25-2
「ウィル様、王都へ行く許可をください」
「…」
私の言葉に、多目的室が静まり返る。
ウィル様だけでなく、全員が私を見た。
「…えっと…うーん…」
「ダメですか?」
「いや、ダメじゃないけど…いきなりだったから」
ウィル様は食事の手を止め、椅子に座り直す。
「まず、行く理由を聞きたい」
「理由は…」
私は今現在の研究状況を説明した。
「転移魔法は完成目前と、ナミの件か…」
「はい」
「それと王都がどう関係するのかな?」
「王都には古書店があるはずです」
「うん」
「古書店に魔法に関する書物、いわゆる魔法書がないかと…」
「書物ね…」
普通、魔法研究所の研究結果は表に出ることは稀である。
しかし、個人で研究し、それを魔法書として発表する者がわずかながらいると聞いた事がある。
「残念ながら、私の力ではこれ以上の結果は望めません。ですので、他に頼るしか…」
「なるほど…」
「でも、期限は設けてないし、あんたのペースで…」
「すでに一年経過している」
ヴァネッサの言葉に被せるように否定した。
「さすがに、これ以上の時間はかけられない」
「完成目前なのだろう?もう少し頑張ってはどうか?」
「頑張る?何をどう頑張れいいのか、教えてほしい。私はできる限りの事をしてきた。実験と試験を繰り返して…もうこれ以上の成果はもう…。そもそも、私が転移魔法を習わなかったの事が原因で、それは否定できないけど…」
ライアに向かってついまくし立ててしまった。
「すまない…エレナ。君を責めるつもりはないんだ」
「ええ…」
「君は優秀な魔法士だから、普通に完成させるだろうと皆思っていて…」
「私は優秀ではない」
私のどこが、優秀だと言うのか?。
私も転移くらい完成できるとそう思っていた。それば驕りだった。
自分の知識や才能の程度がそれほどではない事を痛感する。
「エレナ、状況は理解した。許可しよう」
「ありがとうございます…」
ウィル様からの許可をいただく。
「ヴァネッサ。あなたにもお願いしたい事がある」
「あたしに?」
「ええ。あなたには、確か王立魔法研究所に知り合いがいると以前聞いた。ウィル様が、王都からお帰りになった時にお話しになっていた記憶がある」
ウィル様が私の言葉に頷く。
「まあ、いるけど?…」
「紹介してほしい」
「そうなるよね…話の流れ的に」
彼女はあまりいい顔をしない。
「あんた、相当切羽詰まってんだね。ファンネリア様にまで頼るなんてさ。二回の限界を突破したプライドはなくなったの?」
「ヴァネッサ。そんな言い方しなくてもいいじゃないか」
「構いません」
そうしなければ、成果は得られない。
プライドなんて、とうにない。
「直接紹介してほしいとまでは言わない。紹介状を書いてくれれば…」
「あたしも行くよ。紹介状なんて面倒くさいし、それに…」
「それに?」
「ちょっと考えがあって…」
「考え?」
「まあ…大した事じゃないから」
彼女は曖昧に答える。
「言えない事?」
「いや 別に…交換訓練をしたいなって」
「交換訓練?」
「一番隊にいた時によくやったんだよ。別隊から数班やってきて、こっちからも数班送って訓練する」
「なるほど、それで交換訓練か…良いんじゃないかな」
「それをシュナイツとどっかの隊とやりたいなって話。非常時じゃないから正規の竜騎士には頼めないから、王都に頼みに行く」
「わかった」
「どうも」
私には、よくわからないが、ヴァネッサも王都に行ってくれる事になった。
「いきなり行っていいわけ?」
「大丈夫じゃない?」
リアンの懸念には特に気にする様子はない。
門前払いになる場合もある、
「それじゃ、エレナとヴァネッサが王都にっと…竜で行くから…一ヶ月はかからないか…旅費は…」
ウィル様は、テーブルの叩きながら、費用を見積もる。
「ウィル様。転移魔法を使うので、費用はかかりません」
「え?ああ…そうか、そうだよね」
「ちょっと待ちなよ」
ヴァネッサが私に話しかけきた。
「完成していないって話じゃなかった?使っちゃマズイでしょ」
「転移すること自体に問題はない。転移先で不備が起こる可能性がある」
「ならダメでしょ」
「イヒヒ」
話を聞いていたミャンが笑ってる。
「よかっタ~。アタシも行きたかったんだけど、やめるとくネ~」
来なくていい。本当に。
「死ぬ事はない」
「当たり前だっての!」
「軽症程度はあるかもしれない」
「軽症って…」
「アハハ!」
「ミャン。笑いすぎだ。やめたまえ」
「構わない」
ヴァネッサは腕を組み、目を閉じる。
「費用がかからないなら、魔法で行ってほしいけど…」
「ねえ、エレナ。軽症って、どの程度なの?」
「はい。軽い打ち身くらいかと」
「打ち身ね…」
リアン様が苦笑いを浮かべつつ、そう呟く。
「わかったよ…あたしも興味あるし、転移魔法で行ってやろうじゃないの」
「ありがとう」
という事で、ヴァネッサと王都に向かう。
翌日。
「これ、書物代ね」
「はい。ありがとうございます」
本来なら、自分で出すべきだが、手持ちはない。
水晶が一つ残っていたので、それも一応持って行く。
転移魔法を使うため、場所を空けてもらう。
「そんなに広い場所は必要ない。私とあなた二人だけだから」
「そう…」
ヴァネッサは、彼女らしくない緊張した表情。
「ヴァネッサ。手紙をよろしく」
「あー、はいはい」
準備が整う。
「では、行ってきます」
「うん。気をつけて」
「どう気をつければいいのか、わからないけどね…」
ヴァネッサはそう言って、大きく息を吐く。
ウィル様から離れ、広場に中央に立つ。
「このあたりで。動かないように」
「あいよ」
私は魔法の杖を胸の高さに掲げ、転移魔法の準備をする。
魔力を調整し、発動させ…。
「ちょっと待った!」
ヴァネッサが止めに入る。
「転移先の不備ってどういうの?」
「それは…地面に埋まってしまう、腰くらいの空中になってしまう、等…」
「埋まるのと、空中ね…埋まってたら、あんたなんとかしてくれるんだよね?」
「もちろん、対処する。安心して。それでは、いい?」
「ああ、いいよ」
彼女は左足を半歩引き、腰を少し落とす。
私は、転移魔法を発動させた。
周囲が一瞬、閃光に包まれる。
そして、私達は転移先に飛ぶ。
「おっ…と」
「っ!…」
転移先は空中で、私はおしりから地面に落ちてしまう。が、今回は障壁を展開してので、さほど痛みはない。
咳払いともに立ち上がり、土誇りを払う。
ヴァネッサは転んでおらず、周囲を見ましている。
「なんか…注目されてるけど?…」
「ええ」
注目されて当然である。
閃光ともに人二人が現れたのだから。
「普通に、何でもない風を装って」
「あー…うん。多用はできないね」
「転移先を工夫しないといけない」
私達が転移したのは、王都の北西。
できるだけ人がいない所を選んだが、王都周辺では限界がある。
「で、どうする?古書店がある所は知ってるの?」
「知らない。とりあえずギルドへ向かう」
「そうだね」
まずは外町のギルドへ。
「あたしは、先に宮殿に行こうかな」
彼女の目的は、竜騎士隊の交換訓練の相談である。
「マリーダの所に行ってから、宮殿に向かう」
「なら、手紙を預かる」
「頼むよ」
手紙と代金を預かった。
「終わったら、西の城門に来て」
「いいけど、ただ行けば入れる?」
「話は通しておくから、大丈夫」
「了解した」
「じゃあ、よろしく」
私はヴァネッサと別れ、ギルドへ向かった。
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