24-11
マリ姉達との別れ時間。
商人だったら、比較的会えるし、別れは辛くない。
でも、今は…
「…」
マリ姉達が出発の準備している光景を黙って見ていた.。
「ウィル」
「ん?」
「なんでもない…」
リアンは、僕の気持ちを察してくれているのだろう。
そもそもマリ姉達を呼んだのは、会うためではない。
物入りであるシュナイツのためだ。
大きな町から遠いシュナイツでは、必要だからとすぐに買い物に行けるわけじゃない。
わざわざ来てもらわなければいけない。
「エレナが…」
「え?」
「エレナが、転移魔法の研究をしてるわ。完成すれば、いつでも会えるんじゃない?」
「うん、そうだね」
エレナの研究は少しづつだが、進んでいる。
大体、今生の別れではないんだ、
何を悲観的になっているんだ、僕は。
出発の準備が終わり、別れの時間となる。
「じゃあね、ウィル」
「うん。マリ姉、ありがとう」
ここまで来るには、日数かかったし、感謝しかない。
「無理は禁物よ」
「わかってる。マリ姉も」
「ええ。それから…」
そう言って僕に耳元に近づく。
「リアンを泣かせちゃダメよ…」
「え?」
思わず、リアンを見るが、彼女は不思議に僕をマリ姉を見てるだけ。
「ふふっ」
マリ姉は笑顔を向けるだけで、それ以上は言わない。
もしかしてリアンとの事、バレてる?
今まで通りを心がけていたはずだけど…。
「手紙、書いてね」
「それはもちろん」
「業務報告みたいな文はやめなさいよ」
「そんなつもりはないけど?」
「なってるから。あなたの気持ちをちゃんと、書きなさい」
「はい…」
普通の文を書いていたと思ったけど…。
「ヨハンさんにもよ」
「わかってる」
送っているが、返信に相当な日数がかかる。
返って来てもそっけないし…僕よりそっけないと思う。
マリ姉は僕から離れ、リアンの元へ。
彼女を連れ僕から距離を取る。
二人で何かを話し込む。
時折、リアンが僕を見て顔を赤くする。
マリ姉、何話してんだよ…。
「自分の気持ちに嘘はつかないで」
「はい」
「あなたの人生なんだから、あなたの気持ち次第でどうにでもなる。忘れないで」
「はい」
リアンは笑顔で頷き、マリ姉は彼女を軽く抱きしめた。
そして、エレナの元へ向かう。
「なんの話?何か言われた?」
「別になにも」
「ほんとに?」
「ええ」
何も言われてないわけじゃないが、リアンは答えてくれなかった。
「ジョエル。ありがとう」
「おう。なんてことないさ」
薬は食料品と同じくらい必要なものだ。
「また来るから」
「ありがとう。でも、最優先じゃなくていい。君は損をするようなら来なくてもいいから」
「わかってるって」
ユウジとタイガに、用を頼む選択肢もある。
「ここには、綺麗所が多いじゃねえか」
彼は小声で話す。
「それが目的?」
「いや」
ジョエルは意味深な笑顔を見せる。
「がんばれよ。俺には…いや、俺達にはできない事をやってるんだ。誇りに思う」
「今でも必死だけどね」
「いいんだよ、それで。こうしてシュナイツは成り立ってる。結果が出てるぜ。自信をもっていい」
「うん」
彼は笑顔で僕の肩を叩く。
「ナシル補佐官、彼をよろしく」
「はい」
リアンには丁寧に礼をする。
「じゃあな。ウィル」
「ティオ、キース。二人もありがとう。すごく助かった」
「こっちもいい取引ができたから.、礼を言わせてもらうよ」
「おれは、半分興味本位だから、楽しませてもらったぜ」
キースに支払った金額は多くはない。
帰りの旅費があればいい。という事だったけど、そういうわけにはいかないから、それなりの金額を支払った。
他の三人に比べたら儲けは少ないだろう。
「また安く仕入れができてたら、来ようと思う」
「ありがとう。でも、無理する必要はないからね」
「ああ、わかってるさ」
ティオもそうだけど、皆ちゃんと変頑張ったりはしない。
生き急いでも、良い事はない。
僕はちょっと無理しちゃうけど…。
「ライノ!ミレイ!先に行って様子を見てきな!」
「「了解!」」
ヴァネッサの命令で、ライノとミレイが門から出ていく。
いよいよ出発か…。
マリ姉達はそれぞれの荷馬車に乗り込む。
キースだけは、マリ姉の荷馬車に乗り込んだ。
僕とリアンは門まで見送る。
「マリ姉…気をつけて」
「ええ」
彼女の笑顔で頷く。
「次会えるの楽しみにしてるわ」
「うん…」
「そういう顔しないの」
「わかってる」
したくてしてるわけじゃない。
「マリーダさん、お元気で」
「お姉さんは、元気が取り柄だから。あなたも体には気をつけてね」
「はい」
マリ姉は馬に鞭を入れ、進み始める。
「ウィル、じゃあな。たまにいいから手紙くれ」
「ああ。必ず書くよ」
去り際にキースと拳を合わせた。
「ジョエル。本当にありがとう」
「ああ。薬で困ったことがあったら手紙くれ。いつでも相談に乗るぜ」
「うん」
ジョエルから心強い言葉を貰う。
「あー、それから…」
「さっさと行きなよ!」
ヴァネッサが後ろから、進むように言われる。
「いいじゃねえかよ!」
「前と離れてるでしょ」
「はいはい…あれで、隊長だってんだからすげえよ」
「全部、聞こえてるよ!」
「わかったよ!…」
ジョエルはため息をつきながら、馬に鞭を入れた。
「元気でな。無理すんなよ」
「わかってる。早く行ったほうがいいよ」
「ああ。んじゃ、行きますか」
彼の荷馬車が離れていく。
「ぼくは怒られたくないから、すぐに行くよ」
「ああ。ティオ、ありがとう。すごく助かった」
「今度は、お酒を交えて語ろう」
「だね」
「それじゃ」
ティオの荷馬車が行って、それにヴァネッサとスチュアートが続き。
ユウジとタイガも続く。
「マリ姉達の護衛、頼むよ、二人とも」
「はい」
「まあ、任せてください」
二人が出て行って、門が閉じられる。
僕はすぐに警備通路に登り、見えなくなるまで見送った。
もっと話したい事があった。もっと話していたかった。
シュナイツの領主になってから、辛い事はたくさんあったけど、この別れは中々キツイものがある。
今生の別れじゃない。
会いに行こうと思えば、行けなくはない。
その中途半端が、もどかしい。
「ウィル!」
警備通路の下からリアンに呼ばれる。
「朝食、食べましょう」
「ああ。今行くよ」
通路を降りて、館へと入った。
マリ姉達が帰って行って、シュナイツは、いつものシュナイツになる。
「気合いが足りないよ!」
「はい!」
ヴァネッサの怒号が、シュナイツに響き渡邉たる。これも、いつもの光景だ。
それをそばで見ていた。
朝晩の冷え込みが、厳しくなってきた気がする。
もう少しで、冬だ。
「冬の間って、訓練と警備はどうしてるの?」
「警備に関しては、人数は半分になる」
「そう」
「賊も冬の間は、おとなしいし」
そうヴァネッサが話す。
警備が薄くなるの見越して襲撃してくるのではないかと思ったが、そうではないらしい。
「ちょっかい出すだけだね」
「来るには来るんだ」
「領民の食料品を奪い来るのが、たまに。すぐに追い返すけど」
それはやっかいだな…。
「向こうも必死なんだろうけどさ、自分達でどうにしろっての…」
彼女はため息を吐く。
「訓練は?」
「その日による。冷え込みが緩いならやる」
「やはり、時間的には減ってしまうか…」
「だね…通常通りできるならしたいんだけど。しもやけで、剣を握れなくなる事もあるし」
「それは大変だね…」
僕も寒いのが嫌だから、冬は王都より北にはあまりいかなかったな。
「大きな訓練場を作ろうか?」
「良いと思うけど作るったって、どこに作るの?」
「目の前にあるだろう?」
兵舎と館の間には広いスペースがある。
「ここはダメだよ」
「どうして?」
「隊列訓練とか、竜を走らせているんだから」
そうだった。
「じゃあ、外に作ろう」
「いつかね。どうしても必要ってわけじゃないから」
「ああ」
今は領民達の家々を建設中だ。
「ウィル様」
シンディが近づいてくる。
「どうかした?」
「ウィル様宛にお手紙が届いております」
「そう」
彼女から手紙を受け取った。
「誰からだい?」
「じいちゃんとマリ姉からだ」
しかし、この手紙の厚さの違いはなんだ。
じいちゃんのは多分封筒に入ってるのは便箋一枚だろう。
マリ姉のは…。
「こんなに書くことある?」
「知らないよ」
厚さを見たヴァネッサが苦笑いを浮かべる。
その場で封筒を開けた。
「ん?」
封筒の中には、更に封筒が複数入っていた。
「なんだ…一つにまとめてあっただけか」
その封筒の一つは、ヴァネッサ宛になっている。
「マリ姉から君宛だ」
「あいよ。ありがとう」
封筒をヴァネッサに渡し、僕は立ち上がった。
そして、シンディ共に館帰る。
「今日はちょっと多めだね」
「はい」
シンディは大きな封筒を抱えていた。
今日は久しぶりに忙しくなりそうだ。
こういう何でもない平和が、当たり前になってほしい。
ただそれだけいいから。
「マリ姉達が来てくれた時はどんなに嬉しかったか」
「この時ほど友人や人脈が大切か、身にしみてわかったよ」
「ティオは、毎年冬前に必ず来てくれるようになった」
「ありがたいけど、ここまで来ても実入り少ないだろうから、大丈夫なのかなって思うよ…」
「損はしないんでしょう?」
「たぶんね」
「なら、いいじゃない?」
「リアン、商売って難しいんだよ」
「わかってるわよ…」
「今は転移魔法が使えるから、この時ほど苦労はないけどね」
「冬の間は何事もなく平和だったよ」
「心配していた賊も来なかった」
「冷え込みがいつもより厳しかったのが記憶にあるね」
「とにかく寒かった!」
「うん」
「魔法士がいなかったら凍え死んでたかも」
「それは、ちょっと大げさだけど、魔法士がいてよかったよ。ほんと」
「ウィル様」
「やあエレナ、何か用?」
「講演会の報酬を持ってきました」
「報酬か…別にいいのに。前にも言ったけど、君が使えばいいと思うよ」
「特に欲しいものはないので…」
「わかった…いつも通り、半分はシュナイツの収入して、もう半分は君の貯えとしておくよ?」
「それで構いません」
「っと、それから…時期的に、次の取材は君だよ」
「承知いたしました」
「じゃあ、後はよろしく」
「はい。お疲れ様でした」
エピソード24 終わり
Copyright©2020-橘 シン




