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ブレイバーズ・メモリー(3)   作者: 橘 シン


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24-11


 マリ姉達との別れ時間。


 商人だったら、比較的会えるし、別れは辛くない。

 でも、今は…


「…」


 マリ姉達が出発の準備している光景を黙って見ていた.。


「ウィル」

「ん?」

「なんでもない…」

 

 リアンは、僕の気持ちを察してくれているのだろう。


 

 そもそもマリ姉達を呼んだのは、会うためではない。

 

 物入りであるシュナイツのためだ。


 大きな町から遠いシュナイツでは、必要だからとすぐに買い物に行けるわけじゃない。


 わざわざ来てもらわなければいけない。



「エレナが…」

「え?」

「エレナが、転移魔法の研究をしてるわ。完成すれば、いつでも会えるんじゃない?」

「うん、そうだね」

 

 エレナの研究は少しづつだが、進んでいる。


 大体、今生の別れではないんだ、

 何を悲観的になっているんだ、僕は。


 

 出発の準備が終わり、別れの時間となる。



「じゃあね、ウィル」

「うん。マリ姉、ありがとう」


 ここまで来るには、日数かかったし、感謝しかない。


「無理は禁物よ」

「わかってる。マリ姉も」

「ええ。それから…」


 そう言って僕に耳元に近づく。


「リアンを泣かせちゃダメよ…」

「え?」


 思わず、リアンを見るが、彼女は不思議に僕をマリ姉を見てるだけ。


「ふふっ」

 

 マリ姉は笑顔を向けるだけで、それ以上は言わない。


 もしかしてリアンとの事、バレてる?


 今まで通りを心がけていたはずだけど…。



「手紙、書いてね」

「それはもちろん」

「業務報告みたいな文はやめなさいよ」

「そんなつもりはないけど?」

「なってるから。あなたの気持ちをちゃんと、書きなさい」

「はい…」


 普通の文を書いていたと思ったけど…。


「ヨハンさんにもよ」

「わかってる」


 送っているが、返信に相当な日数がかかる。


 返って来てもそっけないし…僕よりそっけないと思う。


 

 マリ姉は僕から離れ、リアンの元へ。


 彼女を連れ僕から距離を取る。


 二人で何かを話し込む。


 時折、リアンが僕を見て顔を赤くする。

 

 マリ姉、何話してんだよ…。



「自分の気持ちに嘘はつかないで」

「はい」

「あなたの人生なんだから、あなたの気持ち次第でどうにでもなる。忘れないで」

「はい」


 リアンは笑顔で頷き、マリ姉は彼女を軽く抱きしめた。

 そして、エレナの元へ向かう。


「なんの話?何か言われた?」

「別になにも」

「ほんとに?」

「ええ」


 何も言われてないわけじゃないが、リアンは答えてくれなかった。



「ジョエル。ありがとう」

「おう。なんてことないさ」


 薬は食料品と同じくらい必要なものだ。

 

「また来るから」

「ありがとう。でも、最優先じゃなくていい。君は損をするようなら来なくてもいいから」

「わかってるって」


 ユウジとタイガに、用を頼む選択肢もある。


「ここには、綺麗所が多いじゃねえか」

 

 彼は小声で話す。


「それが目的?」

「いや」


 ジョエルは意味深な笑顔を見せる。


「がんばれよ。俺には…いや、俺達にはできない事をやってるんだ。誇りに思う」

「今でも必死だけどね」

「いいんだよ、それで。こうしてシュナイツは成り立ってる。結果が出てるぜ。自信をもっていい」

「うん」


 彼は笑顔で僕の肩を叩く。


「ナシル補佐官、彼をよろしく」

「はい」


 リアンには丁寧に礼をする。


「じゃあな。ウィル」


 

「ティオ、キース。二人もありがとう。すごく助かった」

「こっちもいい取引ができたから.、礼を言わせてもらうよ」 

「おれは、半分興味本位だから、楽しませてもらったぜ」


 キースに支払った金額は多くはない。


 帰りの旅費があればいい。という事だったけど、そういうわけにはいかないから、それなりの金額を支払った。


 他の三人に比べたら儲けは少ないだろう。



「また安く仕入れができてたら、来ようと思う」

「ありがとう。でも、無理する必要はないからね」

「ああ、わかってるさ」


 ティオもそうだけど、皆ちゃんと変頑張ったりはしない。


 生き急いでも、良い事はない。

 

 僕はちょっと無理しちゃうけど…。



「ライノ!ミレイ!先に行って様子を見てきな!」

「「了解!」」

 

 ヴァネッサの命令で、ライノとミレイが門から出ていく。


 いよいよ出発か…。


 マリ姉達はそれぞれの荷馬車に乗り込む。


 キースだけは、マリ姉の荷馬車に乗り込んだ。


 僕とリアンは門まで見送る。


「マリ姉…気をつけて」

「ええ」


 彼女の笑顔で頷く。


「次会えるの楽しみにしてるわ」

「うん…」

「そういう顔しないの」

「わかってる」


 したくてしてるわけじゃない。


「マリーダさん、お元気で」

「お姉さんは、元気が取り柄だから。あなたも体には気をつけてね」

「はい」


 マリ姉は馬に鞭を入れ、進み始める。



「ウィル、じゃあな。たまにいいから手紙くれ」

「ああ。必ず書くよ」


 去り際にキースと拳を合わせた。



「ジョエル。本当にありがとう」

「ああ。薬で困ったことがあったら手紙くれ。いつでも相談に乗るぜ」

「うん」


 ジョエルから心強い言葉を貰う。


「あー、それから…」

「さっさと行きなよ!」


 ヴァネッサが後ろから、進むように言われる。


「いいじゃねえかよ!」

「前と離れてるでしょ」

「はいはい…あれで、隊長だってんだからすげえよ」

「全部、聞こえてるよ!」

「わかったよ!…」


 ジョエルはため息をつきながら、馬に鞭を入れた。


「元気でな。無理すんなよ」

「わかってる。早く行ったほうがいいよ」

「ああ。んじゃ、行きますか」


 彼の荷馬車が離れていく。



「ぼくは怒られたくないから、すぐに行くよ」

「ああ。ティオ、ありがとう。すごく助かった」

「今度は、お酒を交えて語ろう」

「だね」

「それじゃ」


 ティオの荷馬車が行って、それにヴァネッサとスチュアートが続き。

 ユウジとタイガも続く。


「マリ姉達の護衛、頼むよ、二人とも」

「はい」

「まあ、任せてください」


 二人が出て行って、門が閉じられる。


 僕はすぐに警備通路に登り、見えなくなるまで見送った。



 もっと話したい事があった。もっと話していたかった。


 シュナイツの領主になってから、辛い事はたくさんあったけど、この別れは中々キツイものがある。


 今生の別れじゃない。


 会いに行こうと思えば、行けなくはない。

 その中途半端が、もどかしい。

 


「ウィル!」

 

 警備通路の下からリアンに呼ばれる。


「朝食、食べましょう」

「ああ。今行くよ」


 通路を降りて、館へと入った。

 


 マリ姉達が帰って行って、シュナイツは、いつものシュナイツになる。



「気合いが足りないよ!」

「はい!」


 ヴァネッサの怒号が、シュナイツに響き渡邉たる。これも、いつもの光景だ。


 それをそばで見ていた。



 朝晩の冷え込みが、厳しくなってきた気がする。


 もう少しで、冬だ。



「冬の間って、訓練と警備はどうしてるの?」

「警備に関しては、人数は半分になる」

「そう」

「賊も冬の間は、おとなしいし」


 そうヴァネッサが話す。


 警備が薄くなるの見越して襲撃してくるのではないかと思ったが、そうではないらしい。


「ちょっかい出すだけだね」

「来るには来るんだ」

「領民の食料品を奪い来るのが、たまに。すぐに追い返すけど」 


 それはやっかいだな…。


「向こうも必死なんだろうけどさ、自分達でどうにしろっての…」


 彼女はため息を吐く。



「訓練は?」

「その日による。冷え込みが緩いならやる」

「やはり、時間的には減ってしまうか…」

「だね…通常通りできるならしたいんだけど。しもやけで、剣を握れなくなる事もあるし」

「それは大変だね…」


 僕も寒いのが嫌だから、冬は王都より北にはあまりいかなかったな。



「大きな訓練場を作ろうか?」

「良いと思うけど作るったって、どこに作るの?」  

「目の前にあるだろう?」


 兵舎と館の間には広いスペースがある。


「ここはダメだよ」

「どうして?」

「隊列訓練とか、竜を走らせているんだから」


 そうだった。


「じゃあ、外に作ろう」

「いつかね。どうしても必要ってわけじゃないから」 

「ああ」

 

 今は領民達の家々を建設中だ。



「ウィル様」


 シンディが近づいてくる。


「どうかした?」

「ウィル様宛にお手紙が届いております」

「そう」


 彼女から手紙を受け取った。


「誰からだい?」

「じいちゃんとマリ姉からだ」


 しかし、この手紙の厚さの違いはなんだ。


 じいちゃんのは多分封筒に入ってるのは便箋一枚だろう。


 マリ姉のは…。


「こんなに書くことある?」

「知らないよ」


 厚さを見たヴァネッサが苦笑いを浮かべる。


 その場で封筒を開けた。


「ん?」


 封筒の中には、更に封筒が複数入っていた。


「なんだ…一つにまとめてあっただけか」


 その封筒の一つは、ヴァネッサ宛になっている。

 

「マリ姉から君宛だ」

「あいよ。ありがとう」


 封筒をヴァネッサに渡し、僕は立ち上がった。

 そして、シンディ共に館帰る。



「今日はちょっと多めだね」

「はい」

 

 シンディは大きな封筒を抱えていた。


 今日は久しぶりに忙しくなりそうだ。



 こういう何でもない平和が、当たり前になってほしい。


 ただそれだけいいから。




「マリ姉達が来てくれた時はどんなに嬉しかったか」

「この時ほど友人や人脈が大切か、身にしみてわかったよ」


「ティオは、毎年冬前に必ず来てくれるようになった」

「ありがたいけど、ここまで来ても実入り少ないだろうから、大丈夫なのかなって思うよ…」


「損はしないんでしょう?」


「たぶんね」


「なら、いいじゃない?」


「リアン、商売って難しいんだよ」


「わかってるわよ…」



「今は転移魔法が使えるから、この時ほど苦労はないけどね」



「冬の間は何事もなく平和だったよ」

「心配していた賊も来なかった」

「冷え込みがいつもより厳しかったのが記憶にあるね」


「とにかく寒かった!」

「うん」

「魔法士がいなかったら凍え死んでたかも」

「それは、ちょっと大げさだけど、魔法士がいてよかったよ。ほんと」



「ウィル様」


「やあエレナ、何か用?」

 

「講演会の報酬を持ってきました」


「報酬か…別にいいのに。前にも言ったけど、君が使えばいいと思うよ」


「特に欲しいものはないので…」


「わかった…いつも通り、半分はシュナイツの収入して、もう半分は君の貯えとしておくよ?」


「それで構いません」


「っと、それから…時期的に、次の取材は君だよ」


「承知いたしました」


「じゃあ、後はよろしく」


「はい。お疲れ様でした」



エピソード24  終わり

Copyright©2020-橘 シン

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