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ブレイバーズ・メモリー(3)   作者: 橘 シン


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30/77

25-5


「お兄さんには、会いにいくの?」

「その予定はありません」

 

 今朝の朝食時、リアン様との会話。


「会わないんだ…」

 

 リアン様は、私を気遣ってくれたのだろう。しかし、兄には、まだわだかまりが残っている。


 子供の頃の思い出、その時の言いようない悲しみは、薄れる事はあっても、消える事はないだろう。


 王都で私を見つけてくれた事、シュナイツに送り出してくれた事に感謝は、している。


 数度、手紙をやり取りしたが、最近は送っていない。あちらからも来ない。

 


 とりあえず、マリーダさんの所へ向かった。


 マリーダさんのお店に行くのは初めて。楽しみでもある。


 お店の詳しい場所はウィル様に教えてもらった。


「ここを曲がれば…」


 あった。

 

 生地屋フィーゴ。


 入り口のドアには商い中の札が下がっている。


 店内には数人の客がいて、商品を選んでいるようだ。



「派手なのが嫌なら、こっちほうが落ち着いていて、いいと思いますよ」

「ああ、良いねえ」


 マリーダさんが、客相手に接客している。


 そんな彼女が、私に気づき驚く。


「エレナ!なんで!?」


 客が声を上げたマリーダさんに注目する。


「あ、すみません…何でもないです…ごゆっくりどうぞ」


 そう言いつつ、私に手招きする。



「お久しぶりです」

「ええ。いきなり現れるから、びっくりしちゃった」

「すみません」

「いいのよ。奥で待っててくれる?」

「はい」


 私は、店の奥にある椅子に座った。


 マリーダさんは数人の客を一人で対応する。

 たしか、マリーダさんの雇い主がいたはずだけれど、今はいない。

  


「ありがとうございましたぁ。またのお越しを!」


 最後の客が去り、マリーダさんはふうっと、息をつく。


「お疲れ様です」

「ふふっ。午後のほうが混むんだけどね」

「そうですか」

「そんな事より、どうしたのよ?シュナイツを追い出された、わけじゃないよね?」

「色々所用がありまして…」

 

 マリーダさんに事情を説明した。


「嘘でしょ?魔法で王都まで来たの?」


 かなり驚いていた。


「それで、解決したわけ?」


 私は首を横に振る。


「あらら…」

「自業自得でもあるので、仕方がないです」

「諦めちゃだめよ?」

「はい」

 

 そのつもりはないが、滞るのは確実だ。



「もう昼ね。昼食は食べた?」

「いいえ」

「じゃあ、食べに行きましょう」

「お店のほうは?」

「大丈夫よ」


 どうするのかと思えば…。


 休憩中の札を下げるだけだった。


 

 マリーダさんともに、お店を離れる。


「ヴァネッサも来ているんです」

「そうなの?どこに行ってるの?」

「城です」

「ちょっとぉ…普通、友達の所が先じゃない?」

「私も古書店が先でしたけど」

「それは外町でしょ?ヴァネッサは、城下町を通るんだから、こっちが先でも…ね?」

「そうですね…後で来るのかもしれません」

「来なかったら、もう手紙送らないわ」


 ヴァネッサ…来ないと友人を失う。 


 

 マリーダさんと一緒に昼食を食べた店は、穴場らしい。


「城下町で、この価格で食べられるのはあまりないのよ」


 彼女曰く、コスパがいい、と。


 確かに美味しく、量もすこし多めな気がする。


 奢られるつもりはなかったが、アスカの言葉を思い出す。


 (向こうは好きで世話しとるさかい、甘えとけばええねん)


「わたしが奢ってあげるね」

「はい。ありがとうございます」

「ずいぶんと素直じゃない?」

「アスカが、マリーダさんには甘えておけばいいと」

「そう」


 彼女は嬉しそうに頷く。


「でも、いつかはお返しをしたいです」

「ええ。待ってるわ」


 食事が終わり店を出る。


 

 大きな通りの手前で足を止めた。


「ここで」

「うん」

「ごちそうさまでした」

「いえいえ。これから宮殿に?」

「いえ…兄の所に行こうかと…別に行かなくてもいいんですが」

「そういう事言わないの」


 そう言って頬をつまむ。


「たった一人の肉親なのよ。色々あったけど、あなたを助けてくれたんでしょ?」

「はい」

「それで御破算。これからいい関係を築かないと。それをできない人もいるんだから…」


 マリーダさんには肉親はいない。


 私は幸運なのかもしれない。


「わかりました」

「うん。じゃあね」

「はい」

「ウィルとリアンによろしく」

「ヴァネッサには?」

「知らな~い」


 そう言って手をヒラヒラさせて、マリーダさんは去っていった。


 

 兄の自宅へと足を向ける。


 私がいた時と、ちょっと風景が違う気がする。


 あったものがなく、ないかったものがある…気のせいか。


 いつまでも同じではないのは、人を同じようだ。


 

「…」


 自宅前。


 ここだったはず…。


 この辺は似たような集合住宅があり、たまに間違える事があった。


 部屋番号は合っているが、来る事は言っていない。


 まあ、いなければ立ち去るだけ。むしろ、そのほうがいい。


 何を話せばわからないし。


 

 私はノックもせずに、ドアをそっと開けた。


 カギがかかっていない…という事は…。



「いっらっしゃいませー」


 突然、女性の声が聞こえた。


「え?…」

「はい?」

「すみません。部屋を間違えました」

「いえいえ。この辺似た建物がありますから」


 私は会釈し、外へ急いで出る。


 いやいや、誰?。


 部屋は間違っていない。

 

 そもそも部屋番号のしたに名前がある。フォートナーと。


 若い女性だった。私とそう違わない。


 私はもう一度、中へ入った。


 中に入ると、女性が不思議そうに見る。


「なにか御用ででしょう?」

「あなた、誰?何故ここにいる?」

「え?…えっと…私は店番で…」


 店番?。


 兄が雇った人?。


「ここの店主…」


 問いただそうとした時、誰かが入ってきた。


「どうも~」

「いらっしゃいませ。あら?」

「いつもの、お願いね」

「いつもありがとうございます。裏口に用意しておきます」

「ごめんね~」

 

 入ってきたのは中年男性。


 この人どこかで…。


「ん?よお!妹ちゃんじゃねえか」

「あ。お久しぶりです」


 兄の知り合いだ。おやっさんと呼ばていたはず。


「久しぶりだな。元気だったか?」

「はい…まあ」

「あの…お知り合いですか?」


 店番の女性がおやっさんに訊く。


「知り合いもなにも、レニーの妹だぜ?なあ?」

「はい」

「ええ!?そうなんですか?」


 女性はカウンターを離れ、こちらに来る。


「はじめまして。クレスタといいます」

 

 そう言って右手を差し出す。


 わけがわからないまま、握手をする。



「レニーはまだ帰ってないのかよ」

「昼食を買いにいったので、もうすぐ帰ってくると思います」


 そう言った時、ドアが開き兄が帰ってきた。


「エレナ?」

「兄さん…」


 懐かしさと嬉しさと、怒りが胸に渦巻く。


「元気みたいだな」

「ええ。一応」


 やっぱり何を話せばいいのか、言葉が出なかった。


「そっけねえなあ!…」

 

 おやっさんがため息を吐く。


「感動の再会じゃねえの?」

「あんたには関係ないだろ」

「まあ、関係ないわな」


 そう言って笑う。


「あい、これ。代金ね」

「はいはい」


 彼は代金を兄に渡し、出ていった。



「どういう事?説明して」

「え?どうって」

「この人は誰?」

「あー」 


 兄は何も言わず、頬を掻く。


「オレさ、結婚したんだ…」

「結婚?」


 初耳である。


「という事は…この人は…」

「そういう事だな。ははは」


 目の前に立つ、真っ白なエプロンを身につけた女性は、兄の妻だった。

 


「いつ?」

「三ヶ月くらい前だっけ?」

「うん」


 女性、えっとクレスタは笑顔で頷く。


「あなたの結婚に興味はないけど…」

「そういう事言うなよ」

「一応、連絡は欲しかった」

「あー…すまん」

「したほうがいいと忠告したんですよ」


 奥さんのほうが、兄よりも気が利く。



「彼女にあの薬を売ってるの?」

「ああ」

「あの薬は、公然と売るものでないと後から知った。非常に恥ずかしい」

「恥ずかしいって、あれを売って、お前を食わしていたんだぜ?」

「だから、恥ずかしいと言っている」


 今は、精力剤ではなく、女性用の化粧品が主だと、彼が話す。


「女性相手だから彼女に接客を任せてる」

「さっきのは?」

「さっき?あー、おやっさんか?表じゃ売ってねえよ。声だけかけてもらって、裏口で渡してる。他の人もそう」


 兄の化粧品が、そこそこ話題になってるらしい。


 もう少し良い家に引っ越し考えていると言う。


 そして、兄とクレスタの馴れ初めを聞かされる。

 興味がないので覚えていない。 


 私のほうも自己紹介をしておいた。

 

 魔法士だという事は、兄から聞いていたみたい。

 シファーレン追放の件については話していないようだ。 



「ところで、お前はなんで来たんだ?わざわざ、オレに会いに来た…」

「それはない」

「そうかよ…」

 

 所用で、とだけ話しておく。


「所用ね。シュナイツからじゃ大変だったろ?」

「魔法で来たから、そうでもない」


 ちょっとおしりを打ったけど。


「魔法で?マジか?」

「ど、ど、どうやって!?」 

「秘密」

「おいおい。兄貴だぜ、オレは?」

「私は、まだ許していない」

「それはもういいだろう?」


 良くない。大いに良くない。


「時間がないから失礼する」

「全然ないのか?オレはいいから、クレスタとちょっと話していかないか?」

「用事があるなら、無理強いはだめだよ」

「だけど…」


 兄に会いに来たわけじゃないし、顔を見たらすぐに去る予定だった。


「ごめんなさい」

「いえいえ。いいんですよ」

「今度来たときは、必ず話す」

「はい」


 彼女は笑顔で頷いてくれる。


「彼をよろしく」

「はい。任せください」


 兄にはもったいないくらいの女性だ。


「それじゃ」

「ちょっと待ってください」


 クレスタは、私を呼び止めてカウンターへと向かう。

 そして、何かを持ってきた。


「いいよね」

「ああ」

 

 兄に了解を得て、その何かを渡される。


「これは?」


 透明な液体が、ガラス瓶に入っていた。


「精力剤?」

「じゃねえよ!」

「保湿オイルです」

「保湿?」

「お肌の感想が気になりませんか?これを使えば、プルプルしっとり、ですよ」


 あまり気にしたことはないけど、一応もらっておく。


「朝晩二回少量を手のひらで伸ばして、顔や気になる所に塗ってください」

「わかった」


 兄とクレスタに見送られ、その場を去る。


 クレスタが、私が見えなくまで、手を降ってくれていた。


 

 私は西の城門へと急ぐ。 


Copyrightc2020-橘 シン


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