は出しづらい。
「余裕だな。お遊び気分とは」
「そういうわけではありません。会いたいのは親友ですし」
「…わかったよ」
そう言って、紙を取り出し何かを書き始める。
「シュナイツ襲撃の件だが…」
「あー、はい」
「大変だったな。報告書を読ませてもらった」
書き終わった紙を受け取った。
「申し訳ありません。六番隊に救援をお願いしまして…」
「おの状況なら、仕方がない。多分、同じ事をしたんじゃないかな。な?」
「自分もしたと思います」
隊長が頷く。
「え?隊長も報告書を?」
「読んだよ。汚ったねえ書き殴りのやつをな」
「嘘でしょ…」
「おれも読んでますよ」
竜騎士ほぼ全員が読んでるらしい。
「陛下付補佐官に出すもんじゃないぞ」
「あはは…」
そうなんだけど、クローディア様とは知らない仲じゃないから…いいかなって。
「リカシィより北に竜騎士を常駐させる件。私も賛成したんだが…」
騎士長は賛成だったのか、ちょっと驚いた。
「反対意見のほうが多くてな」
「常駐する竜騎士は各隊から持ち回りでってなったら、ああだこうだと…」
「要するに面倒だと」
怒りが湧いたが、ここは我慢した。
怒りをぶつける先は、騎士長ではない。
「何かできる事があれば、相談に乗る。連絡をくれ」
「はい。ありがとうございます」
騎士長にできる事ね…。
そう言ってくれるだけで、多少は気分的に楽になる。
「さあ、終わったんなら出ていってくれ」
追い払うのように、手を降る。
「そんな邪険しなくても…」
「お前の顔見て、昔の嫌な気分を思い出した」
「もしかして、あの件、まだ根に持ってます?」
「あの件?」
「切り込み役ですよ」
「あー…あれは別にもうなんとも」
あれじゃないのか。
「昔の自分が、くだらない事で威勢を張って、対抗心むき出しで…って、いいからもう行け。行ってくれ」
騎士長は机を叩く。
「再会を祝して、紅茶で乾杯します?」
「ふざけるな…さっさと行け!拘束して牢屋に入れるぞ!」
「了解しました」
敬礼し、騎士長室を出る。いや、追い出された。
「許可証って、どこ行けばいいんだっけ?」
「警備部じゃなかったか?」
「多分、そうですよ」
場所は覚えてないな…。
「ロキ、あんた分かる?」
「はい」
「じゃあ、案内して。隊長、後で隊長室行きます」
「後って、話し合いするじゃないのか?」
「急いでるわけじゃないんで、許可は出たからとりあえずは…」
「あーこっちのスケジュールに合わせるって話だしな」
「すみません。交換訓練以外に、会わなきゃいけない人がいるんで、そっち先に」
「わかった。ロキ、お前は案内が終わったらすぐ帰ってこいよ」
「わかってます」
隊長とはここで別れて、警備部へ。
「あんたはまだ、班長なんだね」
「ええ、まあ…」
本人は、もう一つ上へ上がりたい気持ちがある。が、なかなかうまくいってないみたい。
「一番隊で小隊長は厳しいのかなって」
「それはあるかもね」
一番隊には実力者が揃って傾向にある。
その中で上に上がるには、それなりの実力が必要だ。
「二番が三番隊に転属したら?」
「うーん…」
ロキから返事は返ってこない。
やっぱり一番隊がいいのかな。
「一番隊にこだわってたら、今のままかもしれないよ」
「こだわってるわけじゃないんですけどね…」
ロキにだってプライドはある。
あたしはこれ以上話すのやめて、話題を変えて話しつつ警備課へと向かった。
あっちこっち曲がって警備課へ到着。
「あそこですね」
警備部と書かれた立て札とドアプレートが見えた。
警備部は城内と宮殿の警備を担ってる部署。
いつもの詰め所があり、兵士が常駐してる。
ここは、本部ってことになるのかな?。
城門のいた衛兵も警備部の所属だったはず。
中に入る。
忙しそうに、事務官達が動き回っていた。
「何か御用でしょうか?」
「ああ。これを」
入口付近のカウンター越しに騎士長が書いてくれた紙を渡す。
「来客用の許可札ですね」
一旦離れる事務官。
「ロキ、ありがと。もういいよ」
「はい。それじゃあ帰ります」
「ああ。武運を祈ってるよ」
「どうもです」
ロキは、あたしと拳を合わせ去っていく。
「これに所属と氏名と」
渡れた書類に書き込み、事務官に返す。
「シュナイツ領、竜騎士隊、ヴァネッサ・シェフィールド様ですね」
「はい」
事務官がまた引っ込む。
奥にいる誰かに渡し、受け取った者がさらに誰か渡しに行く。
「少々お待ちください」
「はい」
ややしばらく待つ。
「お待たせいたしました」
事務官から許可札をもらう。
手のひらサイズの木札。
何か模様書かれているが、意味は分からない。
それを首から下げる。
「これで宮殿に入ることはできません。城内のみです。」
でしょうね。
「今日限定のものですので、必ず返却してください」
「はい」
他にもいくつか注意事項を聞いてから、廊下へ出た。
さてと、まずは誰に会おうかな…。
「ヴァネッサ!?」
「え?」
Copyrightc2020-橘 シン




