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ブレイバーズ・メモリー(3)   作者: 橘 シン


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24-9


 マリ姉達が来た翌日。


 商談の細かい詰めの交渉が行われる。


 詰めのとは言うものの、さして時間がかからなかった。


 初対面ならいざ知らず、付き合いの長い者達ばかり。


 お互いの腹を読むなんて事はせず、ほぼ流れ作業となる。



「では、契約書にサインをお願いいたします」


 シンディが契約書を差し出す。


 普段は契約書は用意しないが、今回は売買金額が大きいので用意した。


「支払いは主に金券を、端数を現金にしたいんだけど、いいかな?」

「わたしは構わないわ」

「俺も大丈夫だ。ティオとキースも大丈夫だよな?」

「ぼくも問題ない」

「おれは半分づつがいいな。適当でいいから」

「わかった。半分づつ用意する」


 お金の用意は、シンディとリアンに任せる事にした。


 

 次は、使用人達の制服を作るためにサイズを測る。

 これに関してはマリ姉主導で行なわれた。


「メイド達から行くわ」

 

 彼女は紙とペン、それからメジャーを鞄から取り出す。


「オーベルさんから」

「はい」


 マリ姉は慣れた手つきで、オーベルさんの肩幅や腕や脚の長さを図り、メモしていく。


「完全なオーダーメイドなのですか?」

「いいえ、違います。ある程度サイズは決まっていて、それを着ていただく事になります」

「なるほど…。確かにそうでしたね。今、思い出しました」


 オーベルさんは笑顔で頷く。


「今測っているのは、サイズを決めるためです」

「マリ姉。みんなそれぞれ体格が違うと思うんだけど、大丈夫?」

「サイズは数種類あるし女性の場合、体格に差はあまりないから大丈夫よ」

「あたしみたいな体格でも大丈夫なわけ?」


 そばで興味深く見ていたヴァネッサがそう話す。


「あなたの場合は特注かもね」

「やっぱ、そう.」

「胸のあたりは特に」

「あー」


 ヴァネッサは心当たりがあるのか、何度も頷く。


「胸に合わせると袖と裾が長すぎるし、腕に合わせたら胸がきつい」

「羨ましいわ」

「そうかい?」

「羨ましいわよね?」


 マリ姉はメイド達に話しかける。


 話を振られた彼女達は苦笑いを浮かべるだけ。


「はい。次~」


 オーベルさんが終わり次のメイドを呼ぶ。


 メイド達は全員揃っていない。


 仕事の合間に測ることになっていた。


「名前は?」

「カリィです」

「カリィちゃんは、ここ長いの?」

「五年くらいだと思います」

「へえ」


 マリ姉は飽きせないように、話しかけながら測り続ける。



「制服って、宮殿で使ってる物と同じって聞いたんですけど、本当ですか?」


 カリィの次にサイズを測ってもらっていたメイドが、マリ姉にそう尋ねた。


「本当よ」

「なんか、すごくない?」


 順番待ちしてるメイドが、制服の話で盛り上がる。


「生地は若干劣るかもしれないけど、デザインは同じ」

「フリルはないから、すっごいシンプルよ」


 宮殿にいた事ある年上のメイドがそう話す。


「確かに可愛さはないかも」


 僕も思い出していた。


「あたしは、もう少しおしゃれでもいいと思うけどね」

「君が着るわけじゃないよ」

「着ないから余計にさ。それくらいしてもいいじゃない?ここでは」

「まあ…うん」


 多分、オーベルさんが許可しない。



「竜騎士って制服ないの?」

「あるよ。儀礼用だけど」

「儀礼用か…今でも持ってる?」

「一応、持っては来た。来たけど、一回も着てない。着る状況がないんだよ」

「確かにないね」


 儀礼用制服を着ないといけない客人は来ないだろうな。



「はい、終わり」

「ありがとうございました」


 メイド達が終わり、次は料理人達だ。



「ウィル様。いいんですか?おれ達のまで」

「ああ。いいんだ」

「エプロンか前掛けだけ新調してくれるだけで、よかったんですが…」

「ついでに新調しようよ。こういう時じゃないとできないから」

「…わかりました」


 そう会話してる間に、マリ姉はグレムのサイズを測っている。


「そもそも料理人達は、制服ないんだよね」


 ヴァネッサの言う通り、料理人達には制服ない。


 白を基調としてるだけで、デザインはバラバラだ。


「そうなんだよ。だから、今回制服を作ろうと思うんだ」

「お金の方は大丈夫なんですか?」

「大丈夫。臨時収入があったから」

「臨時収入?」

「グレム。あんた知らないの?賊の死体を漁ったらそこそこのお金持ってたんだよ」

「死体…そういう事ですか」

「あまり気にしないで」

「はい…」


 グレムはなんとも言えない表情のままサイズを測り終え、次の料理人と交代する。



「マリーダ。あんたは気になる?」

「気にならないったら嘘だけど、仕方ないじゃない?お金に罪はないわけだし」


 お金に罪はないか…。


 まあ言い得てるかどうかはよくわからない。


「所有者は死んでるしさ。いいんだって」


 ヴァネッサが何でもにないように話す。


 この話はもう止めよう。



 料理人のサイズは測り終え、今度はシンディとマイヤーさんの番になる。

 

 シンディはお金の用意をしてるから、マイヤーさんから。

 

「いいスタイルしてますねぇ」

「ありがとうございます。初めて言われました」


 マイヤーさんは僕よりも少し背が高い。


 それでいて等身のバランスがいいように思える。


「昔、モテたんじゃありません?」

「そんな事はありませんよ」


 謙遜なのか、マイヤーさんは笑顔のまま否定する。


「どこぞの貴族のお嬢様と駆け落ちしたんですよね。マイヤーさんは」

「なにそれ?」

「へえ。やりますね」


 初耳のヴァネッサは驚き、マリ姉はさもありなんという表情だ。


「程なくお別れましたが」

「なんだい、そりゃ?」


 事顛末を聞いたヴァネッサがため息を吐く。


「ったく。結局は金か…嫌だねぇ」


 お金、お金言ってる僕らも、正直変わらないと思うけどね。



 マイヤーさんが終わり、最後にシンディにサイズを測る。


「ウィル様。支払金の用意がもうすぐ終わりますので、後ほどご確認ください」

「うん、分かった。ありがとう」


 そう話している間に、マリ姉がサイズを測っている。


「できるだけ凝ったデザインは控えてほしいです」

「そのへんは大丈夫。メイドと同じようにシンプルなデザインよ」

「そうですか」


 シンディには、宮殿の事務方が着てる制服を注文した。



「シンディさん。終わりました」

「はい、ありがとうございます」


 全員のサイズを測り終える。



「これ、かなりの数だね」


 ヴァネッサがサイズが書かれた紙を覗き込む。


「注文量としては少ないほうよ」

「へえ」


 少ないとはいえ、一人四着を作る。


 夏用と冬用を二着づつ。そうすれば洗いがえが可能だ。



「出来上がった制服はどうするわけ?マリーダの店まで取りに行くの?」

「いや。リカシィのギルドまで送ってもらって、取りに行く」

「誰が?」

「ユウジとタイガに頼む予定」

「そう」

「わたしが届けに来てもいいわよ?」


 マリ姉はそう言うが、断る。


「この辺は治安が良くない。一人で来るのは危険だから、ギルドに送ってほしい」


 マリ姉自身の仕事が、制服の輸送で潰れてしまってはいけない。

 

 リカシィまで仕入れに来るとしても、ついでにシュナイツまで…なんて距離じゃない。



「まずはメイド達の分ができたら、送るわね」

「うん」


 ギルドに到着すると、シュナイツに到着したむねの手紙が送られてくる。



「やっと終わったわ…」


 リアンが少し疲れた表情で多目的室に入ってきた。 


「お疲れ様」

「うん」


 彼女はどっかりと椅子に座る。


「じゃあ、確認してくるよ」

「いってらっしゃい」


 シンディが作業に加わっていたし、確認する必要はないと思うが、一応しておこう。




「マリーダ。あんた達は、いつまでいるの?」


 ウィルが多目的室を出て行った後、マリーダに尋ねる。


「明日、帰ろうと思う」

「そう」

「あら、寂しい?」


 マリーダが、わざとらしくあたしの顔を覗き込んでくる。


「あたしは、大丈夫だけど、ウィルはどうだか」

「子供じゃないんだから」

「あんたは、どうなのさ?」


 そう聞かれた彼女は、無言で冷めた紅茶を一口飲む。


「できれば、もう少しいたいけど…そんな暇はない。残念ながら。っていうか、制服の注文受けてるんだから、長居はできないわ」

「確かに」


 商人だもんね。


 何もしないで、生きてはいけない。


 それはあたし達も同じ。



「今日は、ヴァネッサの部屋に泊まらせてもらうから」

「なんだい、いきなり」


 別に構わないけどさ。


「昨日は、リアンだったから」


 リアンを見ると、意味ありげに笑顔を向けてくる。


「わかったよ」


 断る理由はないから、マリーダと一晩過ごすこととなった。 

 

 

Copyright©2020-橘 シン

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