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ブレイバーズ・メモリー(3)   作者: 橘 シン


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25-4


 ノアール様の発言に戸惑い、言葉を失う。


「言っている意味はわかるな?」

「は、はい。それで成功したのですか!?」


 私は身を乗り出す。


「だから、言ったであろう。大失敗したと」

「…はい」

「失敗した結果、多大な魔法力を失った…」 


 ノアール様は、大きく息を吐く。


「しかし、魔法力は回復します」

「と、わしも思ったのだがな…最初の限界突破前程度しか戻らんようになってしまった」

「そんな…」

 

 今のノアール様は、リサ達とさほど変わらない魔法力しかない。


「こんな失敗したわしが、人に教えるなど…恥ずかしくてできんわい」

「…」


 私は何も言えなかった。


 もしかしたら、私も同じように魔法力を失っていたかもしれない。そう思ったから。



「まあ、研究だけはひっそりと続けていたがな」


 そう言って分厚い本を叩く。


「そこでだ」

「はい」

「この本をお主に託そうと思う」

「私に、ですか?」


 ノアール様は頷く。


 いきなりで意味がわからかった。


 初対面である私に、研究の成果を託そうするノアール様の考えが。


 しかし、この本の内容には興味ある。

 

 かつて、魔道士まで上り詰めたノアール様が書かれた本。

 私の知らない魔法が書かれいるはず。


 私は生唾を飲み込んだ。



「何故、私に?先程の魔法士でもいいのではありませんか?」

「あいつでは、読み解く事はできん。宝の持ち腐れだ」

「私が読み解ける証拠もないと思いますが?」

「お主はわしと似てる。同じ失敗をしているし。それにシファーレンの研究所にいた。あそこは容易には入れん。ということは相当な才能があると見た」

「過剰評価です」


 ノアール様は笑うだけ。


「まあいいから、ちょっと読んで見ろ」

「はい。少しだけ…」


 私は研究本の表紙をめくる。


 そこには魔法陣が描かれており、その下に文章がある。


「汝の魔力により封印せしめし…封印の魔法陣、ですか」

「うむ。やはり古代語は、読めるようだな」

「はい」


 古代語とは古い言葉の一つ。


 今広く使われているものとそう変わらない。


 古代語を簡略化したものが、広く伝わった。


 研究論文は古代語で書くのが慣例となっている。


 わざわざ習う必要ないが、魔法士であれば習うのが普通である。



「この魔法陣に、お主の魔力を注げば、お主しか本を開く事はできない」

「今はどうなっているのですか?」

「今は誰でも読める」


 封印しなければいけないほどの論文なのだろうか?。


「少し読んでも構いませんか?」

「構わんよ」


 私はそっと一枚ページをめくり、目を走らせる。


「え?これは!?」


 内容に驚き、すぐに本を閉じた。


「どうした?」

「どうした?…これは禁忌の魔法です!」

「いや、違う。禁忌ではないのだ」

「いえこれは…」


 私は禁忌な魔法として習った。



「何をもって禁忌とする」

「何を…危険だからでは?」

「何がどう危険か、考えた事はあるか?」

「禁忌の魔法はどれも強力で、扱いが難しく、ともすれば世界そのものを破壊してしまうものと。それ以外にもありますが、人が扱ってはいけないもの」

「うむ。戒めだな」


 しかし、ノアール様は禁忌の魔法を研究し論文として記した。


「禁忌だからと、遠ざけては得るものはない。禁忌を理解し、読み解く事で、違う見方ができるのではないか?」

「禁忌の中からですか?」

「わしは、禁忌の魔法を推奨してるわけではない」

 

 当然である。


「禁忌の魔法がどのようなもので構成されているかを、研究してきたのだ」


 なるほど。

 

「それがこの本に?」

「この本に書いたものは、ごく一部に過ぎん」

「一部…」


 一部というが、相当な量だ。



「禁忌を扱っているから、封印が必要なのですね」

「さすがにな…見せびらかしていいものではない」

「そのようなものを、私に預けるのもどうかと思いますが…」

「お主は、魔法を扱う上での難しさや危険を理解している」


 それは、身を持って知っている。


「だから、お主に預けたい。わしは人を見る目があるから心配せんでもよい」

「…」


 ノアール様の表情は真剣。


 初対面である私を理解し、その上で預けるという。



「燃やそうとも考えたのだが…」


 そう言いながら、本を撫でる。


「愛着が湧いてしまってな」


 長年かけて研究してきたものだ。


 愛着が湧かないわけがない。



「わかりました。私でよければ…」

「うむ。頼むぞ」

「はい」


 私は封印の魔法陣に、自分の魔法力を注ぎ、本を閉じた。


 これで私にしか本は開けない.


「これでやっと肩の荷がおりたわい」


 そう言って自分の肩を揉む。


 

 鞄を持ってきてよかった。

 

 兄に買ってもらった両肩に背負うもの。

 それとフロシキ。


 私は鞄からフロシキを取り出し、魔法書を包む。

 そして、鞄にしまった。



「いくら払えばいいでしょうか?」

「金なんぞいらんよ」

「しかし…」


 さすがにただというわけにはいかない。


「あまり、持ち合わせはありませんが…」

今は、値をつけるような代物でない。価値が出るとすれば、お主が全て読み解き、さらに高みを目指す時であろう」

「高み、ですか?…」

「うむ」


 魔法士と高みとは?…。


「今はわからずとも、いずれ分かる時が必ず来る」


 想像できない。


 将来、私は魔法士としてどんな生き方をしてるのだろうか。


 どんな事を伝える事ができるのだろうか。


 

 鞄を背負う。


 なかなかの重量だ。



「ではな」

「はい。ありがとうございます」

「うむ」


 ノアール様は笑顔で頷く。


「実は気になる事がありまして、お聞きしてもよろしいですか?」

「答えられる範囲でなら」

「はい。禁忌魔法の資料はどこから手に入れたのですか?」

「お主、なかなか痛い所に気がつくのう」


 そう言いながら笑う。


「すみません」

「いや構わんよ。…実はな…研究所の書庫から拝借してきた」


 そう笑顔で話す。


「拝借…それは盗んだというのでは…」

「そうともいう」



 ノアール様は昔、王立の魔法研究所に所属しており、所長も務めていた。


 やっぱりすごい人だった。


 帝国とも戦争で混乱する中、どさくさに紛れ、書庫から資料を盗み…拝借し、誰にも行き先言わず研究所を出たのである。



「戦争には参加したくなくてな」

「それとこれとは違うかと…」

「まあな。研究所の仕事に飽きていたし、いい機会だなと。ごく一部だから、たぶんわからんだろう」


 なんて事を…。


 シファーレンなら重罪、死刑だ。

 王国でも変わらないだろう。


 もしかして、先程の魔法士は、禁忌魔法の資料を取り返そうとしていたのでは…。

 でも、そんな事は話していなかった。



「お主は、転移魔法について調べてるのだろ?」

「はい」

「なら、所長宛に一筆書いてやろう」

「よろしいのですか?」

「いいぞ。今の所長は教え子だしな」


 ノアール様は紹介状を書き始める。


 よかった…。


 ヴァネッサとノアール様の紹介状。これで確実にハーシュ様に会える。

 


「ほれ」

「ありがとうございます」

「それと、これを返しておいてくれ」


 そう言って、重厚な革袋に入った何かを受け取った。


 表面に擦り切れてはいるが、出庫厳禁と書かれている。


「あの、これはもしかして…」

「…」


 ノアールは何も言わずに、口の前に人差し指を立てる。


「わかりました…」


 禁忌魔法の資料の返却。

 

 私はお使いを頼まれたのである。


「すまんの」

「いいえ…」


 紹介状を書いてもらった手前、断る事ができなかった。



「では、失礼します」

「うむ。また機会あったら話そう」

「はい」

「ハーシュに会ったら、高い酒を持って来いと伝えてくれ」

「はい…」


 良い方なのか、悪い方のなのか、分からない人だった。


 

 古書店を後にし、城下町へと向かう。


 まさか、こんな大荷物になるとは思わなかった。


 

 北門は混んでおり、人の流れの乗る。 


 入場料を支払い城下町へ入った.。


 何年ぶりかの王都城下町。


 懐かしさと、辛さが私の胸に去来する。 

 


Copyrightc2020-橘 シン


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